琉球紅型
「柄はどういったものになりますの?」
「今日はそれが本題で。是非ストラさんの好きなものを描きたいなと!」
「そうは言われても……ドレスに絵を書くなんて思ってもみませんので、何がいいのか……」
「動物でも楽器でも風景でも人物でも、何でもありですよ」
「コーディネイトは考えてましたが柄のことまではちょっと想像できていませんの。ルゥバ魔法士はどういった絵柄がお得意ですの?」
「そ、某は二次元美少女を生産しているときが一番幸せですが……」
ストラは首をかしげる。
着物に漫画を描いてはいけないわけではないし、もしかしたらすでに存在するかもしれないが、今回の場面ではストラ本人より着物の方が話題になりかねない。なにか別の題材を……と思い、ふと思い出した。
「そういえばルゥバさん、草花のスケッチやってましたよね」
「あ、あぁ……た、多少は……」
その言葉にストラが目を輝かせる。
「お花大好きです! 小さいものも大きなものも、全て美しくて大好きですの」
「じゃ、じゃあ花でネームを切ってくるんで……」
「そういえばストラさんが考えていたコーディネイトって何?」
「それなんですが」ストラは壁を指差した。「あのブローチは使えるでしょうか?」
それはあの額縁に飾ってあった美しいオリーブグリーンの宝石だった。
「あれを!? 使っちゃていいんですか?」
「クロムスフェーンのブローチで、家宝ですの。我がバドール家は宝石産出の土地管理を国より任されていまして、家業も宝石商です。家名のためにも伝統としても付けたいんですの」
「それなら帯留めにしましょう!」
「オビドメ?」
私は売り飛ばしてしまったのでもう持っていないが、
「お腹の中心あたりにつけるブローチ状の飾りです」
日本でもダイヤモンドやパール、瑪瑙、珊瑚、水晶といった宝石の帯留めは存在する。
当初は帯締めにつまみ細工やチェーンなどの飾りを作ろうと思っていたのだが、そういう伝統があるのならば当然ふさわしい。
「嬉しいですわ! ありがとうございます!」
ストラはブローチが使えるとなってとても安心したようだった。
「じゃあブローチの色を中心に着物の色と、柄を決めましょう」
「そうですね」話がまとまったので私は腰を上げた。「ルゥバさん、じゃあ後はお願いします」
「ちょちょ、ちょっと待って……!」ルゥバが私の袂を掴む。「さ、桜子氏、帰るの!? う、嘘でしょ!?」
「二人で相談したほうがいいでしょ。長くなるだろうし」
「じょ、女子と二人きりは無理だよぅ……!!」
「でも私、もう一軒行くところがあるんです」
「そそそそんなぁ……!!」
「ルゥバ魔法士、よろしくお願い致しますわ」
ストラの方は遠慮なく先程のスケッチに目を落としては早速何かを質問し始めている。
「ぼ、僕、明日には白猫になってると思うよ……!?」
滝のような汗を描いているルゥバをおいてバドール邸を後にした。がんばれルゥバさん、これは仕事なのだから。
着物の方針が決まったら、次はもちろん帯である。
着物が手描きならば本来は帯も手描きにしたいところだが、ルゥバにこれ以上頼むのは稼働時間的にも彼のキャパシティ的にも難しいと判断した。それに、着物と同時進行で仕上がっているというタイムスケジュールが望ましい。
振り袖に使う帯はご存知袋帯。
何だったら袋帯しか見たこと無い人もいるだろう、太くて豪華な帯を半分に折りたたんで使う。帯の中では最も格式が上のものだ。豪華だが、その分重く厚いため結びにくいのが欠点ともいえる。
問題は柄だ。
私は絵が描けないし、とはいえ無地というのはなぁ。豪華なドレスにノーアクセサリーみたいなアンバランス感があるわけで、特に今回はパーティーの趣旨ともずれるしできれば避けたい。
そこで考えた、型染めはどうだろう!
型染めとは型紙に模様を切り抜き、その上から染液で染めて模様を表す方法で、型や染の細かさで目をみはる美しさになる。
京紅型や江戸小紋などが有名だが、私が理想とするのはなんと言っても琉球紅型!
名前で分かる通り沖縄の伝統的な染め物で、南国独特の植物の絵柄や、華やかな色合いは近くで見ても遠くで見ても美しい。以前ネットで着物を閲覧していた時に偶然見つけたこの琉球紅型の鮮やかさと細かさにひと目で魅せられ、図書館でも資料を借りては眺めていた。
そのためには文字通り『型』を作らなければならないが、それが出来る人を私はひとり知っている。
「こんばんは」
「いらっしゃいませ……あれ!? サクラコ!」
レストランの扉を空けると都合よくミゲルが給仕をしていた。一区切りつけると駆け寄ってきてくれる。
「よく来てくれたね!」
「話があるんだけど、仕事終わるの何時?」
「話? あと二時間くらいあるんだけど……」
「じゃあここでごはん食べて、そのあとは外で待ってる」
「う、うん」
今日はレストランで一人飯だ。
ミゲルは足を引きずりながらも狭い店内を駆け回るようにして働いていた。彼の勤労を見習いたい。それなりに楽しそうに見えたのでおこがましくもホッとする。山奥でべそをかいていた夜を過ごして以来、なんとなく保護者のような微笑ましい気持だ。




