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【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
二枚目 振袖
45/181

着物のランク付け

 もう三度目となる応接室に通されると、すでに待っていたストラが立ち上がって招き入れてくれた。

「今回はお引き受けいただき感謝しておりますの」

「こっこちらこそよろしくお願いします!」

「懇意にしていたお仕立て屋には今回は正式にお断りして、お姉様にお願いする一着だけにしましたの」

「え!? 責任が重大すぎる!」

「お値段は材料費と製作にかかった日数を暮らせる分は最低限間違いなくお支払い致します。その他に加算するかは出来上がりで決めさせて下さいませね」

「うぉう……いっ潔い…!」

「正当な報酬が一番いい仕事をしてくれる近道ですから」

 さすがだ。人の動かし方というものがよく分かっている。

 ルゥバは私の後ろに隠れるように(背が高いので全く隠れてはいなかったが)後ろをついてきたが

「あら? ルゥバ魔法士じゃありませんの?」

「はひっ」

ストラに声をかけられて体が跳ね上がる。

「ご存知なんですね」

「国一番の魔法士ですから、もちろん」

 私から改めて紹介し、彼に絵を描いてもらうことを説明した。

「ルゥバさんも交えてデザインについて相談しましょう」



 私は振袖を作りたい旨をストラに話し、振袖がなんたるかもルゥバの図解によって説明した。

「こんなに派手なドレスにしていいものですの……?」

「招待されたパーティーでは主催の意図に沿い悪目立ちしないよう配慮するべきですが、今回はストラちゃんのためのパーティーですから! 目立つくらいが丁度いいですよ!」

 ストラがなるほどと頷く横でルゥバが首をかしげる。

「パ、パーティーに出る着物って”ほうもんぎ”とかって言わなかった?」

「あっそうです。それもある意味正解です」


 着物にはランクがある。

 一般的には訪問着(ほうもんぎ)が一番上、次いで色無地(いろむじ)付下(つけさ)げ、小紋(こもん)となっている。


 訪問着は布もデザインもゴージャスなドレスで結婚式にも参加できる、一番下の小紋はちょっといいレストランには入れる程度のワンピース、と考えていただければ問題ない。

 私が着ているような紬や綿の生地はラフなワンピースなので、格を求められる場にはふさわしくない。逆もしかり。


 この最も格式が高いとされている訪問着だが、なんと大正初期に三越百貨店が開発したニュージャンル。またたく間に流行となり他のデパートも追随したゴリゴリの一大ムーブメント。

 着物のランク付けという概念もこの商業戦略から生まれたと考えていいだろう。このランク付けにどれだけの着物ファンが振り回されてきたことか……。


 複雑にしたのはランクと値段が比例しないことに他ならない。


 たとえば私が羽織(はお)っている南部紫根染(なんぶしこんぞめ)羽織(はおり)だが、南部紫根染の着物というものも当然あって、これのお値段がなんと百万から二百万円! 本来はこの羽織でも相当の値段がするはずで、祖母のお下がりがなければ絶対に着れない貴重な一品だ。

 だが、南部紫根染は一面に同じ模様が連なっている草木染、つまり小紋。どんなに値段が高くても訪問着よりはランクが下がる。


 二百万の小紋の着物より、中古品ポリエステル五千円の振袖の方が格が上という混乱が生じるのだ。

 元の値段がいくらかよりも、絵柄や材質が重要視される世界。


 本来は訪問着で正解である。しかしストラは未婚のお嬢さん。先にも述べてたように振袖は恋愛事の道具として使用していたため、必然的に独身女性のもの。若さを出すためにも華やかさはあったほうがいい。

 振袖は訪問着と同じ最高位の格付けだ。結婚式にも出れるし、お見合いにも着ていける。



「訪問着と振袖の違いは袖の長さ、そして模様の派手さ。では共通の定義は何かというと、絵羽模様(えばもよう)です」

「エ、エヴァ?」

「着物を広げた時にまるで一枚の絵のように連なった模様が描かれているものです。縫い目もまたがって表から裏へそしてまた表へ繋がってて、かつ着たときも美しいんです。衣紋掛(えもんか)けという専用の道具で広げて展示するとそれはそれはもう……!」

「……」

 語りすぎてうっとりする私を二人が遠い目で見始めたので、咳払いで場面を切り替える。


 ちなみに先に述べた小紋は訪問着とは対局で同じ模様が連なっていてる柄を指す。ドットもチェックも花柄もレースもストライプも伝統的な模様もぜーんぶ小紋。

「その絵羽模様をルゥバさんに描いて頂きたいんです」


 『手描き友禅(てがきゆうぜん)』などで名が知られている手作業で描かれた着物の美しさは、着物の知識が全く無い人でも間違いなく息を飲む。


 昨今はインクジェットの技術もとてもよく上質で安価のプリント振袖もたくさんあり、そちらももちろん素晴らしい。実際、京都の着物問屋は手染めとプリントの差別化はせず京都で作られた着物の全てを京友禅として販売している。


 当然今回はインクジェットは使えないという技術面の事情もあるが、プリント着物ではどうしても生地が薄くなりがちなので、せっかく絵師もいるわけだし、長く使える良いものを作りたい。

 ただこれはストラに財力があるからこそできた芸当でもある。


「き、着物一面に一枚の絵柄……!? そりゃ……大変だ……!」

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