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【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
一枚目 白無垢
32/181

背が高い人への着付け

 身長の高いイラールへの着付けには対丈(ついたけ)というおはしょりを作らない着付けをする。アンティーク着物などは丈が短いものが多いからこのやり方は役に立つ。


 しかし二メートルほどあるイラールはそれでも丈が足りないので、下にマキシワンピを着てもらう。これも普段着物で使える技だ。雨の日など足元が悪い時には特に便利だ。


 十五cmくらいワンピースの裾を出すようにして着付け。それでちょうどおはしょりを作らないでやっとバランスが取れる。イラールは腕も長いから長袖のワンピースでちょうどよかった、袖口がカバーできる。

「ここで一度しゃがんで。足はがに股のままで」

「しゃがむ?」

 不思議そうな顔のままその場にしゃがむイラール。

「で、立って」

「ちょっと! なんなんだ今のアクションは!」

 別にふざけたわけではない。帯を巻く前に一回スクワットをすると着崩れがしにくくなる裏技だ。


 帯はうんと可愛くしちゃおう! 時間もあるのでちょっと手がかかるけどめちゃくちゃ派手かわいいスワンペプラム結びだ。

 帯を胴に巻きつけた後、それぞれの端を蛇腹に折って、その畳をくずさないようにそっとばらつかせれば、白鳥の尾のようにふわふわと広がる目立ち度抜群の結び方。本当はこの半幅帯ではなくて芯の入っていない兵児帯(へこおび)で作るともっとヒラヒラふわふわするのだが……いつか兵児帯を作りたいなぁ。


「ど……どうだろうか?」

 部屋には姿見がないので、普段使いの手鏡をあれこれと角度をかえて見る彼女。

「とってもかわいいよ、イラール!」

「ありがとう、サクラコ!」

 私達は顔を見合わせ笑いあった。

「着物ってテンション上がるでしょう!」

「あぁ! この格好でデートに行きたいな」

「着物デートかぁ、いいね!」

「サクラコは国に恋人はいるのか?」

「いない! イラールは?」

「私もいないけど……恋人がいたらいいだろうなと思う時はある」

「どんな人がタイプなの?」

「私はそうだな……こんな仕事をしているが、私生活では誰かを守ったり守られたりするのではなくて、共同で色んな事をやっていけるたくましい人が好きかな」

「それも素敵だね!」

 騎士のイラールよりたくましい人となるとなかなか厳選されそうだが……

「サクラコはどんな人がタイプだ?」

「それも考えたことないけど……年下よりは年上かなぁ?」

「ゼラン神官みたいにハキハキした人と、ルゥバ魔法士みたいにあんまりきつく言わない人だったらどっち?」

「どっちもパスで!」

 二人できゃあきゃあと笑い合って夜ふかし。ゼランがいたらよくそれだけ喋ることがあるなと悪態をつかれるんだろうな。



 翌日。

 ゼランに呼ばれて部屋に行くと彼の小間使いが私の前に布袋を出してきた。ずしりと重い。

「本日までの給金だ」

 一応中身を確認してみると金貨もあった。明らかに想定よりも多い。王宮だから金払いがいいのか、ゼランがチップを上乗せしてくれたのかはよくわからないが、その重みに私は思わず涙ぐんだ。

「よくがんばってくれたな」

「はい……」

 これは私が生まれてはじめて労働で得た賃金だった。


 初任給にしては相当多めだろうが、特殊知識を使ったのでそれなりに多くもらってもという気持ちもあるし、だけど初めてのことでかなり手際が悪かったのに、などと様々な思いが去来して言葉が出ず、ただ深々とお辞儀をしただけになってしまった。大切に使おう。


「ところでだな」ごほん、と咳払い。「お前を側仕(そばづか)えにするよう王宮に申請しようと思っている」

「側仕え?」

「そうだ。お前が望むのならすぐにでも私の部屋の近くにお前の部屋を用意するし、生活用品も補充させよう」

「側仕えってなんですか?」

「私の……世話係だな。衣類の手入れや部屋の掃除、食事の給餌」

「世話係?」

「給料も出るから新しい服も宝石も買えるぞ。休日もやるし、他に希望があれば叶えてやる」

「ん? んー……?」

「お前は私の魔法で召喚されたのだからな。私が生活の面倒を見る責任があると考える」

 思わず腕組みをした。

 先ほどお前が望むのならと言っていた。つまり私が選択していいのだ。

「お断りします」

「えっ……えぇっ!?」

 ゼランは大きくのけぞった。断られるという想定を全くしていなかったようだ。

「私、帰る場所があるんです」

「しかし、私の側にいれるんだぞ!?」

 むしろそれがちょっとめんどくさい。

「側仕えって私がやらなきゃいけないことですか?」

「それはその……っ!」

「私はこの世界では文字も読めないし常識も知りません。秘書なんてどう考えても向いてないですよ」

「……もういいっ! さがれ!」

 ゼランはなぜかプイッとそっぽを向いてしまった。



 そして私は本日王宮を後にする。

 イラールが仕事中なのに門まで送ってくれた。本来馬車で送迎してくれるというが、目立ちすぎるので丁重にお断りして徒歩で帰ることにした。

「次に会うのは婚儀の時だな」

「そうかもしれないけど、私達は会いたくなったら会おうよ」

「そうだな!」そして大きな背丈をぐっとかがめて耳打ちしてきた。「あの布ナプキンとはとてもいいものだな。今度買いに行くから余分に作っておいてくれ」

 笑って親指を立てておく。

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