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【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
一枚目 白無垢
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すっかり忘れていたアレ

 さらにルゥバの仕事が増える。男性用婚礼衣装の完成図を描いてもらったのだ。

「男性は紋付羽織袴といって、長着はだいたい身長と一緒。これに羽織り、今私が着てるものですね、これを追加と、下は袴と言ってスカートの様に見えるけどズボンになっています」

「……こ、これって、紋ってのが入るんじゃなかったっけ?」

「そうなんですよね」これはゼランの担当だ。「両胸と両袖の中心と、背中に一つ、家の紋章が入るのが一般的ですけど、どうしますか?」

「ではリエッテ国の紋章を入れよう」


 色を塗ると騒ぎになった。

「婚礼衣装なのに黒い!?」

「しかもストライプ!!」

「花嫁は清めの色として白ですが、黒も最も格式が高い色です。他国の文化との融合でもあります」

「これは実に新しい、今までの形式とは一線を画する挙式になるぞ! あぁ! 前国王様にもお見せしたかった……!!」

 ゼランが誇らしげだ。前国王様ではなく現国王様に見せてやれよ。

「みんなに伝わってよかった。ルゥバさんが的確に描いてくれるおかげです」

「ま、まぁ多少知ってるし……」こちらの方をちらりと見るが目線は合わない。「さ、桜子氏はその年で着物なんか着ちゃって……どうせ良いところの子なんだろ」

「まさか。一般庶民ですよ」

「だ、だって普通着物なんて着れないよ……」

「祖母にも多少習いましたけどほぼ独学ですよ。無料動画見たり図書館で着付けの本を借りたり。着物も祖母のお下がりばっかりで、自分で買ったのはどうしても必要だった木綿とポリエステルの二枚だけです。どっちも五千円くらいなのでお年玉で払いました。単純に着物が好きなだけです」

「き、着物が好き……?」

「そう。好きすぎてネットで歴史とかも調べちゃって」

「い、いいな。好きなものがあって」

「ルゥバさんも絵が好きなんでしょ。庭でもスケッチしてるって聞きました」

「ス、スケッチは気分転換だから……」

「気分転換で絵描くってよっぽどですよ。絵を描く仕事してたんですか?」

 何気なく聞いた言葉にピクリと体が反応する。

「ま、漫画家になりたくて……」

「あぁ。漫画の勉強してたんだ」

「べ、勉強っていうか、独学で……か、勝手に描いてただけだから」

「漫画描けるなんてすごい!」

「い、一度だけ漫画を持ち込みしたんだけど」

「へぇ! よく聞くやつ!」

「へ、編集がすごいダメ出ししてくるからやめた……」

 それが編集の仕事だろう、と言いそうになったけどこの人の心はポッキー並にぽきっと折れそうなのでやめた。

「そういえば、庭の剪定をしている園芸屋の美少年がスケッチ見たがってました」

「あ、あぁ……ま、前に声かけられそうになったけど、あんなかわいい女の子となんて緊張して喋れないから逃げた……」

「いや、美少年(・・・)!」

「さ、作業は終わったし某はこれで……」

 ルゥバはそそくさとデザイン画に使った木炭と、着色に使った小瓶に入った練絵の具をガチャガチャとかき集めるようにして片付けて、ゼランに一例をしてから広間を出ようとしたところで足を止め、扉に向かって大きな独り言を叫んだ。

「……え!? お、男!?」



 お針子さんたちはやはり基礎知識があるから応用力もすごい。完成予想図に私の拙い説明を少し加えるだけでどんどん理解して作業が進む。この調子なら納期にはなんとか間に合うだろう。

 と安堵し始めた時、すっかり忘れていたアレがやってきた。


 それは、この世界に来て十日目の朝だった。

「んぐっ……!?」

 下っ腹のとてつもない鈍痛で目が冷めた。これは……そういえばそうだったかも!? 下着を見ると出血している。

 まずい、生理だ。最近はそれどころではなかったので気にもとめていなかった。もちろん何の準備もしていない。


「イラールさん! イラールさん!」

元々部屋が近かったのでイラールに助けを求める。

「あるぞ、生理用品」

 イラールは当然慣れたように事も無げに言った。だがその頼もしさにホッとしたのはほんの一瞬だった。

「この足を通すところにも紐のついたパンツ、これで足の根元を縛ってとめて、綿を敷いて、その上にぼろ布を敷く。布と綿は使い捨て」

「……!?」

 私はこの時この世界に来て初めて、死にたいと思った。

 辛かったり寂しかったことはあっても死にたいまで思ったことはなかったのだ。

 だがこれは無理だ。シンクロフィットをよこせなどと贅沢は言わないがボロ布ではいくらなんでも衛生面の不安がある。


 桜子 享年17 異世界にてナプキン拒否で死亡


 ……あまりにも情けない。

 えぇい、ここまで生き延びたのだ、今更そんな死に方してたまるか!

 なければ作れ! これが着物女子の鉄則だ!

 この世界の女性が皆、毎月これほどの不快な思いをしているのも我慢できない。ただでさえ不愉快な一週間なのだ。少しでも楽に過ごせる改良をせねば!

「イラールさん、私に今日と明日休みをちょうだい!」

「シロムクの作業手順は分かってるのでそれはいいだろうが……寝込むのか?」

「それは明日!」

 私の場合は初日の夜から二日目にかけて痛みも出血もズドンとくる。だからギリギリ動ける今日のうちに準備を全てすませるのだ!

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