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【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
着物女子のプロローグ
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まるで……魔法陣

 秋晴れの本日はウールの着物。暑すぎず涼しすぎない秋にぴったりの暖かさだし、洗えるから気楽だ。

 帯は自分で作った半幅帯(はんはばおび)。幅が十五センチほどと細いから結びやすくカジュアルな印象で、長いからかわいい結び方もできる。私の帯は大抵の場合これだ。

 目的はショッピングだからもうちょっと華やかさを出すために羽織も。

 足袋はお花のワンポイント刺繍入のストレッチ足袋。柔らかくって何度洗っても大丈夫。

 そしてお小遣いを貯めて買ったウレタン草履は今日がデビュー! 祖母の草履とは違い軽くてずっと歩いていても足が痛くならない。柔らかい太めの鼻緒にはこちらもお花の刺繍入り。値段も安く神アイテムすぎる。

 髪はハーフアップの夜会巻に、ぴったりと頭にくっつくような手作りリボンボンネ。


 一般的に『着物は三代着れる』というが、祖母の着物を着ている以上、私が三代目なのだ。粗末に扱う気はないが、必要以上に大切にする気もない。この着物は私が着潰して終わり。むしろこれこそが使命だと考えている。

 だいたい祖母と私では身長がかなり違う。現実に三代着るのは相当難しい。桐箪笥(きりだんす)に大切に眠らせることではなく、たくさん着てあげることこそ着物への愛情表現だ。



 本日のショッピングのお目当ては、着物に合うノンホールピアス。ピアスは学校で禁止されているので手軽にできるノンホールピアスは最適だし、樹脂製だと耳が痛くないので最近のお気に入りアイテムだ。

 首元が目立たない着物だとネックレスは使い勝手が悪い(ロングネックレスなら話は別)。結果、どうしても耳や指や手首のアクセサリーが多くなる。


 以前だったらこうしてアクセサリーを選ぶなんてことはなかった。

 しかし店で色とりどり様々な形のビジューやタッセルを見ているとやっぱり心がワクワクする。こんな楽しみ知らなかった。

 こっちは別の着物に合いそうだな。こっちはすごくかわいいけどちょっと高い。


 夢中になって選んでいたとき、ついにその瞬間が来てしまった。

「もしかして……桜子(さくらこ)ちゃん?」

 振り向くと同クラの女子が数人不思議そうに見ている。仲良くも悪くもない絶妙な距離感のグループだ。

 ひえぇ! ついに知り合いに見つかってしまった。

 いつかこんな日がくるだろうと覚悟はしていたものの、実際にこの場になると一気に血流が早くなる。

「今日って結婚式に出てたの?」

「ううん、ショッピング……これ、普段着用の着物だから」

「ショッピングで着物なの!? すごーい!」

 身を固くした私に反し、彼女たちは雪崩を起こした。

「えーっかわいいー! この着物どうしたの!?」

「自分で着れるの!? 羨ましいー!」

「この帯の結び方すごいね! どうなってるの!?」

「もしかしてこの着物に合うアクセサリー選んでる?」

 国会討論のようになだれ込む質問に対し、彼女たちの盛り上がりはどんどん進んでいく。

「えっと……ノンホールピアスを」

「えーっ、それなら羽織の紫と色を合わせようよ!」

「それより帯留めの蝶とセットぽくしたほうがいいんじゃない?」

「あ! それ絶対かわいいやつ!」

 いまだかつて自分を中心にこれほど話題が盛り上がったことなどなかった。若干面食らったところもあるけれど、着物に対して好印象なのは私に対しての好感度が上がったような錯覚で嬉しい。実際一目置かれたような手応えもあった。


 ひとしきり話題が盛り上がった後、明日学校で着付けについて教えてほしいという結論で彼女たちとは別れた。

「つけて帰ります」

と、レジで言ってそのまま渡してもらった耳で揺れるノンホールピアスの存在が、その現実を証明している。



 顔が火照っているような気がして、家に付く前に少しだけ公園で一休みしてから帰宅することにした。

 学校に楽しみな予定ができるなんて初めてだ。まして自分が話の中心になるなんて。なんだかこそばゆくってソワソワする。私の妄想だったのではなかろうか?


 ベンチでペットボトルのお茶を飲み終えて一息つくと、少しだけ気持ちが落ち着く。

 楽しみにしてもいいけど浮かれてはだめ。人の感情など一過性。まして女の子の友達関係は今日は親友でも明日には絶交している可能性がある。

 ニヤニヤする自分を自制しつつふいに目をやると公園の広い場所に何やら模様があるように見えた。

 なんだろう、あれ。

 もうあたりは暗い。昼間に子供が書いた落書きだろうか。


 何を書いているのか見たくてベンチに荷物をおいたままふらふらと近づくと、なかなか大きな地上絵であることがわかった。円形の中に細かく模様や文字のようなものが書かれているが、少なくとも日本語としては成立していない波を打ったような形だ。もう少し俯瞰じゃないと全容がつかめない。


 これはまるで……魔法陣。凝ったものを書いたものだ。へぇ! 最近の子供は絵心あるなぁ。

 意味もなく陣の真ん中に立った瞬間だった。

 辺りが白くカッと光った気がした。


 そうかと思うと、目の前は一瞬で真っ暗になった。

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