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【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
八枚目 レース着物
172/181

デート

 私とスルーフはマダムヴェルのコンサートに揃って行くことにしていた。

「サクラコ、私はまだちゃんと着物を着ていないの。着てみたいわ」

「そっか……そうだったね」思えばスルーフには色々と伝授してきたけれど、本人には花魁風の着こなしアレンジをしただけだった。「じゃあ、今日はスルーフは浴衣を着よう!」


 私は変わらず木綿の着物、スルーフには襦袢付きでの着物風浴衣にする。本当はコンサートならば正絹の小紋を着たいが、今回はこれで手を打つ。

 私が先導する形で一緒に自装する。スルーフもまだまだスムーズではないにしろ、着付けの大筋はできるようになっていた。

の浴衣は置いておくからね。これからも着てみて」

「サクラコがいなくて、一人で着れるか不安だわ」

「前にも言ったけど『正しい着方』というのはないから安心して。自分の体型に合ったように慣れていくといいよ」


 とはいえ、スルーフのメリハリボディにはいくらかコツもいる。

 私のような体がまっ平らなタイプもしっかり締めるためにタオルで補正するが、スルーフの場合は胸とお腹の段差をなくすための補正。何と言っても着物は『鳩胸・ドラム缶』がもっとも着崩れしにくい。


 なくすといってもお腹を胸の厚みにするのは太って見えて倦厭されるわけだが、『アンダーバストにタオルを巻いて段差をなだらかにする』という考え方のほうがイメージしやすいだろう。

 どちらかというと、段差をなくさないで着付けをすると帯の上に巨乳がのっかるようなシルエットになり、それはそれで胸が垂れて見えるので美しくないから避けたい。


 アンダーバストにタオルを巻く他に、デコルテにもタオルを敷くような感じで補正すればより段差はなくなりドラム缶のような着物のベスト体型になる。

 今は二人で着付けをしているので、スルーフが胸元のタオルを手で抑えながら私が手伝っているが、二本でならばマスキングテープでブラトップに留めておけば安定する。


「このユカタっていうのは、本当は夏服だったかしら?」

「そう、暑い時期に着るのが一般的だね。本来は中の襦袢もなしで」

「素材だけの違いってことかしら?」

「シルエットは春夏秋冬、冠婚葬祭、全く同じだね。あとは絵柄かな」

 絶対にこうだということはないが、やはり夏には夏の模様、冬には冬の模様が多いのは洋服と変わらない。冬場にひまわりのワンピースを着るということは稀し、周囲も違和感を覚える案件だ。


 着物は季節の花をあしらうことも多いから自然と詳しくなる。

 桜だけは国花なので、通年で着る。

 一昔前は『桜の花は通年でも良いが、枝がついているものや蕾があるものは桜の時期だけ』とか、『桜の時期にはむしろ桜の柄を着ていると野暮』なんて出どころが謎の持論も持ち出されていたが、どんな状態でも桜は桜。着たい時に期待者を着ればいい。

 呉服店勤務や着付け師など詳しければ詳しい人ほど、そういう些細なことにこだわりはなくなってるから不思議だ。どの世界も知識をかじっただけのにわかが一番厄介だ。


 雪輪文様という雪をモチーフにした伝統的な模様もあり、その名の通り冬の柄かと思いきや、『涼しい印象になるから夏もOK』という。結局の所、自分が今日着たい柄を着るのが一番だ。

 冬場にひまわりを題材にしたお芝居を見に行くとなったら、着ていると会場の雰囲気とマッチしてむしろ粋だろう。



 帯は二人そろって銀座結(ぎんざむす)びにした。

 帯の上の方で角ばらせるお太鼓結びに比べて、ボリュームが帯の下方にくるため丸く膨らんでいてカッチリしすぎない柔らかい印象だ。銀座のママが考案したためにこの名がついたと言われている。

 とはいえ存在感のある結び方なので、今日のような正式なコンサートにはぴったりだろう。


 本来、袋帯や名古屋帯でやる銀座結びだが、私の兵児帯、スルーフの半幅帯でも作ることはできる。

 柔らかいが幅がある兵児帯はボリュームがありつつゆったりした印象で可愛らしく、半幅は小ぶりで粋な感じに仕上がる。

「うーん、まだ帯の結び方は慣れないわね……」

 やはり誰しも苦戦するのは着付けよりも帯結び。きつく縛るコツをつかみきれていないようで、背中のリボンがヘタってしまっている。

「そういうときは隠しちゃえ!」

 私がラザ国で買ってきたストールを巻いて後ろ側に多めに布がいくようにして、腰を隠しちゃう!

 見えなきゃ帯の失敗など誰にもばれないわけだから、私も不慣れな時分はよくやったものだ。スルーフは浴衣だから防寒にもちょうどいい。

 私の方もラザ国のストールをリメイクした兵児帯を使っているので、おそろいコーデとなった。


「それじゃ、行きましょうか」

「コンサートは午後三時からだから、それまでランチして、街ブラしようか!」

「いいわね!」


 こうしてスルーフと出かけるのは、意外にも初めてなのだ。私達も驚いている。今まで一緒にいすぎたので、改めて出かけようという時間を作らなかった。

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