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【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
七枚目 袴
160/181

これからやってみたいこと

 三日間の泊まり込みで、袴は八割ほど完成した。

 白無垢ほど凝っているわけではないし、人数もいたし、個人所有であるゆえにクオリティも決して高くはないとはいえど、それにしても驚異的なスピードだ。きょうだいがいかに早急のフルカの通学を望んでいたのかが伺える。


 その間に、もう一つ進んでいることがあった。ウーバーイーツの準備である。

 ライズの命令で製造した自転車と、買い取った鉄は全てライズの屋敷へ引き渡してある。

 だが、不要となったクズ鉄をかき集めて自分達用の自転車を新たに製造することは何ら問題ないということに彼らの話し合いでなっていた。特許と言うならば、アイディアを出したリオンはこちら側の人間になっているわけだ。


 ここでやっとゴロゴロと読書ばかりしていたゼランのお役立ちである。

 もちろん本人はブチブチと文句は言っていたが、火魔法で鉄を精製し曲げる作業はお安いご用なのだ。

「まぁライズができたことなど私には造作もないからな」

「すげぇなんだこれ! 製鉄具合も綺麗だし、宰相様よりも魔力量が多いかも!」

 関心するきょうだいたちに、ゼランはまたしても怒り心頭。

「だから、そうだと言っている!」


 ゼランがいるうちに、なんとか三台分の自転車のパーツを確保していた。組み立ては自分たちでできるから急がない。

「俺とレーシーとリオンで配達、ロニアスは家に残って注文の受け取りとレストランへの料金請求の計算だな」

 注文は魔法陣で受け取るらしい。しかしこちらには魔法を使えるのは一人もいないかから(フルカは通学するので、戦力からは外された)一方通行の連絡となる。料金などは直にもらい、後ほどレストランに届けにいかねばならない。

「計算して、週明けに先週分をまとめてもらえばいいんじゃねぇかな」

 ロニアスにはすでに頭の中に絵を描いているようだった。まだ幼いながら随分と商才がありそうだし、彼なら大丈夫だろう。



 そして残りの二割の縫製は本人たちにおまかせし、完成を待たずして私とゼラン、そしてクティはこの地を離れることになった。

 できれば最後まで見てやりたいのはやまやまだが、マダムヴェルとの約束を考えると長逗留はしていられないし、我々がここに居れば居ただけきょうだいたちの暮らしにも負担がかかるので、そういう意味でも悠長にもしていられなかったのが本音だ。


 クティの動向については、一応長男ニペロには交渉してみたものの、

「リオンが増えたばかりだし、これ以上は無理だ」

と断られてしまったし、クティ自身も

「私はこの国を出たい」

とはっきり言った。そらそうね、元カレのお膝元なんて居心地悪いに決まっている。

「これからやってみたいこととかある?」

「どんなことでも。あえて言うなら、今まで室内で優雅な仕事ばかり任されていたから、体を動かして汗をかきながら働いてみたいかも」

「そうかぁ……」

 これだけ手先も器用だから、私の仕事場でスカウトしたいくらいだけど、いかんせん従業員を増やす余裕はない。

 それにしても、そうか、体を動かして働きたいのかぁ。

「……そういえば」ふいに、思いついたことがあった。「クティさん、優しいご夫妻の元で農業する気はない?」


 私が想定していたのは、もちろんミゲルの実家だった。人手が足りず離農しようとしているというのだから、若くてハツラツとしたクティならばぴったりなはずだ。


「是非! やってみたいです!」本人も即答だった。「辛くても耐えます! ご紹介ください!」

「最初は慣れなくて大変かもしれないけど、辛くはないと思うよ。ご夫妻は割と高齢だから、向こうも喜ぶと思う」

「わぁ嬉しい! こんなに早く仕事が決まった!」

 これそまさに天の配剤。どのみち帰路であるから、クティを送り届ける手はずとなった。



 こうして帰路はザポとクティをチェンジする形で人間同士の三人旅となった。正直、ゼランと二人きりだと彼が嫌がるだろうから渡りに船である。

 クティは奴隷だった頃の慣習からかよく気が利いたし、人をあしらうのもうまかった。ゼランが道中、例のごとく我儘を言い出しても、受け止めるふりをしてさらりと受け流した。



 復路も道筋は順調であった。ザポがいないので時折野生動物と遭遇してはドキリとしたけれど、ゼランのあの魔力を知ったので、なんとかなるだろうとは感じていた。

 この道程をたった一人で、しかも負傷した足を引きずって歩いたミゲルの不安感はいかほどだっただろう。帰宅してすぐうつ病を患ったのも行く末を不安がったものだけではあるまい。



 三日目の夕方にミゲルの家に着いた時には、まるで自分の実家のようにホッとしてしまったものだ。

「こんにちは、お久しぶりです」

とミゲルの母親に挨拶したが、間が空いてしまったのと、着物が変わっていたためか一瞬分かってもらえず、根付にしていたミゲルの手彫り彫刻を見せて彼の友人であることを思い出してもらった。コーディネートに加えててよかったぁー。


 聞きかじったところに寄ると、ミゲルからは時折手紙が届いているらしい。バドール男爵家で元気に働いているようだ。


 クティのことを紹介すると、突然のことで多少とまどっていたものの、

「どんなことでもやってみたいんです! 汗を流して自分の暮らしを手に入れたいんです! どうかよろしくお願いします!」

というクティの熱心な懇願に次第に心がほぐれていったようだ。それに加えて、この初対面時からでさえ、

「洗い物が溜まってますね、やります! 馬の食事は済んでますか? ついでにボロ掃除もしちゃいましょう!」

とまぁ働くこと働くこと。

 とりあえず当面はこのままここで住み込みをして様子をみることと相成った。

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