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【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
七枚目 袴
159/181

ファッションセンス

 今回必要なのは、長着、袴、半幅帯。


 袴は本来、上着は着物である。全くの同じもの。それを着物よりもうんと短く着付けする。

 今回はまずその着物の仕立てに意見が飛び交う。半身ずつ色合いが変わるからだ。

「この柄とこの柄じゃ派手すぎるよ」

「こっちの色はいいけど、布が足りないのよね」

「ボク、この布が好き」

「これは厚手だから他のが薄手だと合わなくなるよ」

 フルカのコーディネートに助言をしてくれているのはクティだ。今はみすぼらしい身なりをしているとはいえ、今朝方までは豪奢な生活をしていたのでハイセンスの持ち主だ。


 女子二人が布をやったりとったりして着物の半身それぞれと、さらに袖も違う布、さらに袴の左右も違う布を割り当てた。舞台裏を知っていればツギハギのように思えるが、色合いや柄の度合いを工夫してバランスを取り、『こういうデザインですけど?』と言い張れなくもない。これが私が持てなかったファッションセンスってやつかぁ。


 長着は私の着物を参考に型を取り、皆で手分けして縫っていく。

 こうして大勢で作業していると、白無垢を制作した時を思い出す。もうじきあれから一年が経ってしまう。


 クティはさすがレース編みができるだけあって、和裁も教えるとすぐにサクサクすすめる。私も手縫いにだいぶ慣れてきて、いくらかスピードアップできるようになった。

 リオンも手伝ってくれた。上手くも早くもないが、丁寧に作業してくれる。HSPだからこういう黙々と一人でやる作業は嫌いじゃないのだろう。


 四きょうだいは得意とか不得手とか以前に、針を糸を持って縫い物をするということ自体が初めてで、全員が苦戦していたし、手もたくさん負傷し、縫い目もガタガタではあったが、それでもフルカのためにと一丸となって誰一人音を上げなかった。

 下手でも遅くても必ずきょうだい本人たちに作らせたのは、今後破損があったときに自分たちで修理ができるようにだ。


 ゼランは未だ一瞥すらせず、テントで手に入れた魔導書を読んでいる……。



 ある程度形が見えてきたところで制作はおまかせして、私はフルカに着付けを教える。

 簡略化するといえども、綺麗に崩さず着るにはやはり少し練習。


 長着をはおり、腰紐で仮止め。

 そして半幅帯をしめる。柄はやはりリバーシブル。本来はファッション的意味合いだが、今回は布の節約が大きい。袴だから帯の柄は見えなくなってしまうが、見えなくてもおしゃれを楽しめたらいいなとの兼ね合いも。


 結び方は文庫結び。調節しやすいので今後成長しても自分で合わせられる。

「帯をお腹にあてて、自分が回るようにするといいよ」

「むつかしい……リボンみたいに体で交差させて巻いちゃだめ?」

「それだと交差する箇所が多くてボコボコして格好悪いんだよ」

「そっかぁ、理由があるんだ」

「ウエストで結ぶと苦しいから、アンダーバストで結ぶのを意識するといいよ」

「ほんとだ、こっちのほうがきつくなくていいや!」

「体に巻きつけたら、一度間を通したあとはお腹でリボンを作って、背中に回すんだよ」

「ぬぬぬ……リボンを……」

「帯をリボン型に折りたたむのが面倒かもしれないけど、慣れればサッとできるよ」


 なにせやせっぽっちで小さいフルカは、腕力もないから力を入れて締めることが難しく、すぐに緩んでしまう。

 しかし慣れてもらうしかない。私だって最初はこうやって自室で何度も何度も鏡と動画を見ながら練習した。


「その上から袴を着付けるよ」

 半幅を結んでからいよいよ代名詞の袴を履く。

 お腹側の方の細い紐を先に巻いて固定する。それから背中側の大きな紐を前に持ってきてお腹で結ぶ。この時、先程結んだ半幅帯の上部を通る形になる。これで袴らしくウエストではなくて胸の下で履くスタイルで、背中側には帯枕を背負ったようなぽっこりしたコブができるわけだ。

「これ……トイレ行くたびにこうやって結ばなきゃいけないの大変」

「あっ良い忘れてた、大丈夫だよ、トイレはね」私は自分の着物の裾を持って足を開いてジェスチャーしてみせた。「袴の片足をもう片方に中で移動させるの。袴の裾は広いから両足でも十分入るでしょ。そしたらあとあとはスカートと一緒」

「ほんとだ! これなら安心!」


 まだガタガタだったりヨレヨレだったりもするが、回数を重ねるごとに要領もわかってきたようだった。

「どうかな?」

「後もう少しピシッとしたらかっこいいけど、でも充分出かけられるよ!」

 私の言葉にフルカはニコッと笑い、

「兄ちゃんたち、どうかな?」

できたばかりの着付けで兄たちの前に舞い降りる。

 まだ仮縫いの箇所も多い中でも、みんな手を止めてシスコン兄さんたちは全員ヤンヤヤンヤと喝采をあげた。

「いいぞフルカ! とても似合ってる」

「まるでお姫様だ!」

「姫ーっ!」

 かわいいヤジに、

「えへへ……!」

フルカも嬉しそうだ。

 この異国情緒は学校でもかなり圧倒的なはずだ。みすぼらしくていじめられるということはないだろう。


 私は袴よりも着物の方が好きだったのだが、フルカに着せているのを見るとやっぱりこれもハツラツとした雰囲気があってかわいい。日本に戻ったらアルバイトをして袴を購入し、是非とも自分でも挑戦してみよう。

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