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【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
六枚目 男性用着物
146/181

なんか変

 茂みの合間を抜けながら屋敷を回り込む。


 その間、きょうだいたちの方には動きがあった。

 なんと、屋敷の正面玄関にライズ本人が直々に登場したのである。

「朝から騒がしい真似をしないでちょうだいヨ、見苦しいわネ」

「宰相様、申し訳ございません!」

 うんざりした様子のライズに、使用人たちはそろって頭を下げる。

「早朝にお呼び立てして申し訳ありません」

「工場のきょうだいじゃないの。製鉄で魔法が必要なのかしら?」

 鉄を溶かす作業のたびに、わざわざライズが降臨していたようだ。

「いえ、本日は今後のお願いがあって伺いました」

 ニペロは正面から堂々と言った。

 その間、フルカはライズが見慣れないのか怖いのか(両方かもしれない)兄の服をギュッと握りしめながら、彼の背中から伺うようにそっと顔だけ出していた。

「とりあえず、内容によるわネ」

「自転車が軍事用であることが弟たちにバレました。反感をかっているので製造を終了したいです」

「現状、どれくらい完成したかしら?」

「三十台ほどです」

「そぉねぇ、五十は欲しかったんだけど」

「どちらにしろ、バレた以上みんなは作業はしてくれないと思います。このまま続けていてもなんの意味もない」

「協力を得られないのならしかたないわネ……で、今後はどうするつもり?」

「もう宰相様からの下請けは、納得してもらえないと思います」

「このアタシが仕事を回さなくてやっていけるのォ?」

「きょうだいで話し合って納得のいく仕事をしたいです」

「今の仕事より実入りが良くなるわけないわヨ」

「妹の学費は貯まりましたので、あとは日々の生活分あればいいんです」

「あら。やっと学校に送り出すの」

「はい。それで、工場の僕たちきょうだい以外の従業員をこの屋敷で雇用していただけないでしょうか?」

「そぉねぇ……この屋敷はもう人手は足りてるんだけど」

「そこをなんとかご留意できませんか。僕たちは兄弟全員で朝から晩まで真っ黒になりながら工場を運営してきました。仲間を集めたのも僕たちの人脈です。それくらいの権利はあると思います」

「まったく、貧しているくせに鈍しない上に、さらに図々しいとは恐ろしい子ね……」ライズは顎に指をあてて一瞬考えるようなそぶりをした。「わかったわヨ、ここで雇えるだけやとって、余ったら王宮の小間使いにも必要がないか交渉してあげるワ」

 ライズはブチブチと文句を言いながらも、ニペロの要求は検討しているようだった。


 遠い声ながらもこの会話を茂みの中から盗み聞きし、なんだか違和感を覚えていた。

 ……なんか変じゃない?


 立場的にはスポンサーであり取締役であるライズが圧倒的に強者なはずだ。

 なのにどうもライズのほうがニペロの要求を断れない雰囲気を感じる。ニペロのほうが立場が強い……とまでは言わなくても、どこか彼の要求にライズが逆らえないような凄みを感じてならない。なぜ。


 もしやライズの弱みを握っているのか?

 ……しかしなぁ。それだともっともっと強気に出れるはず。ニペロは要求はしっかりしているが、決して上から出ているわけでもない。


 第一、ライズがなんの権限もない一般市民の脅しに屈服するタイプか?

 苦労した過去も私達のような旅人にペラペラ聞かせるくらい後ろ暗いことではなさそうだし、そんなことでは揺るがないほど、国民や雇用人たちには信頼されえいるように見えた。


 ……おっと! 盗み聞きを面白がっている場合じゃない。私は私のやることをしなければ。

 それにはまず屋敷の中に侵入せねば……だけどどうやって!?



 私が頭を抱えた次の瞬間に

 バムッ

頭上のデザイン格子の出窓が開き、にゅっと顔を出したクティが花瓶の水を庭に捨てようとして、しゃがみこんでいる私を見つけてぎょっとした。

「あっあなた……!?」

 ここで騒がれたらなんの意味もない、私は思わず、

「お願い! 静かにして!」

強盗のごとく彼女の口を思わず抑えながら必死に懇願した。


 とっさにこう言ってしまったが、脱獄者かつ侵入者である私のお願いなど聞いてもらえるはずはない。……はずだった。


「ちょっと……あなたは風の牢獄にいるはずでしょう……!? 一体どうなっているの!?」

 意外なことにクティは声をひそめて言葉を投げかけてきた。

「自分で抜け出した」

「な、なんで!?」

「『なんで』?」”どうやって”という質問がくるのだと思っていたのだが。「誰だって閉じ込められたら出たいでしょ」

「でも、バレたら旦那様はお怒りになるに決まってるじゃない!」

「怒ってるのは閉じ込められたこっちの方なんだけど!?」

「あなたは旦那様がお怒りになったところを見たことがないから! 旦那様のご機嫌を損ねないよう私達使用人がどれだけ神経をすり減らすか知らないからそう簡単に言うのよ!」

「使用人?」思わず首をかしげた。「あなたは妻なんでしょ?」

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