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【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
着物女子のプロローグ
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お風呂があるの!?

「はぁー……」

 考えることが山積みなのに環境が全く変化しないので、大きなため息がでる。

 それに加えて、住居が確保されてからのというもの現代人的欲求がむくむくと湧き上がってきているのだ。


 コーラ飲みたい醤油ラーメン食べたいYouTube見たいインスタチェックしたいログボ貰いたい漫画読みたいクッション欲しい

 それからやっぱり、


「お風呂入りたい……」

とつぶやいたところで、

「お風呂?」ちょうどスルーフが帰宅した。「いいじゃない、入ってくれば?」

「……えっ!?」テーブルに突っ伏していたのが一気に跳ね上がる。「お風呂があるの!?」

「ここの、もう一つ向こう側の大きな通りを登るとパン屋があるんだけど」

「グランマのところ?」

「なんだ、知ってるじゃない。そこの二階がお風呂よ」

「えぇっ!?」風呂が二階にあるだなんて考えもしなかった。「行きたい! 入りたい!」

「私は入っては来たけど……久しぶりに街のお風呂にも行こうかな。」

 やっほぅ!



 言われて見るとパン屋の入り口の横には階段があった。降りてきた男性とすれ違うのがやっとの細さ。この時点で気付くべきだった。


 入った瞬間にすでに熱気を感じる。しかし脱衣所には男性の姿が。

「えっ混浴!?」

 スルーフが首をかしげる。そもそも疑問にすら思っていないようだ。


 混浴だけあって裸ではない。女性は下着姿。男性は下着の人もいればタオルを巻いているだけの人もいる。えぇー……

 しかし私のドン引きとはうらはらに、スルーフは特に疑問を感じていないでさっさと衣類を脱ぎはじめる。仕方がない……影に隠れるようにして、さらさらと着物を脱ぎだした。


 それでも抵抗があり、私は脱いだ着物を肩にかけてこっそりと着脱する。

「あらサクラコ、あなた随分と着ぶくれてたのね!」

 実は襦袢の下に補正用のタオルを挟んでいたのだ。

 ウエストには専用の、ぐるりとカバーできる長いタオルに紐を付けた手作りの物と、両肩からデコルテには三つ折りにしたフェイスタオルをVの字にかけるように。このタオルも生活用品に回すべき状況なんだろうけれど、体型補正は着物の着付けには重要なポイントなのでできなかった。


 体の線の美しさを出すことの多い洋服と違い、着物は直線の美。すとんとした体型でないと着物の柄にシワがよってしまうし、紐もきつく締め付けるしかなくなって苦しい。

 着物を始めた頃に面倒くさくて補正を省いたら、だらしなく着崩れてどうしようもなくなってしまった。着付けの一番の重要ポイントは寸胴体型にする補正にあると言ってもいいのだ。


「くびれのあるいいウエストしてるじゃない。」スルーフが笑う。「胸は薄いけどね」

 傷付いた。

 ちなみに、私はデコルテラインにフェイスタオルをかけて補正していたがスルーフのように胸に厚みがある人は胸の下に補正すると良い。私には関係ないが!


 補正タオルを取ってブラトップにショーツ姿。

 露出度は水着と同じじゃないか、これがここでは普通なのだと自分に言い聞かせるが、やはり側に下着姿の男性がいるのがとにかく恐ろしくて、キャミソールワンピ姿のスルーフの腕にしがみついた。汗でしっとりとした互いの肌が吸い付く。

「あら、いい年して随分恥ずかしがるのね」

「女子校育ちだもん……」

「じょしこうって?」

「女だけの学校」

「へぇ。修道院みたいなもの?」

「違うよ! ……いや、そうかな?」

 からかいつつもスルーフは決して振り払ったりしなかった。

「サクラコだって結婚してても良い年頃でしょう? 少しは慣れなくちゃ」

「自分だって年頃でしょう?」そこでふと思う。「そういえば、何歳なの?」

「私は百二十九歳よ」

「あはは!」

 盛大に笑ったら、

「?」

スルーフが首をかしげてきょとんとした。

「……え?」

 私はこの時初めてエルフが長寿種族であることを知った。



 奥の木戸を入るとさらにムッとする熱気と、香ばしいパンの香りがした。

「パンを焼く熱で蒸気を出しているのよ」

……てことはこれは風呂じゃない! サウナじゃん!

 実際湯船はなく皆座って蒸気に当たっているだけ。

 正直かなりがっかりはしたが、それでも蒸気の熱で汗を流せたのはかなりさっぱりした。

 ここでもスルーフは目立つ。顔立ちもだが、やはり薄着になるとボディの迫力がアップする。目の端でチラチラ追う男性も少なからずいたが、スルーフは慣れているのか完全に無視を決め込んでいた。

「本当はもっと早い時間のほうが蒸気がたくさん出ていいんだけど」

「パン屋だもんね」

 蒸気と一緒にパンの匂いがして自分もホカホカに出来上がった。

 お風呂の後はスルーフが風魔法と火魔法を使って髪の毛を一瞬で乾かしてくれた。魔法ちょう便利。なるほど科学が発達しないわけだ。



 この時点では当然、明日に投獄されるとは思いもしないので、清潔になった体で清々しく眠りについた。

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