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【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
六枚目 男性用着物
118/181

三者三様

 ゼランも個室に入ってしまったし、私も就寝するとしよう。いつかの納屋のように長着を脱いで肩からかけ、さらに持参した毛布にもくるまる。

 が、目の前にあるザポの毛皮を見ると、どうにも心がうずいてしまう。

「ザポさん、よっかかってもいいですか?」

……――かまわなゐ。どうせ吾輩は眠らなゐ――……

 ザポは優雅にフスーっと鼻息を鳴らした。

「魔獣って寝なくて平気なの?」

……――数日にひとたび、数刻限程度にて平気だ。しっぽを使うか?――……

「いいの!?」こらえきれずロングコートのしっぽに埋もれさせてもらう。「フカフカ~!」

……――ヴェルも昔はそうやって床に就いたものよ――……

「マダムヴェルが? 野宿を?」

……――吾輩等はね、兄妹(きょうだい)なのだよ――……

「きょうだいですか」

……――貧困か由々しき事態かは知らぬが、なぜか卒爾(そつじ)に森に捨てられておった赤ん坊、それがヴェルじゃ――……

「えっ……えぇっ!?」

――……彼女は我ら魔犬とともに暮らし、成長したのだ――……


 なんと、異世界版オオカミ少女。あの独特な高貴さは魔犬のものだったのか。

 私には想像もつかない波乱万丈


……――あやつのあの声量と発声方法は我らが仲間内にて使う遠吠ゑのそれじゃ――……

「なるほど!」

……――ヴェルは自信家なれど、一方にてとても人間らしさと云ふもに飢ゑてゐる……――……それはあやつには己の確固たる価値観がないからだ――……

「価値観がない?」

……――人間なのに、本質的には理解できていないから、他人からいかが見ゑるかに左右されるでござる――王族との輿入れも瞬く間に決めてしまっては、結果このざまだ――……


 マダムヴェルって、年齢にはふさわしくないすごく子供っぽいところがあるように思えたけど、そういう事情だったのか。自分でわからないから他人の価値観に頼るだけになり、振り回しているようで振り回されている。


……――吾輩がおらぬ間、暴走していねばよいがな――…… 

「ザポさんがいれば十分って言ってましたよ」

……――なれど、人の子は強欲じゃからな――…… 


 その晩はザポの温かい毛皮に包まれて、野宿にも関わらず快眠であった。



 翌朝は、自分の着付けをしたあとにゼランの着付け直しを一緒にやる。

 私からの口頭とジェスシャーだけのつたない指導だが、元来に地頭力のあるゼランは最初のときよりもしっかり着付けのコツを掴んでいるようだった。

「だんだん着てる姿もしっくりしてきましたね」

「そうだな。さすがは私だな」

 ほんと、こういうところがなければね。



 二日目は終日草原を歩くだけとなり、周囲はすっかり山々に囲まれている。いつだったかグリーが餓死しそうになったのも納得の、民家も何もない場所だった。

 時折、野生動物が横切って私が仰天し、ザポを見ては野生動物の方も仰天して逃げていくということがあった。

 違った点といえば、夜営時だった。

 いや、私達は昨日と同じように僅かな煮炊きをし、焚き火で温まった後に三者三様に眠った。


 違ったのは私達のキャンプの他に、もう一組夜営しているチームがあったことだった。

 少し離れていたので何人組かとか、どういったメンバーかなどはわからないが、遠くに火が見えたので、それだけでも人気を感じてなんだか安心したような、一方で彼らが山賊などではありませんようにと願ったりもした。

 まぁこちらには神官のゼランと、魔獣のザポがいる。滅多な山賊など武力では全く怖くないのだろうけども。



 ところが。

 三日目の夜営となると、さらに周囲を取り巻く夜営チームが増えていた。

 私達の他に五組くらいはいるだろう。人数にすればひとクラス分くらい。

「なんか賑わってきましたね……」

「ふぅむ……」ゼランも不可解な顔をする。「ザポ殿、彼らの会話が聞こえるか?」

「えっそれって盗聴!?」

「人聞きの悪いことをいうな。ザポ殿が耳が良いのは生まれつきだ」

 それを又聞きするのがダメだと思うのだけれど。

 とはいえ私も不安を覚えていたので、情報は欲しい。

……――む……――…… 

 ザポがうなる。

……――商売人のようだ。なにかを売りに参上するべく、ダーホ国へ向かうごとし――…… 

「あ、あぁー……!」そうだ、いつだったか隊商宿で聞きかじった。「鉄を高く買い取ってくれるんでしたっけか」

「そんな話もあったかな」

 この人、自分が関わってないことにはとんと興味ないよな。

「ここにいるパーティ、全員ですかね?」

……――そのようだ……――…… 

 そう言われれば、みんな焚き火とテントの他になにか大荷物や、荷車があるようにも見える。あれが鉄鉱石か。

「何にせよ我々には関係のないことだ。目指すべきは森だから、ダーホ国王都は迂回するしな」



 だが、そうも言っていられなくなった。

 四日目に、奇天烈な再会があったからだ。

 私は心底驚いた。

 この世界に来てから魔法とか幽霊とか悪魔とか見ていたので多少の珍事には慣れたつもりでいたし、仮に天帝とやらが現れたとしてもこれほどまで驚かなかっただろう。

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