表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
着物女子のプロローグ
11/181

花魁

 帰るとスルーフがさすがに目覚めていて、

「あら、随分と買い込んだのね」朝食だか昼食だかのパンを食べていた。「昨日の髪型、すごく評判よかったわ。チップも弾まれたしね」

 チップが弾んだということはつまり、まぁ、なんだ、その、私のような未成年者にはわからない世界があるということだ。

「水もらっていいですか?」

「ご自由に」

 昨日スルーフが持っていた大きな水差しからコップに注いで飲む。

「はぁー、水の美味しさは共通だなぁ」

「私は今日も夕方からまた出かけるから、水を汲んできてくれないかしら?」

「いいけど、どこで?」

「昨日会った噴水よ」

「えッ!? これ噴水の水!?」

 一瞬吹き出しそうになったが、これが飲料水なのだろう。郷に入ったのだから郷に従わなければ。

 それよりも不意に疑問が湧く。

「ねぇ、魔法で水は出せないの?」

「出せるわよ」

「それなら!」

「水魔法は近場の水分、この部屋の場合は空気中の水分を集めて液体にするから、部屋がめちゃくちゃ乾燥して肌も喉も乾いて痛くなるけど、それでもいいかしら?」

「後で必ず汲んできます」魔法は万能じゃないわけね……「魔法ってみんな使えるの?」

「私の種族は生まれつきある程度は使えるけど、人間は家系によるみたいね。使える人が鍛練すれば神官にもなれるし、私は生まれつき使えても鍛錬しなかったから、こうして日常生活を補う程度よ」

 なるほど。考えれば、みんなが使えるならミゲルが森で明かりをとっていたはずだ。あとやっぱりスルーフは人間ではないのね。

 そこで私はふいに思いついたことがあった。

「あの……人間を別の世界から呼び寄せる魔法なんてありますか?」

「聞いたこと無いわね」

きっぱりと言われたので逆にムッとした。

「なんかこう……魔法陣? みたいな? 大きな絵とか呪文みたいなものを書いてやるのとかないかな!?」

「うーん……」スルーフが首を傾げた。「そういえば……古代魔術の本に物質を呼び寄せる魔法があったかもしれないわね……?」

「物質を呼び寄せる?」

「私の故郷に古代魔法書とか魔導書が集められた書庫があったわね。たしか聖剣とかを錬成するために鉱物や宝石を欲しい材料を別の場所から呼び寄せる魔法陣を見たような気が……」

「材料を?」

「でも今はそういった材料は冒険者が採ってきて売りさばいてるから、普通に街に行けば買えるし、わざわざそんなことしないわね」

「魔法陣の形ってこういう、白い線で放射状に文字みたいなのが書いてあるやつ?」

「そこまでは忘れたわ。魔法によってもそれぞれだしね」

 関係ないとは思えないのだけれど今の私の知識量では判断が全くつけれない。来たのだからどこかに帰る方法もあるはずだ。今はそれだけが心のよすがだ。



 スルーフには今夜も夜会巻で結い上げることにした。

「ねぇ、ハロワ……職業斡旋所みたいなところはあるかな?」

 髪を結いながら情報も収集だ。

「ギルドのことかしら?」

「ギルド?」

「この道を下っていったところに大きめの建物があるわよ。人を募集してる張り紙が貼ってあったりするわ」

「そうなんだ! 明日行ってみる! お礼にこの花をプレゼント」園芸屋の美少年から買ってきたやつだ。「これを髪に刺したらかわいいと思って」

「この花……サクラコが選んだの?」

「ううん、店の人に選んで貰った」

「そう……」スルーフは薄く笑う。「ありがとう、好きな花だわ」

 花を刺すとまた昨日とは違った趣になる。あえておくれ毛を出して少しスキのある女の演出を。

 その作業を鏡越しにチェックしていたスルーフは、

「サクラコの服も物珍しいし人目を引くけど、セクシーさが足りないのよねぇ」

と、とんでもない地雷を踏んだ。

「なんだとぅ!?」


 芸子さんに舞妓さん、伝統でありながら男性を虜にしてきた着物美人は数多く存在するし、究極的には花魁(おいらん)がいる。セクシーさが足りないなどと言われる由縁はない!

 私の心は一気にメラメラと燃え上がった。


「前開きのドレスは持ってないの!?」

「あるけど……えぇっ今から着替えろというの!?」

 スルーフが秘密の巨大クローゼットから出してきたのはライトブルーのシルクドレス。流れるような袖口やシルエットが美しい。

「こっちに着替えて!」

「えぇ? なんかムキになってない!?」

 文句を言いつつも、スルーフも段々と面白くなってきたような口ぶりだ。

 残念なから開くだけで前合わせではないので重なりはないが、胸からお腹にかけてを編み上げで調節する仕組みになっているのでいけるはず。



 編み上げを大きく広げて肩と背中を大胆に出す。それを落ちてこないようにぎゅっと抑えたいのだが当然帯はない。

「ストールはある?」

「色違いで二枚あるけど。」

「いい! 最高!」

 通常の帯とは真逆にお腹側で結ぶ。


 花魁の帯がなぜ前で結ぶのかは諸説あってはっきりしていないが、普通に考えれば前で結ぶと日常生活に邪魔なわけで、家事を一切しない花魁特有の非日常感の演出ではないかという説が私には一番しっくりきている。


 一枚のストールをリボン結びにしたあと、もう一枚は蛇腹に折りたたんだ後真ん中を輪ゴムでとめて形を作り、最初のリボンにくぐらせるようにして形を作れば即席の金魚草結びの完成だ。

 ウエストにまるで大きな花があるように見える豪華さ。輪ゴムは私が元々変わり風船結びをしていたときに使っていたもので、今日はシンプルなカルタ結びにしてあるから不要だったのだ。


 背中はセクシー、だけど前は思い切り大胆で派手に。花魁風ドレススタイルの完成だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ