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【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
五枚目 アロハシャツ
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婚約者

「こっ婚約者!?」

 幼馴染で婚約者のキャラ付けハイブリッドときたもんだ! いつか言ってたのはこの人のことだったのか。

 しかし動揺したのは私だけで、スルーフは変わらず塩対応だ。

相年(あいどし)で一緒に行動させられてたから、なんとなく周囲がそう思っていただけでしょう」

「皆の暗黙の了解があれば十分ではないか」

 そう言いながら彼はリビングの椅子の片方、正確に言うと私が私用に買ってきた椅子にドスッと腰をかけた。

「それはサクラコの椅子よ」

 すると私の方を一瞥してはきょとんとした顔をする。

「君は立っててもかまわないだろう、なぁ?」

 なぁと言われても。

 正直、食事をするところだったから、立ち食いというのは私の食事の選択肢にはないので困る。



 結局スルーフが根負けして、ウォークインクローゼットからドレッサー用の椅子を持ってきた。

 別に食事を摂るのに何ら問題があるわけではないが、全く悪びれないエイバイの様子は単純に不思議だった。

 エイバイは不快というよりは不可解という顔で私を見ていた。

「人間と同じテーブルにつくとはな」

 私達はグランマのパンを用意していたが、余分はない。

「あなたの分はないわよ」

 だがスルーフの言葉に、眉一つ動かさない。

「不要だ。僕は朝と夕方の一日二食しか食べない。エネルギー補給に使う時間はなるべく短くして合理的に生きたいからな」

「あぁそう」

「それにしても人間の町は暑いな」

 そう言って彼がすいっと指先を上げると、バングルの宝石がふわっと輝きをおび、部屋中にそよ風が流れ出した。風魔法だ。扇風機とサーキュレーターの間くらいのそよぎで気持がいい。

 つまりあのバングルに付いているのは魔法石なのだ。五センチはあるだろうサイズが二つもとは。


 この人……魔力の出し惜しみというものがない。ゼランやルゥバは合言葉のように『温存 温存』と言ってたのに。

 おそらく種族的に持って生まれた魔力量が違うのだ。だからゼランたちなら温存するところでも、遠慮しないでバンバン使える。


 だがそれ以上に気になるのは……スルーフと同様に彼も全体的にけだるげな雰囲気が漂っている。大人びた彼女ゆえの特性と思っていたのだが、もしかしたらこれも種族全体の特性か。


 考えたら当然か。

 我々人間はたった百年足らずの人生すら日々の生活に四苦八苦し、老後を憂い、喜怒哀楽に押し潰されうんざりしている。世の中の流れに流されず、沈まず、なるべく平穏にたゆたおうと必死にもがいている。

 それがあと八倍の長さで続くとなると、果てが見えない地獄の様に感じるのではなかろうか。

 長すぎる人生でモチベーションなど保ち続けられるわけがない。

 エルフはこの二人しか知らないが、案外そのほとんどがこうして長寿に辟易し、悠久とも言える寿命の中で生き急ぐ必要もなく、黙々と日々を消化に務めるだけの、ある種の絶望を抱えているのかもしれない。


「それで、いつまで居るの」

「ご挨拶だね。君を心配してはるばる風魔法を使い、文字通り飛んできたんだよ。会えない間もずっと君を気にかけていたんだ」

「私は魔導書庫管理者に手紙を出したの。それなのにあなたがしゃしゃり出てくるなんて」

「しゃしゃり出たわけじゃない。現在は僕が魔導書庫管理者を努めているから当然の成り行きさ」

「……あなたが?」今度はスルーフが眉をひそめる。「随分と大役を担っているじゃない」

「そりゃ必死で頑張ったんだよ。君のおかげさ」

「私は関係ないわ」

「本当だよ、感謝しているくらいだ」エイバイはまるでミュージカルのように大げさに手を広げ、にこやかに論じた。「僕を捨て、村を捨て、人間の娘のために人間の街で暮らすと言ったとき、捨てられた婚約者の身としてはそりゃあ村中から冷ややかな目で見られたものだ。僕自身、君と共に生きる将来しか想定していなかったからね、人生設計が全て狂って途方にくれたのさ」

「……」

 先程からものすごく丁寧にきちんと綺麗にオブラートに包んだ嫌味を言うじゃないか。

「その気晴らしに魔導書庫の助手としての仕事に打ち込んだんだ。通常二百年かかるという管理者までの階段をわずか六十五年でかけあがったのさ」

「あらそう、おめでとう」

 祝の言葉を述べながらも、顔は嫌悪を表したままだ。

「それで、僕をご所望の神官とやらはどこだい?」

「ここにはいないわよ。王宮にいる」

「では早速呼びたまえ。僕は長旅のあとも人間の面倒をみるくらいの度量はあるよ」

「ここは一般宅で、神官を呼びつけるのは無礼なの。周囲に迷惑がかかるとこちらも困るし」

「人間の神官なのだから、僕たちエルフが呼び出すのに無礼なことなとないさ」

「神官をここに呼び出したとなると、家主の私が奇異な目で見られるの」

「見せておけばいいじゃないか」

「あなたは国に帰るからいいけど、私はここに住み続けるのよ!?」

「え?」エイバイは大げさにのけぞった。「まだ村に戻らないのか? あの娘は死んだのに?」

「えぇ」

「一体何の意味があって」

「私がここにいたいの」

「なぜ」

「ここが好きで、村が嫌いだから」

 エイバイは心底理解不可能という顔をし、突然として私に向き合った。

「君、スルーフに何を言ったんだ?」

「えっ!?」言葉が詰まる。「わ、私……!?」

「彼女は関係ないわ」

「そうは思えないな」スルーフの言葉を遮って、さらにこう続けた。「だいたい、なんだいその格好は。旅芸人でもやっているのか?」

 着物姿を上から下までじっくりと品定めをする。

「これは私の国の民俗衣装です」

「民俗衣装? そんな風変りな格好をして恥かしくないなんてさすがだな」

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