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【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
着物女子のプロローグ
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生きているだけでお金はかかる

 まだ暖かいパンを抱えながら歩く道中に道具屋を見つけたので、いくつか日用品を購入する。


 中古品の木製食器、ペラペラで吸い取りが悪そうなタオル、豚の毛で作ったでかい歯ブラシ、なんとも言えない渋い色をした石鹸……どいつもこいつも、なんだかなぁと思いつつ追い詰められているので購入したが、唯現代日本よりも品質がいいのは猪の毛で作られたヘアブラシ。


 タオルだの洗剤だのと今まで何気なく使っている日用品は全て両親が働いて得た給金の成り代わりで、それなりにわかっているつもりでもここまで切実にありがたみを感じてはいなかった。生きているだけでお金はかかる。

 下着と部屋着も欲しかったがそれは服屋か古着屋だと言われ、場所だけ教えてもらった。



 両手いっぱいの戦利品を抱えながらふらふらと歩いていると、

「おねえちゃん! 変わった格好だねぇ!」

豪快なおっさんに話しかけられた。と、思った。

 しかし振り向いたが誰もいない。

 正確にはゆるふわショートの美少女がニコニコして立ってるだけ。

「あんたみたいな服装見たことないよぉ! 遠くから来たんだねぇ!」

 私よりも小柄だったのでピンとこなかった。その太くてザラついた声に喉仏……この人、男かい! 

 美少女みたいな美少年、でも話し方は豪快だし笑い方も大げさでまるで親方。ビジュアルとキャラクター設定とキャラクターボイスがまるで合ってない!

「うちには珍しいものがあるからお土産にどうだぃ!」

 彼が招き入れる店にはたくさんの花や鉢植えが並んでいる。

「ここは花屋さんですか?」

「花もあるし苗もあるよぉ! 一番の仕事は剪定さぁ! 王宮の庭の手入れもうちがしてるんだぜぇ!」

 つまり園芸店……かな?

「ここ、人手は募集してますか?」

「うちは技術職だから、たいていはその家の子供が手伝いに入るんだ。俺もオヤジの後を継いだのさぁ」

 まぁそうですよね……。

「あまりお金がないので、切り花を一本だけください」

「はいよぉ! どんな花がいいかなぁ?」

「じゃあ……ゴージャスだけど可憐さもあるものを」

「難しいことを言うねぇ!? でも、あるよぉ」

 選んでもらったのは見た目も豪華な大きく咲いたサーモンピンク色の花だった。

「……うん、キレイ」

「また花を見に来てくれよぉ! せっかく咲かしたんだからたくさんの人に見てもらいたいんだぁ!」

 そう言って美少年は綺麗な歯並びを見せてニカッと笑った。

 面白い人に会っちゃったなぁ。



 帰宅するとスルーフが入れ違いに帰ってきていてベッドで寝入っていた。なるほど、こういうライフスタイルか。


 買ってきたばかりの食器からコップを出し水瓶の水とパンでひっそりとブランチ。

 グランマのパンはおいしい。私のパンの概念からはずっと硬くて途中で顎が疲れて休憩を取るくらいだけど、その分外側のカリカリがたまらないし麦の味が濃く出ていて鼻にいい香りがぬける。値段も妥当だった。


 だがこれが空腹のたびに毎回購入では、あっという間に手持ちのお金が尽きることは明白だ。切り詰めて一日二食にしても、毎日毎日休みなくお腹が減るのには心底うんざりする。早く収入源を見つけなければ。



 午後はまた買い物に出る。

 先程教えてもらった古着屋。アンティーク着物に慣れているので中古品には抵抗なかったが、思ったより値段が高くて部屋着やパジャマの類は買えなかった。

 考えればミシンはなく服は全て手作りというのだから、新品をオーダーできなければ古着しか選択肢はないわけで、古着とはいえどかなり需要は高いようだ。部屋着は当分襦袢で対応するしかないな。


 その代わりいいものを見つけた。八十センチ四方の布だ。枕カバーには足りずに放置されていたらしい。

 これを風呂敷にする。そうすれば午前中のように両手いっぱいに荷物を抱えなくてもいいわけだ。

 これは着物とは全く別の趣味で、昨今どこに行くにもエコバックが必要なのだが折り畳み式でも結構がさばるし、薄く畳める点でも風呂敷を何枚も持ち歩いていた。


 下着はさすがに古着というわけにはいかず新品を買った。ゴムはもちろん存在しないので紐で結ぶタンガ。

 感動したのはブラジャーが存在していたこと。ホックはなくて脇で編み上げで調節するタイプでカップもちゃんとある。もちろんワイヤー等はないが、もともとそういう補正系の下着は着物には合わないのでこのほうが助かる。これに関してはこっちの世界の方が肌に合うくらいだ。

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