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第6話「突然ですが、妹は魔法を使うようです」

しばらく日中と夜の2回更新にします

 事の発端は、滅多に外に出ないマオがどこかに向かうところを見つけてしまったことだ。


 マオが普段から読んでいる本はもっぱら村長からの借り物だが、受け取りも返却も村長が直接、家まで来てくれるからだ。

 村長はよく、そのままマオと本の感想を交わしていた。実際はそれはただの名分であり、村で起きた細々とした問題の解決方法をマオに相談することが本命だが。

 だから、マオが外に出ることは非常に珍しかった。しかも脇には見た覚えのないB4サイズのハードカバーの本を抱えている。


「マオ? どこかに行くのか」

「…………兄か。別に、どこでもいいではないか」


 露骨にしかめっ面になるマオ。

 見つかったのがまずかったのか、それとも後ろめたいことをしようとしていたのか。いつもなら「別に」で話を切ってしまうのに、わざわざ自分に関わるなと予防線を張ってきた。


「そう言われると気になるんだが……夕飯までには帰ってくるのか」

「それは…………わからないのだ」

「わからないだって? おいおい、一体どこに行くんだよ……」


 いくら大人びているからって、マオの体は5歳児のままだ。体力は見た目相応にしかないはずだ。

 男の子を投げ飛ばした時は、火事場の馬鹿力だったんだろう。そのあとひどく疲れ果て、翌日は筋肉痛になっていた。

 しかもマオは同年代と比べても全然外で遊ばず、運動をしないインドア派だ。

 そんな5歳児の体力で、夕飯までに帰れない場所。あるいは用事。この村にそんな場所があったか?


「むぅ…………放っておいてほしいのだ」

「悪いが無理だ。5歳の女の子が夕飯までに帰ってこないなんて、普通に大事だぞ」

「か、帰ってこられれば、もんだいはないはずなのだっ」

「間に合うか怪しいから「わからない」って、さっきマオが言ったんじゃないか」

「むむむぅっ……」


 いつも大人相手に切り込む鋭い弁舌が、形無しだ。

 まあ普段はマオの方が正論を振りかざすから、容赦なく切り込めるんだろう。

 だが今回の場合、正論をぶつけられているのはマオの方だ。

 困らせる気はないんだが、いかんせん帰りもいつになるかわからないのなら、せめて場所くらいは聞き出さないと行かせるわけにはいかない。

 じっとマオを見つめていると、やがて根負けしたのか「わかったのだ」と嘆息した。


「これから村はずれに行くのだ。夕飯までには……がんばってもどるのだ」

「んんん……? 村はずれぇ……?」


 あんなところに、何かあっただろうか。

 確か俺が生まれる前に家畜が全滅して、取り壊す予定のまま放置された牧場跡が残っているだけのはずだ。

 夕飯まで時間を潰せるような場所じゃないし、もし脇に抱えた本を読みたいんなら家で十分のはず。

 だっていうのに、あんな場所に行きたい理由は…………。


「……そうか、わかった。みなまで言うな」

「? わかってくれたのか?」

「ああ! 何を匿ってるか知らないが、一緒に父さんと母さんに許しをもらおう。ペットの一匹くらい、アレルギーさえなければ土下座してでも飼う許可をもらってみせる!」

「…………兄は何を言っているのだ」


 おや、全然見当違いだったようだ。

 人が立ち入らず、かつ屋根のある土地ですることの定番と言ったら、捨て犬や捨て猫(野良でも可)を内緒で飼うことだと思ったんだが。

 だが、それも違うとなると……。


「でもなあ……そうすると、マオにはまだ早い気がするんだ」

「! 早い、だと……きさ、兄は、まだ早いというのかっ……!」


 急に、マオの気配が変わった。顔が徐々に赤くなり、語気が荒い。

 どうやら怒っているようだが、こればっかりは譲れない。


「ああ! まだマオには早い。少なくとも、あと十年は待った方がいい」

「十年、だと……? なかなかリアルな数字ではあるが、なぜ十年なのだ?」

「十年経てばマオは成人するだろ?」


 アレスガルドでは、15歳から一人前の大人扱いだ。

 前世の記憶があると早すぎるんじゃないか、いつの時代だ、と苦言を呈したくなったが、それが常識ならば仕方ない。


「エ○本を隠れて読みたい気持ちはわかるが、見つかった以上はやめておきなさい。大人しく成人してから」


「何を言い出すのだ(オノレ)はああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 徐々に赤くなっていた顔が、より鮮やかな赤に一瞬で染まった。

 湯沸かし器もビックリな速さで真っ赤になり、こんなに大きな声をマオは出せたんだなあと、変なところで感心してしまった。


「だって、誰も立ち入らない場所でその本を読むんだろう? 人に見られたくない本なんて、父さんみたいに人には言えない趣味の本くらいしか」

「もっと別の本だってあるではないか!! 禁書だったり魔法書だったり」

「禁書……それは、ちょっとレベル高すぎないか? 発禁くらった本なんて、よく手に入ったな」

「エ○本からはなれるのだセクハラ兄!!!!」


 ふむ……からかうのはこの辺にしておくか。

 思いのほかマオの反応がよくて、ついつい楽しんでしまった。

 内容は最低だが、こういう気安いやりとりができるのも、兄妹の醍醐味だろう。決してセクハラではない。


「それで? 村はずれで何をしてくるつもりなんだ。後ろめたいことじゃなかったら、言えるよな」


 ジト目というのも生易しいほど、冷たい半目で睨まれる。

 だがこれで、ある程度は毒気も抜けただろう。少しは話しやすくなったはず。

 それでも口にしたくないというんなら、もうどうにもできない。黙って気づかれないように後をつけるか。


「ハア……さっきみたいな話を言いふられてもこまるのだ。ただし、ぜったいに他言無用なのだ!」


 マオはそう言って、背を向けて歩き出した。ついてこい、という意味だろうか。


 しばらくの間、マオを先頭に歩き続けた。日頃の運動不足が祟っているせいで、歩みは決して早いとは言えない。

 ついでに言うと息切れも起こしていて、何度か「おんぶしようか?」と提案した。「いらないのだ!」とその度に拒否されたが。

 そうしてじゃれ合いながら村はずれに着いた。

 牧場の敷地内ではあるが建物から離れ、村と森の境目に位置する草原地帯につき、ようやく足を止めた。


「最初に言っておくのだ。兄よ、止めてくれるななのだ」

「止める? 一体、何をするつもりなんだ」

「魔法だ」


 マオは抱えていた本を掲げてみせた。

 あれは確か、魔法書と言われるものだ。読むだけでたくさんの魔法が覚えられる便利な本……なんてわけがない。

 魔法書とは、あくまで魔法の理論が載っている専門書のことだ。

 魔法を覚えるためには、魔力を自由に扱い、感知でき、そこでようやく魔法初心者となり、習得できるようになるらしい。

 だが魔法書はそんな初心者に対する入門書ではなく、中級者がより高みに上るために必要な参考書だと、村長は言っていた。

 村長自身は初級魔法しか使えず、いずれ必要になるかもと未練がましく書庫に収めていたそうだが、マオの才能に気づいてからは貸出を許可していた。

 そんな魔法書がマオのお小遣いで買えるわけがない、あれはおそらく村長の物だ。


「ま、マオ? いくらなんでも魔法なんて……」

「早いと思うか? 兄よ。それはどうしてなのだ?」

「どうしてって……」

「魔法をおぼえていない兄が、なぜ「マオには早い」と言えるのだ」


 そう……俺は魔法が使えない。

 そもそも、魔力ってなんだ? どう感じ取ればいいんだ? まずそこから躓いてしまった。


 アレスガルドには魔法による独自の文化が普及しているが、魔法を使えないと生活すら満足に送れない、というわけではない。

 魔法の特性は人それぞれだし、村長のように魔法を習得できても才能がなかったり、俺のようにそもそも魔法を習得することすらできなかったり、マオのように……10歳に満たない神童が魔法を覚えられたり。

 ましてや、マオの前世はアレスガルドの人間だ。であれば、魔法を使えても何も不思議ではない。

 そしてマオの言うとおり、魔法に関する予備知識や経験のない俺に、マオに魔法はまだ早いと言える理由はない。

 難しいそうなものだというイメージはあるが、あくまでそれは俺個人の印象だ。

 魔法の才能も個人差があるというのは周知の事実で、やってみなければわからないのも確かなこと。


「……わかった。でも、危なそうだったら止めるんだぞ」

「万が一にも失敗なんてありえないのだ」


 ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らす。その態度からは、驕っている様子は見られなかった。

 どうやらマオには、よほど魔法に自信があるみたいだ。前世は有名な魔法使いだったんだろうか。


 だがどういうわけか、俺は一抹の不安を拭いきれなかった。




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遅筆な作者のペースが上がる! ……かもしれません(汗

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