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第4話「突然ですが、妹は転生者のようです」

 その日の晩、興奮して明け方まで寝付けなかったが、気がつけばいつかの真っ白な空間の中で目が覚めた。


 いや、正確に言えばこれは夢の中だ。目が覚めた、というには語弊がある。

 だがとにもかくにも、ここに来るのは一年振りだ。

 周囲を見渡せば、難しい顔をして胸を強調するように腕組みしているマイナ様の姿を見つけた。


「お久しぶりです、マイナ様。今日はどうされました?」

「ああ……お久しぶりですね、レオさん。そっかあ……もしかしてって思ってたけど、やっぱりレオさんのところだったかあ……」

「はい……?」


 俺の顔を見た途端、しかめっ面がさらにひどいことになった。初めて梅干を食べた子供みたいな顔だ。

 しかし、すぐに気を取り直したのか、「切り替えるんだ、私!」と軽く頬を叩いた。


「まずは、おめでとうございます。妹がお生まれになって、良かったですね」

「もう知ってましたか。ありがとうございます! まあ、俺はなんにもしていないんですが」

「頑張ったのはお母様の方ですからね。でも、貴方はお父様も普段からお手伝いをしていたんでしょう? 何もしていないわけじゃないと思いますよ」


 そう言われると、少しこそばゆい。新しい家族ができて、どうにも地に足がついていない感じだ。


「そこでですね。申し訳ないんですが、貴方には話しておかなければならないことがあります」

「マイナ様……?」






「貴方の妹は、転生者です」






「マオが……転生者、ですか」

「はい。ですが、これははっきり言っておきますが、勇者召喚がまた行われたわけではないのです。そこは、勘違いしないでください」






 つまり、同郷の者ではないということか。

 正直に言えば、勇者召喚にはあまりいい思いはない。

 自分が巻き込まれたからだということもあるが、人を殺めてでも呼び出したその魔法のシステムが、気に食わないんだ。

 前世の世界は戸籍管理がしっかりしているし、よほどのことがない限り人付き合いからは逃れられない。

 天涯孤独じゃない人間に勇者召喚を使うということは、遺される人間が必ず出るということだ。

 …………そんな魔法なくなってしまえばいいのに。



「あの……本当ですよ? 本当ですから、あんまり怖い顔しないでくださいっ」

「っ、すいません、大丈夫です。わかってますから」


 不快感が顔に出てしまったのか。眉間に寄ってるシワを戻すべく、顔全体をマッサージする。ついでに気持ちを切り替えるべく、強めに頬を叩いた。

 よし、切り替えていこう。


「マイナ様の話はわかりましたが、ではその転生者というのは……?」

「申し訳ありませんが、それは教えられません。故人の情報ですから。でも少なくとも、アレスガルドの人間であることは間違いはありません」


 なるほど、それなら言えないのも無理はない。

 この世界で亡くなった人間であるなら、調べようと思えば調べることができる。

 一体どういった人間性で、過去にどんなことをして、どうして死んだのかを。

 知ってしまえば、もう彼女をマオとして見ることが出来なくなってしまうかもしれない。

 マイナ様もそれを危惧しているから、俺には教えられないと言ったんだ。


「それなら、どうして俺にマオが転生者であることを教えたんです?」

「はっきり言ってしまえば、フォローをお願いしたいんです」

「フォロー……?」

「身に覚えがあるかもしれませんが、前世の記憶があると赤ん坊の時期って抵抗があるでしょう? 家族に甘えたりとか、頼ったりとか」

「あぁ………………」


 身に覚えがありすぎる。確かにあの時期は、恥ずかしくて死にそうだった。

 お腹が減ったら泣き叫んでアピールしないといけないし。母親とはいえ胸に吸いつかないといけないし。下の処理は自分ではできないし。

 でも、恥ずかしがって何もしなかったら、本当に死んでしまう。だから恥を捨てて、文字通り泣いて縋った。


「貴方の妹は、貴方以上に意地を張るかもしれません。だからフォローしてあげてほしいのです」

「……確かにそういうことなら、転生者と知っていればうまく立ち回れるかもしれないですね。教えてくれてありがとうございます」



「…………怒らないんですか?」



 どうやってフォローしようか考えていると、マイナ様は不思議そうに首を傾げた。


「どうして怒る必要が?」

「貴方の妹は転生者です。前世を持った人間です。もしかすると貴方の妹ではなく、家族ではないと拒絶するかもしれないんですよ」


 いまいち両親のことを認めきれなかった、俺のように。

 前世の自分がフィルターとなり、素直に子供として接することが難しく、抵抗があった。

 俺はそれでも、すんなり受け入れたほうかもしれない。

 もしかしたらもっと激しく拒絶し、関与を嫌がり、昔の自分に拘ろうとしたかもしれない。

 他の転生者やマオが、そうならないという保証はない。だが、それでも……。



「たとえ前世が何者であったとしても、マオが妹であることに変わりはないですから」



「マオが自分の前世とどう向き合うかはわからないけど、俺はそんなの気にしない。彼女は妹であり、俺は兄だから。悩みの相談には乗るし、話したいのなら聞く。でも、それで態度を変えることはしません」


 昔は昔で、今は今だ。一年前、前世の想いを昇華できた俺はそう考えている。


 記憶や価値観が続いていても、自分の体や取り巻く環境は大きく変化している。

 過ぎた時間が戻らないように、終わってしまった自分に戻ることは二度と出来ない。

 マオはそれとどう折り合いをつけるのか、それとも引き摺ってしまうのか。どちらにしても、絶対に変わらないことが二つある。

 それは父親はディータであり、母親はマーザであること。俺という兄がいること。

 それだけは否定できない事実だ。前世があろうとなかろうと、生まれてきた以上は変えられない現実だ。


 だから、俺はマオの兄として出来る限りのことをする。それはきっと、当たり前のことだ。


「…………そうですか」


 俺の答えを聞いたマイナ様は、嬉しそうに微笑んだ。

 今まで申し訳なさそうに曇っていた表情はすっかりと晴れ、晴天のように晴れやかな笑顔を浮かべている。


「あの子の傍に、貴方のような人がいてくれてよかった。これで――――……」


 マイナ様の言葉は、最後まで聞こえなかった。

 目覚めの時がすぐそこまで来ているんだろう、意識が朦朧として聞き取れない。


 彼女が何を言おうとしていたのか、何故そこまで憂いていたのか。わからないままに、俺は朝を迎えた。

 父も母も産婆も疲れ果て、誰もが未だに眠りの中にいる。

 生まれたばかりの妹も、心地よさそうに母さんの腕の中で眠っていた。


「ああ、そうさ……昔のことなんて関係ない」


 マオという妹がここにいる。その事実さえあれば、前世があろうとなかろうと関係ない。

 新しく増えた家族。初めてできた妹。

 だから、俺に出来ることは何だってするさ。それが、兄貴ってもんだ。




<下書き>

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遅筆な作者のペースが上がる! ……かもしれません(汗

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