第2話「突然ですが、新しい人生が始まった」
本日2話目です。
1話目を読んでからお読みくださいm(_ _)m
突然だが、異世界に転生しても俺の不幸体質は変わらなかったらしい。
転生の女神の手によって、俺は異世界アレスガルドで新しい人生を迎えることになった。
新しい俺の名前はレオ。レオが名前で、オールドが苗字だ。
アレスガルドでは苗字のことを家名というが、俺の……というより多くの場合は個別の家ではなく、生まれた村や町の名前が家名扱いになる。
つまり俺の場合は、オールド村に生まれたからレオ・オールドという名前になったのだ。
産んでくれた母の名前はマーザ。名付け親の父の名前はディータ。母は家事を一人手に担い、父は狩人として生計を立ててくれている。
(うわぁ……俺、本当に転生したんだな……)
生まれて間もない頃は、瑞々しい肌をした小さな手を見て驚いてしまった。
三十年という月日を重ねた体が、すっかりゼロに戻っていたからだ。
そしてもう一つ驚いたのが、両親の容姿だった。
母マーザは肩口で柔らかそうな毛先が揺れる、ボブカットのプラチナブロンド。父ディータは燃えるような赤みのかかったブロンドで、髭面と相まってまるでライオンの鬣のようだった。
日本に暮らしていても、外国人を目にする機会はある。だがここまで鮮やかなブロンドヘアーとお揃いのエメラルドカラーの瞳を見せられると、もはやここは日本じゃないんだなあと実感してしまった。
(そういえば、俺の魂って生粋の日本人だ! この世界の言語ってわかるのか?)
耳を澄ましてみれば、まあ当然わからなかった。
生まれたばかりの赤ん坊だからなのか、それとも魂が日本語を覚えてしまっているからなのか、どちらにしてもいきなりペラペラ喋りだすようなチート能力は発揮できそうにない。
『見て、あなた。あなたそっくりの赤い髪よ、きっと大きくなったらあなたに似てわんぱくな子に育つわ』
『いやいや! 顔や目元なんかはお前似だ。将来はアカデミーで優秀な成績を残すんじゃないか?』
俺を覗き込みながら、楽しげに会話する両親。
うん、なに言ってるのかさっぱりわからん。
(日本語でないのは間違いないんだが、どこかで聞いた覚えがあるような……)
もう少し聞き取れないかと頑張ってみるが、すぐに限界が来た。
ヒアリングのテストは苦手だからではなく、いかんせん体はまだ生後間もない。
長く起きていることもできず、満足に動くこともできない以上、押し寄せてきた眠気に抵抗せず屈服してしまった。
こうして始まった、アレスガルドでの二度目の人生。
日本人離れした髪と瞳の色、そして顔立ちには非常に違和感を覚えたが、一年も経つころにはすっかり馴染んでしまった。
これからは暇な時は母の手伝いをし、時に元冒険者である父に武器の扱いを教わり、狩人として跡を継ぎ、細々と生きて伴侶を見つけ、幸せに暮らすのだ。
そう考えていた時期が、俺にもありました――――
案の定というかなんというか、俺という存在自体がもはや不幸の塊なのかもしれない。
わずか五歳で平凡な人生を願う、同年代の中でも達観したレオという男の夢は、ある二つの転機によって完全に粉砕されたのだ。
一つ目の転機は、四歳の誕生日に訪れた。
体は幼児だが中身は三十過ぎた大人であるためか、我ながら可愛くない子供になったものだと思う。
同年代の子供は何人かいるが、あまり一緒になって遊ばずに家に篭って本ばかり読んでいた。
目的も使命もなく生まれ変わったんだから、大人しく無邪気に遊んでいればいいじゃないかと思うかもしれないが、悲しいかな元受験生&社会人のサガだ。
なんというか、社会の厳しさを先に経験していると、やっておけばよかったと後悔することが何度もある。
あの時あの資格取っておけばよかったとか、この勉強しておけばよかったとか、誰にだって思い当たる節はあると思う。
ましてやここは異世界なのである。サラリーマン? 営業? スポーツ選手? なにそれ美味しいの? となるレベルの異世界だ。
同年代の子供とのやりとりだが、「かくれんぼでもやる?」「なにそれ食べれるの?」と返された時は世界観のギャップの差に目眩がした。
だから同年代の子と遊ばない、というわけじゃない。むしろ逆だ。
こちらの世界の子供たちと価値観を合わせるために、自分が今まで持っていた常識から脱却するために、先立って勉強を始めることにした。
勉強といってもそんな大袈裟なものじゃなく、読み書きの練習がてら家にある本を片っ端らから読み漁っているだけなのだが。
「しかし……根本が似ているとは聞いたけど、こういう意味だとはなあ……」
予想外なことに、俺の文字習得スピードは早かった。それには前世の経験が生きていた。
俺が転生したアレスガルドで、最も普及している共用言語は王国語というのだが、その言語体系は英語と酷似していた。むしろ知らない単語が増えているだけで、基本はすべて英語と同じだった。
おかげで書き方、つづり、前世で覚えてきたことがそのまま活用できた。
予想していたより早く読み書きの習得を終え、今はこの世界について勉強するべく様々な本を読んでいた。
(知ってる動物に植物も、結構あるんだよなあ。犬や猫はもちろん、朝顔とか、この地方じゃ見ないけど桜もあるのか。考えてみれば、前世と同じ姿形の人間がいるんだから、他の生態系が似ていても不思議じゃないんだよな)
「なあ? レオや。本ばかり読んでないで、たまには外に出てみないか?」
そう言って俺の部屋に入ってきたディータは、どこか挙動不審だった。
「狩人の訓練の話? だったらちゃんと午後からやるよ」
「それはいいんだ、それはいいんだよ! でもだな、もううちの本も全部読み終わっただろう? だったら体を動かしたほうがいいじゃないか!」
「別に何度読み返しても飽きないけど…………ああ、もしかしてまた買った?」
「ギクゥッッ!!」
親父殿は危惧しているのか。また同じ過ちが繰り返されるのじゃないか、と。
読む本を探していた俺が、親父殿の部屋からどこがとは言わないが豊かな女性が出てくるエ○本を発掘してしまったことを。
それが、どこがとは言えないが慎ましやかな母上殿に見つかってしまい、この世のものとは思えないほどのお説教を受けたときのことを。
(ていうか、それでも同じジャンルの本を買ったのか、親父殿……)
行商人は月に一度、この村にやってくる。
まさにお宝とは一期一会、買い逃したくない気持ちはわかるが。
俺も前世で秘蔵のお宝が見つかった時、全部処分させられたからなあ……。
「大丈夫だよ。隠し場所は知ってるから、もうそこには触らないから」
「そ、そうか。それなら……い、いや待つんだレオ! お、俺はもう反省してだな……」
「でもベッド下の床板の中はやめた方がいいと思うよ? 結構、音響くし」
「な! なな、なんのことだかさっぱりわからないが、忠告感謝する!」
親父殿は慌てて部屋を出ていった。
確か母上殿は今、買い物に出かけているはずだ。今のうちに隠し場所を変えるつもりなんだろう。その最中にバレないことを祈るか。
そしてふと、祈るということで転生する前のことを思い出し、一冊の本を手に取った。
『二つの顔を持つ神の恩恵』というタイトルの本だ。
アレスガルドは前世とは違い、目に見える形で神様が存在する。
それは隣人のように気軽に触れ合える存在というわけではなく、信仰する者に『ギフト』という特別な加護を与えてくれるのだ。
この本はその神様たちがどういった存在で、何を司っているのか、などの様々なことを記している。
そしてこの本によると、アレスガルドの神は二つの側面を持っている。
たとえば『レイ=モアク』。戦神の一人で『剣』と『炎』を司る神だ。
この神を信仰する者は剣の扱いに長けたり、炎と相性が良くなるなど、司るものと同じ属性に関する恩恵を授かれる。
属性を持つ神様を信仰すると、その属性を持つ魔法も強化されるため、魔法を習得した者は何かしらの神様を信仰していた。
そこで、ふと思い出した。前世から今世へと転生する際、女神さまの世話になったことを。
正直に言ってしまえば、今の今まで忘れていた。
赤ん坊の体っていうのは思った以上に自由が効かないし、何より疲れやすく、言葉を理解するように意識を傾けることで精一杯だった。
薄情と思われるかもしれないが、この本を取るまで女神さまのことをすっかり忘れていた。
毎日が充実していたし、忙しなく瞬く間に過ぎていったからだ。
だが、そこで不思議なことに気づいた。
転生を司る女神のページがどこにもなかった。
この本には載っていないのか。それとも載せられない理由がないのか。
あるいは……本人が嘘を言っていたのか。
だが、あの場で俺に嘘を吐く理由はない。おそらくは本に載らないほどマイナーなんだろう。
今さらな話ではあるが、思い出したからには感謝の祈りは捧げるべきだろう。
この日から俺は毎朝、目が覚めると名前も知らない女神さまに向かって両手を組んで、祈りを捧げる習慣をつけた。
そして四歳の誕生日を迎えた日の夜、俺は再び女神さまと再会した。
「加護」と「ギフト」は別物です。
神様から直接賜る加護=固有スキル
信仰者になって賜るギフト=汎用スキル
こんな認識で大丈夫です。
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