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第1話「突然だが、異世界転生することになった」

連載小説は初投稿になります。

書き溜め分があるので、しばらくは一日二話投稿します。

 突然だが、俺の話をさせてほしい。

 といっても、そんな大それた話じゃない。三十数年程度の、短くもなく長くもない一生を終えた男の過去を少しだけ振り返ろうってだけの話だ。


 最初に言っておくが、そんな改まって言うほど面白い話なのかと言われると、実はそうでもない。


 ただ「お前は運が悪い」「巻き込まれすぎだろ」「お祓い行く?」「実は前世は疫病神だったんじゃない?」と言われるくらいに、頻繁に不幸な目に遭う程度だ。

 道を歩けば黒猫とよく目があったり、カラスがよく鳴いたり、靴紐が切れたり、犬のフンを踏むなんてしょっちゅうだ。

 交通事故なんて年に一回以上は遭遇するし、不良やヤンキーに絡まれたり、カツアゲに遭ったりなんて日常茶飯事だった。

 他にも受験や試験を受けようと勉強すれば風邪を引いたり、豪雪に見舞われて滑ったり、転んだり、骨折したり、答案が自分だけ足りないなんてよくあることだ。

 

 そんな不運まみれの俺だったが、それなりに好きな人ができてうまくいき、子供は出来なかったが人生の終点を迎えた。

 だが残念なことに、天寿を全うしたわけじゃない。




 その日は結婚三年目の記念日だった。

 ケーキを買って満足げに電車に乗っていたが、突然、凄まじい横殴りの衝撃に襲われた。

 自分だけでなく何人の人が体勢を崩して転び、それだけでなく外に見える景色がすごい勢いで目まぐるしく入れ替わり……ああ、脱線事故だ、と他人事のように思いながら意識を手放した。


 事故の詳細はわからないが、俺は目を覚まさなかった。

 気が付けば俺はスーツ姿の自分と、亡骸に縋り付いて号泣する妻の姿を眺めていた。

「残念ですが」「立派な先生でしたのに」「どうしてこんな」と、身内の誰もが涙を流していた。




 結局、俺は自分の亡骸が火葬に弔われるまで、家族の傍に寄り添っていた。

 体が崩れると共に、だんだんと意識が遠くなっていく。

 残していく妻が気がかりだった。保険金があるからしばらくの生活は大丈夫だと思うけど、早く元気を取り戻して、新しい幸せを掴んでほしい。

 そんなことしか願えないことが悔しかったが、不幸体質の俺が得た数少ない幸運の一つが、彼女の存在だ。

 だからせめて、生まれ変わる前に彼女の幸せくらい願っておかないと――――










「…………もしも~し、聞こえますか~?」


 二度と目が覚めないと思っていた。

 少なくとも、俺という人生はもう終わったと思っていた。


 だっていうのに、何故か目が開いた。

 そして視界いっぱいに、金髪碧眼の少女の顔が映っていた。


「あ、起きましたね? おはようございます」

「……おはよう、ございます」

「はい、おはようございます!」


 少女はペコリとお辞儀をし、きめ細かな金色の髪が肩にかかる。

 まるで宝石のような碧眼はくりっとしていて可愛らしく、見た目は二十歳前後の美女なのだが、その仕草や纏う雰囲気から可愛らしい少女のようにも見える。

 だが問題は、俺にこの少女と面識はないことだ。

 なにせ肘まで伸びるウェーブのかかったブロンドにエメラルドカラーの瞳。日本人離れした目鼻顔立ちに加えて、モデルのような凸凹にハリのあるプロポーション。

 街中で十人が見かければ、全員が足を止めて振り返るほどの美人だ。もし会ったことがあるのなら、忘れようがないはず。


「う~ん……やっぱりリストにない方ですよねえ。まいったなあ……」


 不思議がっていると、いつの間にか取り出したのか少女の手元にはA4サイズの用紙束があった。

 そのすべてに目を通しながら、最後に困ったようにため息をついた。


「でも、もう取り消しできないし、なんとかねじ込むしかないわよね」

「失礼ですが……お嬢さん? 少し、いいかな」

「あら! お嬢さんだなんてお上手ですね。はいはい、なんでもお聞きください」

「おかしなことを言うかもしれないが、俺……いや、私は死んだはずなんだ。弔われるところまで見届けたんだ。今、私はどうなっているんだ?」


 よく見てみれば、ここには何もなかった。壁もなく、天井もない。

 目が痛くなるような真っ白な大地と、色を失って無色になった空があるだけだ。


 現実にはありえない景色に目眩がする。

 俺はもしかして、夢を見ているのか?

 だとすれば、どこからが夢なんだろう?

 実はまだ電車に乗っていて、日頃の疲れから眠りこけている最中なのかもしれない。




「いいえ、残念ながらこれは現実です。貴方はもう、亡くなられました」




 少女は被りを振って、俺の考えを否定した。というか、もしかして口に出ていたか?


「喋ってはいませんよ。私が心を読んだだけですので」


 フフン、と少女は得意げにそのボリュームのある胸を張った。

 確かに今は喋っていなかった。頭の中で考えただけだが、もしかして本当に? というか、そんなことが可能なのか?


「もちろん、できますよ。なにせ私は神様。転生を司る女神さまですから」


 少女が不敵に笑った瞬間、目の前に白い羽根が舞い降りていた。

 彼女の背中から生えた四枚の大きな翼から抜け落ちた、いくつもの羽根が淡い光をまとっている。


 神様……というより、天使に見える。

 ああ、だとすればやはり、俺は死んだのか。


 これから天国に……いや、もしかすると生まれ変わりなのかもしれない。

 どちらにせよ、こうしてお迎えが来たんだから俺の人生は終わったのだ。


「あの、お迎えには違いないんですけど……連れて行く先でちょっと、問題がありまして」


 今までの自信あり気な態度はどこへ行ったのか、急に少女……女神さまは視線をあらぬ方向に彷徨わせ、立派な四枚翼が折りたたまれた。


「問題? 死んだらまずは閻魔様のところで裁きを受けるのでは?」

「本来だったらそうなのですが、実は今回は特殊なケースなんですよ。難しい話は一旦置いておきまして……」




「異世界転生って、ご存知ですか?」




 まさか、女神さまからそんなサブカルチャー用語を聞くことになるとは思わなかった。

 もちろんと言ったら変かもしれないが、俺はそれなりに漫画も読むしゲームもする。

 妻と一緒にアニメを見て、感想を言い合うことは毎週の楽しみだった。

 その中で、異世界に行ったり生まれ変わったりするジャンルがある。女神さまの言う異世界転生が、それと同じかはわからないが……。


「それですそれです。その異世界転生で間違いないですよ」


 マジか……フィクションがノンフィクションになった瞬間に立ち会ってしまった。

  ※もちろんこの話はフィクションです。


「少し長くなりますが、お話を聞いてください。ただ、気分を害されるかもしれません」


 そう言って女神さまは、今回の異世界転生について話をしてくれた。




 事の発端は『アレスガルド』と呼ばれる異世界にあり、女神さまはその世界からやってきたのだ。

 その世界では機械の代わりに魔法が発達し、その中にある召喚魔法に『勇者召喚』と呼ばれる儀式がある。

 ただこの儀式には問題があり、死んだ者しか呼び出すことができないのだ。


 つまり転移ではなく転生でなければ、召喚できないということだ。


 だが召喚側で何かしらの手違いか問題が起きたらしく、本来ならば死後の世界に発現するはずの召喚陣が現実世界に発生してしまった。

 結果として、召喚は成功した。成功してしまった、のだ。


 生きている者を、無理やりに魂だけの存在にしたことによって。


「つまり、あの脱線事故は『アレスガルド』の召喚の影響で起きたものです。あの事故で亡くなった者を対象に、何人も『アレスガルド』に転生しています」

「……本来なら、私を含めて何十人もの人は死ぬ必要はなかった、ということですか」

「………………ソウデスネ」


 うん? 今なんか、口調がおかしくなかったか。

 それに、さっきまではちゃんと目を合わせて会話していたのに、また視線が泳ぎ始めたぞ。


「女神さま……?」

「うぅ~……怒らないで、聞いてくださいね? いえ、怒ってもいいんですが、急に怒鳴ったりしないでください」


 なんだ。そんなこと言われると非常に気になる。

 短気ではないし、本気で怒ることなんて滅多になかったが……まあ、いきなり初対面の相手に怒鳴るほど、気性は荒くないつもりだが。


「……なるべく努めます。内容によりますが」

「本当に、お願いしますよ……」


 ビクビクと身を抱えて震え上がる。

 こうして見ると、神様というより本当にただの女の子なんだがなあ。


「実はですね、今回のイレギュラーな召喚のせいで不具合が発生しまして」

「召喚は成功したのに、不具合ですか?」

「はい。複数の勇者を召喚することは成功しましたが、それでも巻き込まれた人数が多すぎました。そのせいで勇者にはなれなくとも、転生することにしたのです」

「普通と言っていいかわかりませんが、天国や地獄に送ることはできなかったんですか?」

「当たり前ですけど、不慮の事故で死にたくないという人ばっかりでした。さらに言うと、ここは既に『アレスガルド』の神の領域です。ここから元の世界に帰ることは、もうできないんです」


 つまり俺も、日本に戻って大人しく死後の裁判を受けることはできないわけか。

 もし本当に死後の世界があるなら、両親や妻と再会できたのかもしれないが……もうそれを嘆いても仕方ないか。


「それで、ですね? 転生した方々には謝罪と賠償を含めて、一人につき一つの転生特典を与えることにしました!」


 えへん! と鼻高々に宣言するが、急に俗っぽくなったな。


「正確には、特典というより『女神の加護』あるいは『女神の祝福』と呼ばれるものです。魔法以外の特別な能力や才能を与えることが出来るのです!」

「ほう……例えば?」

「今回ですと、『魔力が常人の三倍はある』『特別な魔法の適性がある』『ステータスの成長補正が倍になる』とかですかね」

「お、おお……」


 すごいのかすごくないのか、よくわからない。

 もちろん普通の人よりはるかに優れた能力になるんだろうということはわかるが、基準がわからないから何とも言えん……。

 某漫画のように、戦闘力たったの5を三倍にしても15くらいにしかならない。

 サ○バ○マンがゴロゴロ出てくるような世界なのだとしたら、せめてヤ○チャくらいに強くなれないようでは焼け石に水なのでは?


「大丈夫です! 強くなれます! 緑の星から帰ってきた頃のク○○ンさんくらいには強くなれます!」


 それはそれで十分強そうだ。

 少なくとも、地球人最強クラスにはなれるらしい。


「なら、私にもその加護を頂けるんですか?」

「それが~……なんですねえ~……」


 まただ。女神さまの挙動が不審になる。


 ――――――まさか、とは思う。

       嫌な予感がするが、そんな、まさかねえ……。


「…………怒らないで、聞いてくれます?」

「内容によります」

「――――――…………実は、転生者の選別、もう終わっちゃったんです。

 なのでもう、貴方に与える分の加護残ってないんです」


 てへっ。

 わざとらしく、あざとさを狙い、テヘペロする女神。



「おい」



 怒鳴らないでくださいとお願いされたので、静かにキレてみた。


「お、おおおお、怒らないって言ったじゃないですかぁっ!!」

「努めるとは言ったが、絶対に怒らないとは言ってない」

「そもそもですね!? どうして今さらこっちに来るんですか! 他の転生者さんたちは、死後すぐにこっちに来たっていうのに!」


 そう言われると、心当たりが一つある。

 あの世に逝く方法がわからず、しばらく現世に残っていたせいだろう。

 その期間を利用して、遺族との別れを惜しんでいたのだ。


「ぐぅぅ……そう言われると、本当に申し訳ないとしか……」

「……まあ、済んじまったものはしょうがない。それでも俺は転生しなきゃならないんだろう」

「そうなんですが……急にフランクになりましたね」

「巻き込まれで異世界転生させられる挙句、なんの餞別も用意してない責任者が出てきたんだ。そりゃあ投げやりにもなるさ」

「はい、申し訳ありません!」


 まあ正確には、彼女は転生を司る神様なのであって、召喚を実行した奴らが一番悪いに決まってる。

 できれば直接、文句を言ってやりたいところだ。生まれ変わるとなると、何年後になるかわからないが。


「と、とにかく……こちらからご用意できる転生特典はこちらです」


(もはや女神というより営業だな)


 失礼だとは思うが、そんなことを考えながら話の続きを聞いた。


 まず転生である以上、赤ん坊からやり直しだ。

 ただ記憶や経験は残っているらしく、普通の赤ん坊や幼児よりも早く成長するだろうということ。


 ついでに、慰謝料というわけではないが『女神との交信』ができる加護を賜った。

 これは自由に話ができるというわけでなく、たまに夢の中で話ができる程度のものらしい。

 将来的に神官などの神に仕える者を目指した時、それこそ祈りを捧げるだけで自由に交信できるようになるという話だ。


 他にも、これから向かう『アレスガルド』についても聞いてみた。

 よく言えば、剣と魔法のファンタジーな世界観であり、実は俺たちの住んでいる地球と非常に似た世界であるというのだ。

 文化や歴史などではなく、もっと深い根っこの部分で共通点がある、とは女神の言だ。意味はわからない。

 そしてオーソドックスなファンタジーであるからこそ、その世界には魔物をはじめ人間以外の生き物が多く生息しているのだそうだ。

 今回行われた『勇者召喚』も、それが関わっていることは想像に難くない。


 生まれた瞬間からピンチ、なんてことになったら洒落にならない。

 なるべく安全な場所に生まれたいのだが、と試しにお願いしてみたところ、「構いませんよ?」とあっさり許可が出た。

 結果として俺は辺境ではあるが自衛力は高く、医療に詳しい人物のいる街に転生することが約束された。実にありがたい話だ。


「それでは、これで転生準備完了ですね!」

「ああ。……いや、最後にひとつだけ。ダメ元なんだが、頼みたいことがあるんだがいいかな?」

「女神様に不可能なことなんてそんなにないんですよ? 言ってみてください」


 頼り甲斐があるのかないのか、判断に困る自信だ。

 ともあれ、実現困難な話だって自覚がある。もしも断られても、それは一向に構わない。



「……残してきた家族に、妻に、「俺の分まで、幸せになってくれ」と伝言を頼みたいんだ」



 夢枕でも構わない。転生する以上、俺は新しい人生を歩み始めるのだ。

 そこに俺を産んでくれた両親はいないし、共に人生を歩んでくれた伴侶もいない。


 だが、二度と一緒になれない相手を引きずったまま、新しい人生を謳歌できるはずがない。


 だからこれは俺のケジメであり、身勝手なお願いだ。

 もう帰ってこない男のことに気持ちの整理をつけて、過去のことにして、新しい道を歩んでほしい。

 それを俺も望んでいるのだと、わかってもらいたいんだ。


「ふむ……構いませんよ」

「……出来るのか?」

「さすがにすぐに、とまでは言えませんが。一、二年ほど時間をいただければ、あちらの神様とコンタクトも取れるでしょうし」

「――――……そうか。それなら、頼む」

「ええ! 頼まれましたとも」



「それでは、新しい人生を送る転生者よ。

 貴方の行く先に、幸せな道が続きますように」


 女神が四枚の翼を大きく広げると、視界を光が覆い尽くした。

 俺の意識は、その光に溶けていくように落ちていった。




 …………それにしても、巻き込まれたり不運な目に遭ったり、さんざん不幸体質だと思ったがここまで来るとは思わなかった。

 巻き込まれて異世界転生。しかも俺だけボーナスなし。

 この先の人生は、せめてハードモードにならないことを祈りたい。


 ただでさえ、基本的には平和な日本であんな人生だったんだ。

 剣と魔法のファンタジーな異世界で遭う不運なんて、考えたくもないぞ……。




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遅筆な作者のペースが上がる! ……かもしれません(汗

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