怯えた顔で
革命家になるつもりなど
なかったけれど、
ただ誠実に生きてきたら、
革命に身を投じることに
なったのだと、Sは言った。
Sが言うのには、
ただ誠実に人の話を聞き、
人との約束を守り、
命あるものを、できるだけ
慈しんできただけの
ことだったらしい。
むろん、革命家である以上、
Sは国の異端者であったし、
Sと関係することは、
いけないことだと、
政権は言いきっていた。
しかし、Sは人々から
信頼を得ていて、
その姿は、神々しい光に
包まれているかのように見えた。
そのSが言っていたのだ。
ただ誠実に生きてきたら、
革命に身を投じることに
なったのだと。
そして、このまま、人々から
信頼を得ている自分を、
生きていけばいいものかと、
Sは革命家らしからぬ、
ひ弱に怯えた顔つきで、
夢の中の私に尋ねるのだった。
何年ぶりかで見た昼間の夢だった。
それから私は、
ウイルスが町に広まる間、
一日中Sのことを考えていた。
そこに答などはなく、
ただ過ぎた日の自分の夢と
現実を見比べながら、
Sの言葉をなぞっていった。
今、テレビの画面に、
国を変えようという者が
映っている。
彼が理想に燃える
改革者なのかどうかはともかく、
Sのような等身大の
感じ方を持つ者かどうか、
私はそれが知りたくなった。