アーサー
がたんと揺れた馬車の中で、貴女は目を覚ました。
(う……ん、何?)
何時の間にか眠っていたようだ。
(いや、寝てたっていうか、さっき、オレは……)
貴女の手には村を出るときに両親が持たせてくれた、『木の棒』がしっかりと握りしめられている。
『しっかりやるんだよ』
そういって『木の棒』を渡してくれたときのことを思い出した貴女は、少しくすぐったい気持ちになった。
(いやいやいや、上京する子供への餞別が木の棒って何よ?嫌がらせか)
ふと貴女はこちらをじっと見つめている青年に気が付く。
商人らしい服装の軟派な感じの青年は、よく目立つ水色の髪をしていた。
彼は貴女と目が合うと、その垂れ目がちな金の瞳で、パチンとウィンクして見せた。
(うげぇ、あれ、コイツどこかで見たことあるな)
突然のことにどぎまぎしていると、(いや、別にしてねーよ)彼は窓の外を指差した。
「外で何かあったみたいだぜ、見に行かないか?」
(だが断る)
そういうと彼は貴女の手を引いて、馬車の外へと飛び出していった。
(いや、断るっていっただろ。だいたい、上京したての女の子が一番着いて行っちゃいけないタイプだろ、アイツは!)
外に出るとスライムの親子が道を塞いでいた。
(スライムの、親子?)
「なあアンタ、その制服、学園の生徒だろ?ちょっと人助け、していこーぜ」
(ん?この制服は……)
彼は短剣を構えるとスライムの親子に向かっていった。
(このシーン、どっかで見たような)
貴女も緊張した面持ちで『木の棒』を構えると、彼の後を追った。
(ちょっと待て!)
戦闘の説明をします
(いきなりなんだよ?)
モンスターとエンカウントして戦闘が始まると、貴女の固有スキル『ヒロイン』が発動します。
(ヒロインってスキルだっけか?)
『ヒロイン』が発動するとモンスターは魅了され、貴女に攻撃できなくなります。
(それって、こっちが一方的に殴り放題ってことか?)
では攻撃してみましょう。
まず、ダイスを振ってください。
(はい?ダイス?ああ、画面の端っこでくるくるしてるヤツか)
貴女の攻撃力は、力のパラメーター値と武器の攻撃力、ダイスの合計値を足したものになります。
ダイスの目が7で揃った。
おめでとうございます。クリティカルヒットです。
(……)
ダイスが同じ目で揃うとクリティカルヒットが発生します。
クリティカルヒットが発生すると様々な効果が得られます。
この場合は、貴女の力『1』と『木の棒』の攻撃力『1』の合計『2』が100倍になり、更にあなたのレベルが『1』上がります。
レベルが上がるとパラメーターが初期値に準じて上がっていきます。
スライムに200のダメージが入った。
スライムを倒した。
さあ、この調子で残りのスライムも倒してしまいましょう!
(ああ、うん、分かった。これはオレが悪い。餞別が木の棒なの、オレのせいだわ)
ふたりの活躍によってスライムは退治されました。
(つまりアレだろ、ここは、『茨の月と宵闇の少女』の世界)
(じゃあ、オレは、死んだ……のか?)
「アンタ、意外とやるじゃないか!おかげで助かったよ」
彼は笑顔で貴女を振り返ると、一瞬驚いたような顔をした。
固有スキル『ヒロイン』について説明します。
(なあ、オレさ、今ショック受けてるとこなんだけど……)
固有スキル『ヒロイン』はパッシブスキルです。
常時、周囲に『魅了(小)』の効果を与えています。
更に、運のパラメーターが100を超えると、低確率で目が合った相手に『誘惑』の効果を与えます。
(はい?なにその痴漢のおっさんのいい訳みたいな効果は!)
(いや、ちょっと待て。確かさっき……)
「そういえば、まだ名前、訊いてなかったな」
彼は貴女にはにかんだ笑顔を向けてきた。
(おい、なんか悪寒がするんだけど!)
「オレはアーサー。アンタは?」
「私は柚月です」
「柚月か。いい名前だな」
そういって彼、アーサーは指で貴女の乱れた髪を梳いた。
(待て、落ち着け、なに『誘惑』されてんだ!)
(早く、早く正気に戻るんだアーサー)
(あと名前変えさせてくれぇ!)
(アネキの名前で呼ばれるのはいやだぁぁぁああ!)




