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魔王と勇者に憧れた者  作者: ヨベ キラセス
一部 魔約編
8/40

魔王の娘 1

 相変わらずと言うべきか曇り空。

 魔界に来てからずっとそんな天気だったが、俺は今日も変わらず床を磨く。

 なぜか傍にオッサンがいるが、俺は今日は喋りたい気分だったから好都合だ。他に話し相手いないから。


「……で、結局俺なんか怒らせたか?」

「いやー、君は実は鈍感とはねー」

「なんだよ」

 俺は雑巾を奴に押し付けるが、こいつニコニコと避けやがった。

「いやー、君は本当に面白いね! そんなにその女の子を気にしているのかい?」

「当たり前だろ」

 意外だったとばかりに驚くソイツに今度こそ雑巾をぶつけ、拾って再度拭きながら話す。

「だって魔王城を徘徊するガキだろ? 俺の知る限りそんなことする大人は幹部クラス、あるいはソイツ自身が幹部だ。前者なら親の威厳や、何かあった時その親が報復する可能性がある。後者ならあっさり殺してくれそうだが、ソイツの性格は悪くないが、もし仮に性格最悪な奴だったなら……ベラベラ喋っちまったからなー。ソイツ、俺が『餓死』だけは嫌だって知ってるからあえてその死刑方法とられたら俺辛いんだけど。そん時魔王権限で俺をアッサリ殺してくんない?」

「本当に君は『生』に執着しないね。私としてはそれが何よりの心配なんだけどねー」

「とにかくだ! ……アイツに悪い事が起こるってんならアイツとその家族を守ってやって欲しいんだ。……ろくでなしな人間に関わっただけで嫌な目に合うなんて、かわいそうだからな」

「………」

「なんだよさっきから」

「いやいや、私は嬉しいんだよユウマ」

 そう言って奴は雑巾を投げる。コントロールのいい奴の軌道はそのまま俺がキャッチするようになっている。

「なんだよ。いつもはもう少しやってくんだろうに。とうとう俺と関わる事が時間の無駄だと理解して殺す気になったか?」

「そんな思考はお前だけだよユウマ。私は別に、君は親友の感覚で接しているつもりさ」

「ガキに親友って、オッサンぼっちか?」

「ははは、言葉の意味はなんとなくわかるが、魔王とは孤高の存在だからね」

「そーは見えねぇけどなー」

「……そうかもね」

 最後、奴は少し湿っぽいことを吐いてその場を後にする。

 珍しいことに俺は考え込む。


「だーいぶっ!!」


「へぶぁ!?」

 座って気を取られている中での背中からの痛恨の一撃、俺は漫画の如く3メートル先の扉まで吹き飛ばされた。

「……」

 こいつアレか? ゴリラか? クマか?

 被疑者はと言うと笑みを浮かべてポカーンとしているし……俺は背をさすりながら戻り、雑巾をバケツで洗う。

「……お前なんだよ。人型魚雷か?」

「ひとがたぎょらい?」

「……いやいい、忘れろ」

 悩むソイツの横で雑巾を絞る。そして再び床に手をかけるときにソイツは口を開く。

「なんで掃除してるの?」

「……あのなー」

 なんだろーな、こいつといい、あの魔王といい、どうも人間の扱いをいまいち理解していないのかと頭を抱えつつ、ひとまず常識を教えることにした。

「いいかお前。俺は『人間』で、ここは『魔王城』。本来人間はここにいてはいけないし、仮にあるとしてもソイツは奴隷や玩具だ。つまり俺はこの城を掃除するために生かされた奴隷で、それ以下があっても以上はないんだよ」

 まあ反抗して殺されてもいいんだが、とはあえて言わなかったがソイツはだんだん聞いているうちに険しげな表情になっていく。

 だが、ここ魔界の、それも魔王城で人間への優しさは、弱肉強食の世界では死を招きかねない。

 こいつがどの程度偉いかは知らないが、俺はどうしてか、コイツは不幸な人生を歩んでほしくないと思ってしまった。本当、たった半日くらいの付き合いなのに、な。

「ま、そう言うわけで、だ。お前はもう俺に関わるな。魔界基準では知らんがお前は可愛い部類なんだから、変な奴に目をつけられれば大変だしな」

 と促し俺はバケツを持って違う場所に向かうことにした、のだが……。

「……ん?」

 俺はいつの間にかバケツを持った右手首を掴まれていた。

「なんだよ、もう関わるなって」

「……お」

「ん?」

 目を見ると、ソイツはすごく赤く、だが目を見開いてしっかりと俺の目を見ている。

「……僕は『マオ』! ソイツでもコイツでもお前でもない!」

 どうやら名前で呼ばれなかったことに怒っているのか?

 しかしそのあと少し俯き、ボソボソと呟く。かなり近いが、聞こえなかった俺は、

「え、なに?」

 とつい聞き返していて、そしたらさらに赤くなったマオが大声で聞いた。

「…か、可愛いって本当ッ!?」

「お、おう……」

 ……なるほど、コイツはそれに照れていたらしい。


 瞬間、俺の脳裏に電流走る。


 ……もし、だ。

 俺はなんとなくそう思ったんだから、人間側からすれば思わない奴はいないだろう。何せさらに成長すればきっとヤバい奴になるかもしれない。

 しかしだ、そこを突いてくる奴がいるかもしれない。

 その時こいつが「可愛い」だの「美人」だの言われて、言われ慣れずに照れて戦えなくなったら? その隙をついてくる卑怯な人間だったら? 


 ……非常にまずいな、と人間側の俺は思い、ここで慣れさせるべく嘘偽りない範囲で褒めることにした。

「おお、むしろ今そのぐらい可愛いと、大人になったときには美人系になってるかもな。知ってっか? 俺の世界の本には魔族はかなり美形なんだよ。そして俺はお前が将来世界を魅了するほどに美しくなるはずだ! いいかマオ、お前はもっと自分に自信持て! お前はきっといい女に……」

 そこでハッとする。どっかの掲示板、ラノベ、その他口説き系の話を繋げたりして褒めたが流石にやりすぎた。むしろお世辞に聞こえて怒るかもしれない。

 俺は振り向かず、緩んだ手を払って逃げることにした。


 ひとまず今日はもう外を掃除しよう、そう思ったのだった。

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