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魔王と勇者に憧れた者  作者: ヨベ キラセス
一部 魔約編
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閉ざされた姫

 ………もう、いやだよ…たすけてよ…


 ………わたしは『 』になりたくない……ただおかあさんといっしょに………


 ………ただおとうさんが『 』だっただけで、わたしには関係ないじゃない……


 ………だれか、たすけて––––





「………」

 懐かしく、そして悲しい夢を見た気がする。

 ふかふかのベッドから起き上がり鏡の前に立つと、あまりいい顔とは言えない自分がいる。

 頭に手を乗せると、少しねじれ曲がったツノが生えていて、自分が『魔族』だと自覚する。

「……でも、心は人間よ…」



 遡ること数日前、それまでは王都『ファルマ』の王城の一室で隔離されていた。ボク(・・)は特に何もしていない。でも『血筋』がボクを罪人のように仕立て上げた。

 一人の少女には、小さな山で育った人間の女の血と、そして魔王の血が混じっていた。魔王は少女が生まれる前に行方をくらまし、生まれて数年後に王城に連れられ、少女を隔離し、母を『勇者』と呼んで戦場に突き出した。そして数ヶ月して、母は帰ってきたものの、そのまま日に日に衰弱していき、原因のわからないままこの世を去った。少女は悲しみの淵に立たされるが、それを国が、世界が許してはくれなかった。

 彼女には勇者の血もあり、だからこそ対応がかなり酷くなる。いっそ殺してくれればいいものの、そうすれば唯一の『対魔王戦力』が完全に途絶えることを意味していて、しかしその魔王を討てば今度は少女が『次期魔王』の危険もある。

 だからか、王都最強の『ファルマ聖教騎士団』に預けられ、団長兼最大の王都非公認集団『異端審問会』の司祭の男によって恐怖を植え付ける方法で反乱できないように教育していた。


 少女はただ、のどかな山や森で普通の暮らしをしたかっただけなのに、世界はそれを許さなかった。だから、ボク(・・)は––––



「……お腹すいた」

 人並みの食生活を必要としない、と最近理解したボクは、しかし流石に数日口にしなければそれなりに空くのだと今になってわかり、しかしいつも扉の向こうに置かれた食事に手をつける気にはならなかった。ボク用に人間食を作って置いてかれるが、作ったのが魔族なら手をつけたくなかった。

 ふと鏡を見た。『初めて』映し出されたボクの体は、全く手をつけていないのに痩せてなく、クシャクシャな赤髪と淡く光る赤眼。

「……全く、真逆ねボクたちって」

 脳裏に映るのは青く長いサラサラの髪をなびかせ、空色の瞳が綺麗な少女の姿。でも、ほとんど靄にかかったようになって、思い出せてはいない。

「……そうね。ここも真逆でいいかな」

 鏡の横の机に置かれた刃物を取り、かなり長かった髪をジャキッ、ジャキッと切り落とし、全体的にそれなりに短くなりクシャクシャ具合が少し抜けた髪になった。

「……出ようかな」

 初めての決断。ボクはまるっと覆うローブを着てこの部屋を出た。ただ、何も考えずに。

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