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魔王と勇者に憧れた者  作者: ヨベ キラセス
二部 魔狼編
37/40

叫びたい言葉は…… 4

 ––––ふふ、あなたは通じないのね。


 灰色の髪が揺れる少女は、金色に輝く瞳が悲しみに満ちていた。


 ––––約束なさい。いつかまた会うと。


 両親に連れられて出た屋敷で、その窓から送ってくれた少女に、俺はその時、きっとなにもわかってないまま手を振った。


 ––––あなたは私のものよ


 その言葉の真意を理解していない、幼き日の思い出。




 _________________________________


「……なぜ? 何故効かない!!」

 女は動揺して叫ぶ。

 簡単に言えば、俺とマオはその『魅了』を受けず、すでにマオがその女の首根っこを掴める位置まで歩いていた。

「くっ……そこのガキ! 私にした––––」

 俺はその女が差し出す手を撃つ。

「あああああああ!!」

 手を抑え悶える女に、マオは冷ややかに見ていた。

「……どうして……私は選ばれた存在……転生者よ!!」

「いいえあなたは選ばれた人ではないわ」

 マオは大きく手を掲げ、

「……あなたは救えないゴミよ」

 大きく振り下ろした。



「……なんでこうなっても出てこないんだおっさん」

 後処理を終えてふと思ったのがそこだった。いまだほかの魔族が迎撃に入った感じはなく、かなり状況は最悪だった。

「普通魔王城ならこんなにあっさり陥落するのか? まさか広間でぬくぬく構えているんじゃ」

「あ、今日パパほかの魔族との会合でいないの」

「あの役立たずジジイ!!」

 俺は壁を殴る。まあ明らか痛いの俺の右手。

「……しゃーねー。早く残りをとっちめるぞ。運良くここにはマオとバクがいる。勝てるぜ!」

「その算段にユウマは」

「いれるわけないだろ? 俺弱いし」

 当たり前のことだが、なんで俺は今もこうして生きているかわからない。気まぐれか、悪戯か。



「……まったく、あの二人は私欲のために死にやがって」


 その声に一瞬寒気がし、俺らはその声の方向を向く。

「……犬」

 そこには確かに黒犬がいた。そして、男も。

「先手必勝だマオ!」

「『バクエン!!』」

 合図にマオは先制で炎を飛ばした。しかし、

「いけヘルウルフ」

 その火球が、犬の爪で切り裂かれた。

「な!?」

 俺たちは距離を置くが、その前にバクの背後に回っていた黒犬が爪を立て、裂いた。

「バク!?」

 とっさに近づこうとしたが、その前に犬は立っていて近づけない。

「……くっ…」

「ハハハ……おや?」

 と今度は男が動きを止めて俺をじっと見て、そして、

「あ、君はあの二人の子供か!」

 そいつは納得したのかぽん、と右拳を左掌に乗せた。

「いやー、君生きてたんだねー。てっきり親子もろとも死んだと思ったよ」

「……なんだと?」

 男はケラケラと笑い、

「だってそうだろ?……俺たちを見捨てたじゃないか」

「……なに?」

 男は今度は険しい顔をした。

「お前の両親が見捨てたから救えなかった命があるって、お前わかるか?」

「……わかるかよ」

「そーだよなー。お前足手まといだもんなー」

「………」

「おいしってるか? あの転移の日、数多くの人たちが死んだ日に、お前の両親はお前を守るために参加を離れた。あんなにいい動きできる奴らが、騎士何人かを殺したあいつらが、救えた数十人よりお前を選んだんだよ!!」

「……」

「マジ俺も死にかけたよ。《異端審問会》って奴らが助けてくれなきゃな! その時から思ってたよ……復讐するってね」

「……オヤジも……おふくろも…」

「ああ悪くない。悪いのはお前だ。お前が数十人を殺したんだ!!」

 男は怒りを湧き上がらせ、矛先を俺に向け、

「いけヘルウルフ! そいつを喰い殺せ!!」

 それを合図に、犬は飛びかかった。


 死を悟った気がする。

 俺がいたから殺された……言われてみればそうだ。

 きっと二人だけなら救えたかもしれない。そうだ。俺は足手まといで、ずっとずっと足手まといで………いらねーガキだったんだ、きっと、二人からしたら。


 ならいっそ死ぬべきか? わからない。もう、わからないよオヤジ、おふくろ……。







 パタっと、何かが頰を伝った。

「……おいヘルウルフ、止まれとは言ってないぞ!」

 俺に飛びかかったヘルウルフを、マオはじっと見ていてくれた。その時のマオに、この犬はどう映ったのか知らないが、俺の上にいるその犬は、やはり涙を浮かべて、じっと見ていた。

「……このっ!」

 その犬ごと、俺を蹴り飛ばす男。

「犬!!」

 脇腹を抑えて俺は犬に駆け寄る。犬もまた苦しそうに、横になって倒れ込んでいた。

「まあいい。俺は二手三手考えているんだよ! 『フレイムバレット』」

「『アクアウォール』!」

 マオが攻撃を水の壁で止めてくれた。そしてマオは動いた。

「『バーニングナックル!!』」

「くっ……」

 互いに魔法を使って戦っていた。相手は手練れで、先の2人より魔法をうまく使えていたためあのマオでさえ時間がかかっていた。

 その間も俺は犬に叫ぶ。

「起きろ! 目を開けてくれ!!」

 腹の辺りを触って理解したが、怪我をしていた。それもかなり重症。

 動物の手当てなどできないし、

「……『ヒール』!!」

 見様見真似で何度も繰り返した魔法詠唱は、いまだ何一つできない。


 俺に魔法の適性はなかった、そう言いたげに。


「……頼むよ、目を覚ませよ」

 俺は犬の頭を撫でる。どうか、目を覚まして欲しいと、懇願して。

「もっとうまいやつ食わせてやるから! どこにでも遊びに連れてってやるし! だから……だから目覚めてくれよ『クロ』!!」


 その時気づかなかったが、少し動いた。


「ああそうだ! お前に立派な名前があったら可愛そうだからすごく渋ったさ! 俺馬鹿だから! 安直な名前になっちまうってわかってたから! ……でも俺、お前につけるならそれがいいって思うんだ。お前の毛並み、すげー綺麗で、ふさふさで、何より黒色好きなんだよ! なあ……マオと、俺と、クロと、これからもっと楽しいこと探そうぜ、なあ。……頼むよ………」

 枯れていく声を振り絞り、俺は泣き崩れて覆いかぶさるように犬の体の上に顔を覆う。無力で、悔しくて––––




 _________________________________



 ––––このっ……化物が!


 石を投げられた。


 ––––こいつ売り物にすればかなりの額になるな


 そんな打算的な考えをした冒険者を噛んで逃げた。


 ––––ほら、私は敵じゃない。


 いつからかその言葉を信じなくなり、そういう言葉を聞けばとっさに攻撃して逃げた。



 昔から恐れられた種族だって自覚はあった。両親はすでにいなかった中で、それはよく理解していたし、環境がそう物語っていた。

 魔物も恐る存在に、誰もが矛を向け、あるいは道具として利用しようと………さまざまな感情を見続けてきた。


 そしてある日、ビーストテイマーに捕まった。彼らは利用し、魔王を殺す算段を立てた。


 魔王の娘は若く、隣にはよく人間のガキがいる。そこを利用し、ただの野生の動物を装わせ、信じ切ったところで寝首をかく……そういうものだった。


 そのために記憶の一部を消されて離された。


 気がついたらあの場所にいて、その場所には少年がいた。

 彼らの誤算は、誰も信じない狼であることを知らないこと。だから、もし今までと同じならきっと襲う。そしてきっと、マオに殺されていた。



 彼は最初、一瞥して肉を焼き、そのまま食べようとした、のだが、彼はかなり遠い位置にその肉と皿を置いた。

 何かの罠と考えなかったわけじゃない。だけど抜かれた記憶の空白の間にちゃんと食べていたのかわからないほどの空腹には勝てず、半ば自暴自棄でそれを食べた。

 ––––うまいか?

 彼はニッと笑って聞いた。だから答えようとしたけど、きっと言葉は届かないだろう。

 平らげた時、また肉をくれた。彼の方の肉で、彼はまだそこまで食べていないのがわかった。

 本当にもらっていいものなのか、彼のご飯は何なのか、そう思うと彼はいう。

 –––– 気にすんな。俺がまた取ってきて勝手に食べるから食え。


 ……こんなに美味しいご飯は初めてだった。



 そんな彼のために、久々に動けるほどになった体で狩りをした。黒豚を倒し、それをもっていくと少し困った顔をしながら、喜んだ顔をしてくれて、嬉しかった。



 彼は何もしなかった。ただ美味しいご飯をくれて、ただ狩りをしただけで撫でてくれて、感謝してくれて……嬉しかった。



 ある日勝手に体が動いてしまったことがある。きっと遠隔で指示していたんだ。

 操られるまま、なぜか彼のもとに来ていた。

 爪を出し、その爪は彼を––––

 止まった。いや、止めれたんだ。彼は何もしていない。彼を片付けたくない。

 ふと、マオを思い出す。マオだったらできたのだろうか、止められたのだろうか。


 きっと止めた。だって、彼の大切な人だから。彼が泣くところを見たくないから。





 だから、今だって止められた。そしてやっと死ぬことができる。


 でも何で泣くの? 何で?悪い子なのに、何で?



 ––––クロ!


 ……そう、やっと名前をつけてくれるんだねユウマ。嬉しいよ。君からもらえる名前なら何だって嬉しいよ。











 ……わかったよユウマ。は殺したいんだ、君の、君たちの『悲しみ』を。そしてそばで君達が笑う姿を、見ていたいんだ。

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