叫びたい言葉は…… 3
しばらく廊下を駆けると、見知った背中が見えた。
「あ、アニキ!」
バクだ。そしてその向こうにさらに一人、今度は人間だった。
よく見るとそのさらに後ろには何体か魔族がいたのだが、見た感じ味方には見えない。
「……あいつがビーストテイマーか?」
「いえ、私じゃないわ」
女は無表情で答えたけど、その視線がマオに行った時、少しだが頬が緩んだ。
「…よかった。あなたは無事だったのね」
「…敵に心配される理由ないんだけど」
マオは手をかざして警戒する。するとさらに口元が緩んだ女は興奮気味に言うのだった。
「いえ大切よ。あなたは私の人形さんなのだからね!」
「うわー、なんか口走ったぞこいつ」
俺もそうだが、バクも、何よりマオさえも引いた。え、なに? あいつ頭おかしいの?
「さ、貴方達、そこのガキ殺してあの子を連れてきて」
そう言い放つと、後ろの奴らは一斉に襲いかかってきた。が––––
「『バクエン』」
躊躇いなくマオは魔法を放つ。辺りの魔族は一掃され、女の方はとっさに守った魔族の壁で軽傷だった。
「……あ、あなた、仲間を躊躇いなく」
「何かおかしいこと言うけどさお姉さん」
マオは黒ずんでいく目を向けたまま、その深淵が見えそうな瞳で、
「ボクはユウマがいればいいし、ユウマだけ守れればいいの」
そう告げる。傍らのバクは「つまりついでで守られたんですね自分……」っとなんかガクッと肩を落としていた。
「……ふ、フフフッ」
しかし変わらずその女は抑え気味に笑って、そして––––
「私の力は『魅了』よ! さあ、私に従いなさい!」
「ダメです二人とも! あの人の目は––––」
そんなバクの言葉が届く前に、俺とマオはその目を見ていた。




