叫びたい言葉は…… 2
匂いと音で追われるだろうが、少なくとも今は少しの妨害でいいと思って駆け出す。
幸か不幸か、今のところ追ってはこなかった。
いくつか構造上の裏道があり、俺はその道を駆使して犬がいた先の道を出てマオの部屋に駆け出す。
そして俺は勢いよく扉を開けた。
そこにいたのはスースー眠るマオと、ナイフを持った人間だった。
「なっ! ガキがなんでここまで来ているんだ!?」
「テメーがマオに触れるなああああああああ!!」
動揺していたのか、腰に携帯していた俺のサバイバルナイフを構えて突撃し、男の単調な動きを回避して喉元をかき切った。
「が、あ、あ––––」
さらに動揺するそいつを蹴り飛ばし、そいつはベッドから転げ落ちた。
「マオ、マオ!」
俺は必死にマオの名前を叫んで頰を叩く。すると、
「……ん……はっ! 夜這い!?」
そんなおかしなことを言って起き上がったマオに、俺は安堵した。
「……暗殺系ね」
「だろうな」
縛り上げたその男の所持品の多くは使い捨てのナイフで、マオが感づかないほどの潜伏能力を有すると判断する。
そして男から情報を得ようにも、俺はそいつの喉を切ったため喋れないから聞き出せなかった。
「……せめて、犬がどうして操られているのかがわかれば」
「殺すじゃダメなの?」
マオはさも当然と言うような無表情で提案するが、
「……できれば助けたいんだ。……泣いてたんだよあいつ」
「そう」
と一言呟き、マオは考えていた。
「……操る…犬……魔獣……ビーストテイマーかな?」
「ビーストテイマー?」
マオはコクンと頷き、
「《ビーストテイマー》。あらゆる動物を従えることができる職業。あの犬はそれなりに高位だから簡単ではないはずだけど、もしできるとしたらかなり危険な部類かも」
「どう危険なんだ?」
「……知能の少ない低級ゴブリン、オークも従えることができる。何代か前の魔王はそれをやってたはず」
「……魔物使いの王……こりゃ立派な魔王だな」
と聞かされて実感するのは恐怖だろう。
「手っ取り早い方法は……やっぱり術者を叩くことか?」
「そうだね。ボクは殺して止まるかが微妙なところだけど」
「…やるだけやるさ」
俺はナイフの他にもう一つ、拳銃を持ってドアの前に立つ。
「待ってユウマ」
と引き留めたマオは、スタッとベッドから降りて服を着替え、
「ボクも行くよ。……ユウマはボクが守るから」
「……こりゃ随分豪華な護衛だな」
互いに笑い、そのドアを開けた。




