恨まぬ子 3
「……そういや、『魔族』って言ってもかなりの種類や派閥があったよな?」
「よくわかったなユウマ! そうだ。『魔族』も大まかに言えば、人間が嫌う《知の無い魔族》とそうで無い魔族に分かれる。ゴブリンやスライムが前者だ」
「あー、やっぱりこの『魔王城』を出入りする奴らって異常なのか」
「なかなか酷いな君は……ま、魔王は基本後者であることが多いから、どっちであれ嫌われてはいるな。一番はやはり『人を喰うから』だろうからね」
「……とされてはいるが実は諸説あり、初代魔王がかなりの『強欲』なまでの支配欲があったとかなかったとか、実は魔族の起源には他の種族の竜人族、魚人族、獣人族、鳥人族、エルフ族、そして人族の大まか六種族が闇に呑まれたことから『呪われた種族』だとか」
そこで話を区切りおっさんの顔を見ると、かなり驚いた顔をして、俺は左拳を見えない位置でグッとした。
「いや〜、もうそこまでこの世界の文字が読めるようになったのか」
「ふっふっふ、俺は天才ですから!」
と自称しつつ手を休めることなく床を磨くが、力がすごい多く入ってしまったようでずるっと滑って上半身を地面にぶつけてしまった。ああ恥ずかしい。
「……で、結局はよく分からないんだが、今のおっさんの一声でこの世界はもう少し平和になるんじゃないのか? 少なくとも別に人間食べるのが絶対ってわけじゃ無いし、おっさんに支配欲は無いだろうしさ」
「……それで済めば、さぞかし素晴らしいことだろうな」
簡単なことと思っていただけに、おっさんの困り顔が理解できなかった。これが『大人の事情』だと思うと、子供ながらに少しもどかしく思う。
「大人って大変だな」
「ま、確かに大変だ……」
という会話をしていてなんだが、『魔王が床を磨く』というあまりに異様としか思えない光景を前にシリアスさのかけらもないなと思うのだった。




