死にたがりの矛盾 3
……何やってんだろな。
いつもの狭い部屋に、笑顔で帰ってくる両親。
俺は最近料理を趣味として、本を読んで家事の裏技を模索して、時にゲームして、ラノベを調べているうちに読めるようになって………家でただ一人で待っていた。
ずっと待っていた。そしていつも疲れを見せない二人が帰ってくるのを迎えた。
たまに作る二人のどっちかの料理はあまり上手ではなく二人とも苦笑するけど、俺は二人の料理が好きだし、たまに駄々をこねて作ってもらっては二人が苦笑するの繰り返し。
四歳から半年で人並み超えた家事能力だと褒めてくれて、すごく褒めてくれて、俺は努力し続けた。
だから、どんなに遅くなっても必ず帰ってくる二人が、『帰らない』現実を想像したことはなかった。
「……何故そこまで俺を憎まない? お前にとって俺は、お前の最愛の両親を殺した男だぞ?」
そんなの、オッサンも被害者である事を知っているから。俺たちを呼んだのも、もしかしたら今は平和だったかもしれない魔界と人間の溝を作ったのも………呼ばれた最初、俺たちを『余分な存在』として排除したのも、全てが『異端審問会』だと、知っているから。
そして事実彼らは確かに殺したけど、『復讐』を仮にして、きっとそれはマオか、まだ見ぬ勇者の後継者に伝染すると、なんとなく分かっていたから。
だから、『復讐』を始めないで終わらせるために、俺は死にたいんだ。いつか、その意見が変わってしまう前に。なのに––––
「……あーあ、死にたくねー」
脇腹も、若干喉も焼け、思いっきり城外に吹き飛ばされて節々が多分骨折。運がいいのは、多分落ちたところが魔界とは思えない、黒や灰色が目立つもの美しい花畑で、そこに寝転がっている事だろうか。
俺はまだポケットにあった小麦粉を取り出して見る。
「……クッキー、アイツ喜んだかな?」
アイツは俺が作った手抜きの料理を喜んで食べていた。
久しぶりに、誰かに喜んで食べてもらえた。笑って、残さずに。
「……」
アイツは立場上いろんな意味で狙われている。だが、俺はアイツに何ができる? 地上最強の、魔王の娘に。
「……うまい飯食わす、だけじゃダメだな」
俺は上体を起こし、足音のする方向を見て、ナイフを構える。
「……き、さまああああ!!」
焼け爛れて、申し訳ないがうまそうな匂いをさせて現れたのはあのオーク。
「なんだよまだやるの? 俺もう限界なんだけど?」
「……魔法も使えぬガキに、俺が負けるわけないんだよ!」
俺たちが淘汰されそうになった理由、それは『能力がないまま召喚された』事だ。
『能力者』達は王都に転送され、そうでなかった人間はなぜか広野に飛ばされていた。それは召喚時に自動で割り振られ、そして数で負けないとはいえ一方通行で呼んだ人口を減らすために殺された。
この世界の神はきっとクズだ。俺はそう思い、恨むのが馬鹿らしくなった。
だったら魔界で奴隷やってる方がまだいい。そうすれば、諦めがつくから。
だが、あの魔王はつかせてくれなかった。
マオと名乗った少女は、小さい事を認めてくれた。
だから、
「……悪いが餓死だけは嫌だって言ってるじゃんか?」
俺は抵抗する。一年ぶりに、もう満たされないと思った俺の心の空腹を満たしてくれるかもしれない、あの女の子の為に。