死にたがりの矛盾 2
元々両親から護身術がわりに叩き込まれた、ってほどではない技能。
両親の仕事を知らず、時に突然いなくなるが、必ず帰るときは連絡をくれる、よく分からない両親。
でも愛されていた自覚はある。そして俺も、そんな二人を愛していた。
俺は、両親以外に愛を知らない。
近所の子供とはあまり打ち解けられなかったし、唯一打ち解けられたのが二人だけだが、その二人は近くにいない。
だから、いつもは近場の図書館に行ったり、四歳になったことから料理だって頑張った。そして本を読みながら、温かい料理を出せるようにして家で待つ日々だった。
苦痛などない。両親があれば、俺はそれでよかった。……それしかなかった。
「おやおや、やってくれたねー!」
声と共に不意打ち。俺は弾き飛ばされていた。
「……ッ!」
火傷だった。扉の方を向くと、火の玉を手に浮かせて余裕の笑みを浮かべる大人のオークがいた。
そのニヤつきに、いくらなんでも早すぎる行動に、俺は「嵌められた」と心の中で思った。
「いやー、はは。我らが同胞が殺されたとあっては、いくら魔王様の命でも見過ごせないですなー」
「…ハハハッ、用意周到で何言ってんだか」
「へー、ガキと思っていましたが頭は常人よりは回るようですね」
そして残骸を壁際に蹴る魔族、いや魔物はゴブリン同様、気色悪い笑みを漏らす。
「……俺も、うちの世界の豚には劣るが知能が高いとは思わなかったよ」
「……豚と言ったか小僧ッ!!」
再びよく分からない詠唱で炎を放たれ俺はすかさず山積みの木箱の影に隠れた。
どうやら『豚』は通用するのかと感心していると、俺はあるものに手が汚れたことに気づく。
「出てこい小僧! あわよくば娘の肉をと思っていたが、まずは貴様を食うことで我が下克上、始めてくれるわ!!」
頭に血が上っているようだ。もしかしてこの世界の豚は人間と対話できるほどの知能がないのか?
そんなとこを考えつつ、俺は縄袋を両手で持って、口を開いたとこを相手に向けて投げた。
「小賢しい!」
今度は氷柱のように鋭い氷が袋を貫く。すると、
「な!?」
その袋の穴、口からそれは撒き散らされた。
「目眩しか!」
やはり知能が低いのか、それともこの世界ではあまり知られていないのか、俺の単純な策に気付かずにいる。
運が良く『火属性以外』の魔法で闇雲に撃って対抗してくれて、俺の策はまだ生きていた。
「ハハハ、豚に本当に失礼だったわ! あんたは上に立つ器じゃねーよ」
「く、そこか!」
窓ガラスを開ける音で氷柱が飛んできた。俺は右肩にかすり、血を抑えながらそこまで高くない窓を越える。
「……ふ、俺の連れがそっちに回り込むのが早かったようだな」
奴の言う通り、外には十数体程のオークが立っていた。だが、
「……どうかな?」
俺はポケットからさらに外に撒き散らす。ギリギリそれは窓まで立ち込めてはいない。
攻撃性がないとわかり皆がゲラゲラ笑うが、本当、馬鹿ばっかりだ。
「さ、死んでもらおうか小僧」
「……知ってるか?」
詠唱がなんなのか分からないが、俺の後ろで構えているそいつの動きは『火属性』のアレだと分かり、俺はそちらにはあえて何もせず窓を飛んでオークの群れの頭上を飛ぶ。
きっと化学を知る地球人ならわかるだろう。先ほどからあえて濁しているソレの答えはもちろん《小麦粉》だ。彼らはパンをたまに食べていたから原材料もあるとは思っていたが、まさかゴブリンどもは良いところで餌になったもんだ。
一応解説すると、空気中に一定濃度の可燃性の高い粉塵が大気中に漂った状態で起こる発火現象。
「死んで覚えろ、異世界ラノベ名物『粉塵爆発』だ!!」
俺は外の粉に、持ち歩いていた道具の一つ『マッチ棒』に火を灯して投げる。
大爆発は、同時に起こった。