読めない子 1
「……私がみた彼女も、エリーが見た男も、笑って死んだんだ」
そこで話は終わる。でも、それじゃあ……
「…ユウマは恨んでるんじゃないの?」
きっとそうだ。話の通りだと魔王城まで一緒にいたユウマをどこかに置いていくとは考えにくい。現に魔王の元でユウマは今こうして守られているのは、目の前の男がユウマに対し罪悪感があるからだろう。
……だけど、答えはまるっきり違ったものだった。
「……分からないんだ」
「わからない?」
コクリと、重々しく頷き、話を続ける。
「ユウマははじめ、亡骸となった親にただただ泣き、起こそうと必死になって揺すっている姿を見ていることしかできなかった。ずっと、意識がなくなってもしばらく彼らを呼んでいた。……だが、その後のユウマは、行動そのものを否定したくはないが、正直異常だった」
「異常?」
「……あの後エリーは倒れ、私の寝室で療養していた。正直持って数日、そう言えるほど弱り切っていたんだ。……多分だが、元々状態が良くはなかったが、その上で罪もない夫婦を殺した事から完全に精神にも限界がきていたんだろう」
エリー・レインウッド。彼女は騎士団すら凌駕する勇者とされ、しかし一部の騎士、例を挙げれば唯一前後でユウカを味方していた副団長が、実は母には呪いに近い病があると聞いた事はあった。
「『魔病』。本来魔物の体液はあまり人間にはよくない。大抵は神の加護とされるが微量の『光』で浄化できる。……だが、魔王である私の、それも子を宿すと言うことは普通の人間には死を意味する」
僕はその地点で椅子に立って、魔王の首を締めていた。ギリギリと、憎しみを込めて。
「……知らなかったんだ。元々魔族と人間の子を宿した事例はない。……何より、『勇者の血』が体内で常時反発し続けていた事で、むしろ死ぬほうがマシな程の苦痛を与えていたなんて、知らなかったんだ」
苦しんではいない。魔王は話を続ける事ができるほど締め上げれていないのだ。
力がないわけじゃない。やろうと思えば力ことだってできるはずだ。でも……それはできなかった。
「…でも、死の道を選ばなかった。娘がいたから。私が追われ、育てることができたのがエリーだけになったから」
魔王は涙を流していた。その涙が手に触れたとき、僕はその手を離していた。
「エリーは最後まで苦しかったと思う。思う、としか言えない。だが魔族は勇者を良くは思わない。人間が魔王を思う感情と同じだ。……だから、分からないんだ」
弱々しく俯き顔を覆う魔王は、それは本当に弱く見えた。
嗚咽が聞こえる。そして、辿々しくまだ、話を続けた。