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魔王と勇者に憧れた者  作者: ヨベ キラセス
一部 魔約編
10/40

魔王の娘 3

 思いがけない言葉にしばらく固まってしまい、いつの間にか彼はいなくなっていて、

「……ハア」

「おい娘よ、親の顔見て残念そうにするな。我泣くぞ?」

 と、目の前の魔王に深く、深くため息をついた。

 すると高笑いした魔王に僕は小首を傾げる。

「……何」

「いやいや、まさかあのユウマが口説いているとはかなり––––」

 と、会話が終わる前に僕は殴り飛ばしていた。



「……ひどい。流石アイツの血をひく我が娘だ」

「娘じゃない!」

 とても魔王とは言い難い、ほおを腫らした男は僕の後をつけてくる。

「……ついてこないで!」

「まあまあ、アイツともっと仲良くなりたいんだろ?」

 アイツ……おそらく彼のことだとわかる。

「アイツの名前は?」

「ユウマ。奴の両親から聞きそびれ、ユウマ自身覚えていないようだから不明だ。家事を得意として、願望は『死ぬ事』、らしい」

「……なんで?」

 それは彼から聞いた時から気になっていた事だった。彼はなぜ『死にたい』と言うのか。

 魔王は少し悩んだが、喋ってくれた。

「……アイツの両親を殺したのは我と、エリーだ」


 エリー・レインウッド。それは数年前の勇者にして現歴史上最強とされた勇者の名。

 とある森でひっそり暮らし、勇者の血をひく最後の生き残りと知った人間の王国の中の一つの組織『異端審問会』が確保し、魔王対抗の切り札とした。

 彼女の噂は大きく二つある。一つは前述の通り《現歴史最強勇者》である事。そしてもう一つは––––今目の前にいる男、《魔王の子を宿した異端者》だった。


「まあ恨まれても仕方ないからな。お前たちは」

「……恨んだ事はない」

 誤解する魔王に僕は訂正する。どうせ《魔王の血をひいているから》とかって理由で口を聞かなかったと思っている男に、僕はずっと言えなかった本音をぶつける事にした。

「…僕は『思念体』。直接的に血は繋がってないし、本当の娘は今も昔も『ユウカ』だけ。……あの子を忘れてあげないで、僕は存在まで代わりにならないから」



 僕の元となった少女『ユウカ・レインウッド』。勇者の光の力を濃く受け継ぎ、しかし同時に魔王の闇の力を保有していた少女。

 勇者エリーの死後、母の死と異端審問会の訓練の日々、そして引き金になった魔王の単身襲撃によって精神を病んでしまいそうになった少女。

 僕は闇の力を具現化した存在で、彼女から一切の闇を奪って魔王の元に行った。

 知らない人が、魔王で、父親で、戸惑いはあった。でも、それ以上に本当にそれが正解だったのか分からなかった。

 ユウカを置いていくことが正解だったのか。本当は僕が残って逃すべきだったのか。分からないままだった。

 そして何より、誰からも味方されない自分が必要かも分からなくなって、部屋に閉じこもった。


 人間達からは魔王として嫌われる。


 魔界では、僕を殺すか娶るかで、どちらにしても君の悪い視線や行動が多かった。殺そうとされたし、犯されそうにもなったし。



 きっと、ユウカさえ僕の敵になるんだ。だって彼女は勇者で、僕は………父すら敵わない、魔王になるかも知れないのだから。敵しかいない、この地で。



 だけど突然、魔王は僕の頭を撫でる。

「な、なによ!」

「まあ聞けマオ」

 振り解こうとしたけど、目を見ると僕はそれ以上動くことができなかった。

 ……なぜ、涙を流しているの?

「……話を少し戻そう。私はエリーと決着をつける時が来て……知らないまま互いが死ぬかも知れない結果を残すはずだった」

 そして魔王は腰掛けられる位置に座り、その横に招かれ素直に座った。

「当時、ユウカを人質にエリーは私と戦うことを強いられた。エリーはあっさり了承してここまで来たんだ。……自分が私に殺されることで、娘を守ろうとしてたなんて知らずに」

「……それで?」

「私も同じ気持ちだった。娘のため、約数百年生きた命に終わりを告げるつもりでいたんだ。エリーならちゃんと幸せにできると信じて。……そしてその結果、本当なら二人同時に死んでたんだ」

 魔王は、その間も優しい顔をして話してくれた。だからわかる。この人は勇者であった母を愛していたんだと。

「……だが、不幸にも回避した」

「不幸、にも?」

 むしろいい結果のはずなのに、それが最悪の事と思わせる口ぶりに聞き返すと、魔王は空を見上げて表情が読めなくなった。だけど、

「……ユウマの両親が、互いに割り込んだんだ。父親がエリーに、母親が私に」

「な、なんで!」

 突然、なんでユウマの両親が割り込んだのか、僕は叫んで立ち上がっていた。しかし魔王は同時に顔を両手で覆い、苦しそうに、言葉を続けた。

「…どういうわけか、偶然魔王城にくる道の中で三人の家族が仲間になった。いや、勝手についてきたんだろう。……エリーはなんで死んだか知ってるか?」

「……あなたが殺したって」

「本当は違う。元から病気だったんだ。それもそう長くないもので、エリーは最後、唯一誰にも入れさせなかった私の寝室で息をひきとったんだ」

 言葉が出ず、僕は崩れるように地面に伏した。だが魔王は視線を向ける事なく、話を続けた。

「…だからここからはエリーから聞いた話と、私が見た事実を元にした見解だ」

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