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画家と弟子  作者: 三文字
8/21

完成直後 その二

岸島は、久藤の様子を見て、なんだかわからないが、「珍しいな。」と強く感じた。




「いつものことだ。」と言われても、自分の前では「いつも」そのような姿を一度も見せたことはなかったのだ。


それが一体なんで今日に限ってこんな様子を見せたのだろう。


岸島はその疑問が、久藤に言い訳をされて一旦済んでしまったはずのその事が、どうしても拭い去れない心持でいた。




そして、岸島はその蟠った、なかなかうまく言えない気持ちをそのままに、久藤に打ち明けた。




「今まで先生はお酒も飲まなかったし、タバコも一度も吸わなかったのに……


 何か、あったのですか……」




「ハハッだからさっき言ったとおりだよ。ちょうどいま新しい作品を描き上げた所なんだよ。


 ……んまぁ、要するに、本当は普段良くある事なんだよ。


 でも久しぶりに弟子を取った手前、なんだか下手なことはできないと思ってね。




俺が今後弟子を取ることなんて、ほとんど可能性としてはないだろうから、自分がこれまでの仕事の経験で得たことを、岸島さんには全て教えておきたいと考えているわけだよ。




若いころは、俺も一日中絵を描いていたし、一日二十四時間ずっと絵のことを考えていた。


でも、年を重ねるうちにだんだん体が言うことを聞かなくなってきたね。


特に最近は大きな作品の構想を練ってデッサンを繰り返していると、神経過敏になってしまって、そのままでは全然眠れないから、こういうものなりなんなりで胡麻化して、何とか二、三時間程仮眠をとるという有様だよ。




こんな所本当は見せたくなかったんだけどなあ、なかなか難しいもんだなあ。」




そう言って久藤は先が灰色がかったタバコと、ステンドグラスのように輝くウイスキーのグラスを軽く揺らして、苦々しく笑った。




と思うと、久藤は持っていたタバコと酒を一度置いて立ち上がった。そして庭の方を、後ろに手を組んで眺めながら、ゆっくり歩きつつ、呟くようにして言った。




「そんな生活ばかりしてきたから、俺は早死にするだろう。でもその前にこうして弟子を持つことになったんだから、せめてプロの画家として世間に知らしめるまでは何とかしてやりたいと思うんだよ。」


なんだかその場がしゅんと白けたように静まり返り、そこで二人の会話は止まってしまった。




岸島は涙をこらえて押し黙っていた。


暫くして何か言おうと思ったが、言おうとすると心の中にある何かが溢れて流れ出してしまいそうになるので、結局何も言えずに口をつぐんだ。

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