ある日の夜
とある夜。
一日が終わり、疲れ切った身体を放り込むように寝床に突っ込んで、岸島は目を閉じながら自分のこれまでの事々を思い出していた。
私は親に勘当された。
その後は美術大学時代の親友の家に転がり込んで、屋根裏部屋を借りて寝泊まりする生活をした。
大学時代に、人数は少なくとも、いくつかの親友と深く交流することができたのは良かったと思った。
それは今になってなおさら思う。ただ家に入れてくれた親友には迷惑をかけたと思う。
その後はとにかく職を得るために、自分の能力でできそうな職種を社員・アルバイト関係なく次々と受けた。そしてものの見事に全て落選した。
だけど、その時気づいた。自分は画家になるために仕事を辞めたんだっ、て。
そして私は迷わず久藤先生の門を叩いた。
私は人生に失敗しそうだった。
そこをすんでの所で救ってくれたのが久藤先生だった。
初めて先生と話した時、私はそのことが信じられない気分だった。
――まるで目の前に、急に私の人生のメシアが現れたみたいに。
一方で、寝室で横たわりながら画集を流し読みしていた久藤もまた、自分の半生とこれからについて物思いに耽っていた。
俺は人生に二度失敗した。
一度目は夫として、二度目は画家として。
だからもう、あの娘のことを巻き込んでまで、同じ轍を踏んではいけない。
妻を持つのも、弟子を持つのも、大変だということでは変わりがない。
一方では都合の悪い所には目をつぶり、いろいろと気遣いを見せなければならない。
また一方では、相手のことを真に思いつつも、そのことを隠してわざと怒ったふりをしなければならない時もあるし、性格や顔色を見ながら、指導の方法やものの言い方一つまで考えて言わなければならない。
だが、俺はもうこれ以上人を不幸せにする奴になんかなりたくない。
そんなことに耐えられるほど俺は薄情な男なわけではない。
だからせめて娘の人生だけでも幸せにしてやりたい。