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act.5

 人類は何時だって闘争の歴史だ。

 と、言うか宇宙人と戦争してるのにこうして地球人同士で殺し合いしてるんだから、本当にどうしようもない存在だよね。


「僕が先行きますね」

「あん?レディーファーストーストじゃないのか?」


 クルミ子さんが揶揄う様に告げる。僕もそれにニッコリ笑って答える。


「レディーファーストという言葉は、実は女性が男性よりも先に行動を終わらせるという意味なんですよ。

 そして、扉を潜る場合は、女性が先に扉を潜り魔除けや安全を確認する行為らしいです」

「マジかよ」

「ええ、マジ、です。

 僕は生憎レディーファーストな考えは持ち合わせていませんので、お先に失礼します」


 扉を開けて中に入る。それと同時にホルスターから拳銃を引き抜いてクリアリングも忘れない。

 もっとも入り口にたどり着ける敵は多分いない。最初の方は僕が片っ端から撃ち殺し、後ろの方は同居人が暴れまわっているのだ。散発的な銃声と悲鳴が遠くで聞こえる。


「ここら辺はアキがやった区分だろ?」


 クルミ子さんは転がる死体を足でひっくり返して尋ねた。どの死体も胸か頭に一発貰って倒れている。


「ええ、無駄玉は嫌いなので一発で退場願いました」


 レッドカードですね、と言うと意味わからんと首を傾げられた。

 どうやらサッカーを知らないらしい。流石ヤンキー。僕は好きだ。


「サッカーってスポーツのルールですよ。

 選手が反則をした際に黄色の注意カード、赤の退場カードを審判が出して」

「あぁ!そういやそんなのがあるって聞いたなぁ。

 お前、よく知ってんな」

「クルミ子さんの寝た時代にはスポーツは無かったんですか?」

「戦中だぞ?

 あるのは武道と体操、射撃だぜ?文化部も科学部だの農業部だのそう言う戦争や生活に直結する部活だけだったよ」


 成程なぁ。戦中派の人達は娯楽に飢えているのか。


「そういう意味じゃ、起きたこの時代は良い時代だよな。

 戦争してるけど、人々が下んねー事にうつつを抜かせれるし」

「まぁ、規模が国家間から惑星間になってますからね。

 前線は昔とは比べ物にならないぐらいにエグイ事になってるそうですけど」


 チャイコフスキーとかドボルザークが聞こえてきそうなレベルでの艦隊戦やフォース使いが出てきそうなレベルでの戦争をしているのだ。

 地球でもアフリカの方でドンパチやってるらしいけどね。世界人口100億人って話だけど、1日の死者数が普通に20億超えてるから実質世界人口80億人らしい。公社の統計だからどこまで本当か知らないし興味ないけどさ。


「あ、此処が僕と撫で斬りと別れた場所ですね」

「お、キラキラ男じゃん。首が無くなってるな」

「撫で斬りが切っちゃいましたからね。

 どこ行ったんだろう?」


 さっきまで転がってたんだけどね。


「どこ行ったんだろう?じゃ、ありませんが?」


 声のした方を見るとダイヤ男の首を足元に置いた女性が立っていた。


「あ、宇宙人」

「何用だコラァ」


 クルミ子さんがいきなりメンチ切り出した。

 彼女は宇宙人。ケイ素系生物とか言う僕等人間とは違う細胞で出来てる人間だ。友好的な宇宙人であるが何というか人間と言う存在の根本を理解していない。合理的な考え大好きな頭硬い人として大多数の人間から嫌われている。

 なんつったっけ?清すぎる川には魚は住まぬ、みたいな奴。まぁ、清いって言うか合理的過ぎて犯罪とかそういうのを犯す理由が分からないって、誰にも説明できない事の説明を求めてくる存在だから嫌われているのだ。

 そして、あまりにも人間側が非合理的な存在で人間側の統治を手伝うとかいう目的で世界規模の警察組織みたいなのを作って自分達の合理主義を広めようとしてるそうな。

 ちなみに、本来であれば警察機構的なものを勝手に作られたら統治側としては堪ったもんじゃないが、そこは世界が大混乱していてどこを基準に正義を置くかってのと、圧倒的に技術が上のケイ素系生物さんの技術が欲しい上に統治側へのヘイトを一挙に集めてくれるという存在に敢えてなると言っているので、みんなどうぞどうぞ状態なのだ。

 これは酷い。実に下種な考えだ。


「貴方達炭素系の方々はどうしてこうも同胞殺しが好きなのですか?」

「あ?ンなもん決まってんだろうが。そいつが気に食わねぇからだ」


 そして、ヤンキーの血を受け継ぐクルミ子さんも例によってケイ素系生物が嫌いなのだ。ほら、ヤンキーって委員長系キャラ嫌いじゃん。そういう奴だよ。と、クルミ子さんのお師匠も言っていた。


「人間は同胞殺しの忌諱する感覚が低いからですよ。

 僕が寝る前にどっかで見た話だと、人間の適正人口が超えた場合はDNAの殺人忌諱が極端に下がり結果として同胞を殺して適正人口に戻すって言う話がありましたよ」

「だから何だ。

 私はお前達種族の野性的な話をしているのでは無い。お前達高度知的生命体としての理性的、理論的な話をしているのだ」

「何むつかしいこと言ってんだテメェ?」


 ケイ素系生物の言葉にクルミ子さんは中指を立てるという返答をした。


「ルールを守れ、そう言っているのだ。

 それとお前の友とその喧嘩相手を縛っておいた。事情聴取をするからお前達も中に入れ」


 ケイ素系生物は後ろの部屋を指さす。僕とクルミ子さんは共に中に入ると、同居人とウィンストン。他数名が縛られて転がされていた。

 縛っているのはケイ素系生物の作り出す不思議な縄だ。


「お、来たな」

「お、じゃないよ。

 取り敢えず、セイッ!」


 縛られて動けない同居人の顔面につま先からの蹴り。顎狙いで、下あご砕くつもりで蹴ったが外れただけだった。


「はひひははふ」

「君、クルミ子さんからシュークリーム貰って言ったろ?

 あれ、実はシュークリームじゃないらしいじゃないか?ん?」


 言うと同居人はクルミ子さんを見る。


「まぁ、大体の事情は察した。お前が悪いな」

「何をしているのですか!」

「テメェは黙ってろ宇宙人が」

「取り敢えず、すっきりしたから良いや。

 次はこっち」


 クルミ子さんに同居人を解放するよう頼み、ウィンストンの方に向かう。


「ドン・マルコーニに雇われたのか?随分と「ソファーの仇だ」


 なんかべらべら喋ろうとしていたが、興味がないので頭を撃ち抜く。頭を撃った後に胴体にも2丁のリボルバーに残っている11発をすべて撃ち込む。そして、リロード。


「全く信じられない。

 何がドン・マルコーニだよ。確かにアレの一件には関わっているけど、アリスと共同でやっていて、厳密にいえば僕の雇い主はアリスなんだ。そして、この行動は僕の純粋な復讐だ。

 まったく」


 残る残党連中にもリロードしたリボルバーで一発づつ弾を撃ち込んでおく。


「さて、これでマルコーニ関連の問題は全て異状無く、無事に片付けられた」

「あーあ、私んトコの雇い主ぶっ殺してくれちゃってぇ。

 どーすのさ」


 クルミ子さんがやれやれという顔で血溜まりに沈むウィンストンを見ながら告げる。


「あー……すいません。

 僕の報酬の半分渡すって事で何とかなりませんか?」

「ワシの取り分が減る!」

「お前の取り分なんか元々ない」

「何じゃお前!たかだかけぇき一つで!」

「お前に良い言葉を教えてやる。

 食べ物の恨みは恐ろしい」


 リボルバーをクルクルと手の中で回して、ホルスターに収める。ケイ素系生物は頭を抱えて死体の山を見つめている。


「取り敢えず、アリスの許に一回帰ります。

 ウィンストンの死亡確認もしてっと……」


 携帯端末で写真を撮り、3人で屋敷を後にしようとした。


「あ、ワシの刀」


 同居人がどこかに連絡を取り始めたケイ素系生物を後ろから蹴飛ばす。


「コレ!ワシの大小どこにやった!」

「いたっ!?

 ダイショー?なんですかそれは!」

「ワシの刀じゃ莫迦!」

「ああ、貴方の剣ですね。それなら、外に止めた車両に置いてあります。

 それと、貴方には公務執行妨害と第一級殺人及び殺傷能力付き武器の違法所持疑惑が上がっています。大人しく事務所に来なさい」

「いやに決まっとろうが。莫迦か?

 それに、その命令にきょーせーりょく、じゃったか?そんなモンはないし。ワシ等がお前の作ったルールに縛られる義務もない」


 そう。このケイ素系生物たちの警察ごっこの最大の点は“権力者たちは彼らの警察ごっこを容認したが、ルールまで批准していない”というところにある。

 つまり、どういう事かと言えば、ケイ素系生物の警察組織はケイ素系生物には重大な規律であるが我々炭素系生物、だったっけ?には守った方が一部例外を除いて住みよくなる方法の一つであり、決してそれを強制する物ではありませんよ、という奴だ。

 もっと分かりやすく言えば、聖書には人を殺すなと書いてあったので人を殺すのは悪だが、生活基盤を作ってる国では殺人をしても殺された方が悪いという法律があるので、悪でも何でもないよって言う感じだ。

 勿論、口うるさく注意してくる連中もいるし、逮捕される際に実力を持って拒否すると向こうも敵性と判断して実力を持って攻撃してくるので、捕まえてくる際には大人しく捕まっておくのがセオリーなのだ。


 そして、彼等のルールに従う意思は無いと宣言しておけば彼等は何もできない。何故なら、この警察機構を作る際に国というか統治側との交わした約束に“警察組織に類似する組織及び法律を制定し、運用する際にはそのルールと機能を地球人が同意した場合にのみ個人に適応される。ただし、地球人が実力を持ってケイ素系生物群の警察機構及びルールを妨害した場合は除く”という取り決めがあるからだ。

 ケイ素系生物はそれで良いのだろうか?まぁ、僕自身はその方がありがたいけどね。ただし、殺人現場を見られると一々彼等のルールと機構に同意しないと言わないといけないのが面倒くさいのである。


「分かりました。

 ですが、貴方の行動はこの世界を住み難くしているという事を肝に銘じて下さい。私達はこの地球を再び正常な地球に戻すと言う取り決めをしているのです」

「分かった分かった。

 グチグチ言うでない、宇宙人め」


 同居人は耳にタコができると顔をしかめて一緒に外に出た。

 外に止まっているケイ素系生物の車両に向かえば別のケイ素系生物が乗っていた。ケイ素系生物は顔が全員同じなのだ。


「如何なされました?」

「ワシの刀を返せ」

「彼も僕も君達の警察ごっこには付き合わないよ。

 だから、君達の持ってる刀を返してくれ」

「……分かりました」


 刀を返してもらう際にまたゴタゴタ言われたが、同居人は耳に指を突っ込んで無視をした。


「取り敢えず、アリスの家に行って報酬貰おう。

 クルミ子さんも一緒に行きましょう」

「おう。ほら行くぞ人斬り」


 未だケイ素系生物にグチグチ言われていた同居人にクルミ子さんが告げると、同居人はこれ幸いとサラバだと逃げ出して来た。


「お前等もうワシに関わるでないぞ!」


 そんな捨て台詞を吐いて。

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