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act.3

 人には向き不向きがある。それはどうしても覆らない事実として残る。性格だったり、身体的特徴のせいだったり。


「マリーの場合は拳銃よりも狙撃系の方が特化してるみたいだね」


 一昔前で言うステータス表を見る。その人物の遺伝子から読み取った素養を割り出してくれる便利な物が未来にはある。

 そして、マリーの表を見ればマリーには狙撃の才能があるようだった。


「狙撃?」

「うん。

 スコープ覗いてバーンって撃つ奴。だから、君が僕らの道で食べてくなら僕は別の先生を紹介するよ?」

「先生は狙撃できないの?」

「出来ないことはないが、狙撃専門で食べてる傭兵に比べれば全然さ」

「銃なんぞより、刀の方が面白いぞ?」


 同居人は煙管を吹かしながらそんな事を言う。


「刀は難しいです。

 私は銃のほうが向いています」

「そうか?」

「そうだよ。

 邪魔しないでくれよ。君は君で弟子を見付ければ良いだろう」


 口だけ出す同居人は暇そうに寝転がっているだけだ。

 奴は仕事をほとんどしない。する仕事は法外な値段を取りやがる。しかし、仕事は完ぺきにこなして見せる。奴は殺しのプロだ。プロ中のプロの一人で、僕がアリスと組んだ仕事も此奴一人でこなせるレベルで腕は立つが、如何せん、えり好みが激しい。今回の仕事も興味ないと一蹴していた。

 僕が金がないと困っていても彼は他人事なのだ。


「ワシのお眼鏡にかなう凄い奴は全くおらん。

 それはそうと、何といったか?あの触角頭の五月蝿いのがお前を訪ねて来たぞ」

「クルミ子さんでしょ。

 それとあの髪型はツインテールだ」


 クルミ子さんとはESPで、雷を扱う事の出来る素晴らしい子だ。外観は金髪のツインテールをしたロリだ。僕より一ヶ月先に傭兵になった先輩で耳にピアスをし、刺繍のされたスカジャンやヤンキージャージを着てる子だ。

 最初はヤンキー怖いと思ったが話せばとても良い人だ。物言いとかはキツイがアリスの様に僕だけに辛く当たる事も無く、寧ろ優しくしてくれる。

 僕の片思い中の相手でもある。ロリ先輩。あると思います。


「用件は?」

「美味い菓子屋を見付けたとかで持って来てくれた」

「へー、その菓子は?」

「ンな物、ワシが全て食ったに決まってる。

 オマエが何時帰って来るやも知らん中で置ける訳なろうが」

「冷蔵庫に入れるとか方法あったろ!」


 思わず銃を握り締めると、同居人が慌てて嘘だと告げて冷蔵庫を指差した。

 銃を握りしめたまま冷蔵庫を開ければ中にはシュークリームが入っており、脇には《きっと美味いぞ》と書かれたメッセージカードも置いてあった。


「アヤツは触角頭に片思い中なのだ」

「クルミ子さんと言う方ですか?」

「うむ」

「五月蠅いぞそこ。

 マリーに余計な事を教えるなよ」


 シュークリームは夕飯後のデザートにしよう。


「取り敢えず、途中経過を雇い主に報告しに行くよ」

「どんな風に怒られるか楽しみだな」


 クハハと同居人が笑い、マリーは置いてくのか?と尋ねた。


「うん。

 マリーはこの本を読んで狙撃への理解を深めて」

「分かりました」

「ワシは何すれば良い?」

「仕事でもしてくれ」

「ワシのお眼鏡にかなう仕事があったらな」


 同居人はそう笑った。


「お留守は任せたぞ」

「おう任せろ」

「マリーもその馬鹿に変な事教えられても信じるんじゃないぞ。

 ソイツの言うことの半分は適当だ」

「分かりました」


 身だしなみを整えて、護衛対象たるドン・マルコーニがいるアリスの家に。

 アリスの家に着くと、再度服装を整える。

 途中で買った花束とケーキを手にチャイムを押す。暫く待つと、コンコンと向こうからノックされた。なので此方から3回と3回、2回と2回ノックした。

 するとガチャリと鍵が開くので扉を開く。中には銃を片手にしたアリスが立っている。


「やぁ、途中経過の報告に来たよ」

「ええ、入って頂戴」


 扉を閉める前に外を再度確認し、閉じる。


「これ、お土産」

「気が利くのね」


 お師匠に言われた。女性の家に行く時は花束と消え物を用意しろと。

 家に入り、リビングに行くとドン・マルコーニと

その娘が座っていた。

 ドン・マルコーニはイライラした様子で貧乏揺すりをしている。


「食品加工工場を経営してるロッソ・カルロノスや他の食品関係の配下を殺して来た」

「……そうか」

「あ、あの!」


 娘が僕を見た。


「何か?」

「ロッソさんの家にはマリーと言う女の子がいたはずです!あの子は、あの子も、その、殺したんですか?」

「いや?

 ロッソと契約して、彼女が一人前になるまで僕が彼女を育てる事になったんだ。

 彼女は僕の家に居る」


 娘が立ち上がるので、僕はそれを制す。


「止めた方が良い。

 彼女の父親を殺したのは僕だが、彼女の父親の殺しを頼んだは君の父親だ。

 彼女は聡明だ。僕の説明を理解してくれた。しかし、納得はしていないだろう。

 まだ10歳の子供だ。眼の前で父親を殺された。依頼主は君の父親だ。殺し屋は僕だ。

 今、彼女の許に君が行っても君の言葉は何も響かない」

「それに今、外に出るとなると護衛が面倒臭いわ」


 アリスがお茶を淹れてやって来た。


「ありがとう」

「構わないわよ。

 それにしても、何故、助けたのよ?」

「怯えて震えている子供を撃つ程落ちぶれたつもりはないからね」


 椅子に腰掛けて依頼主を見る。


「その助けた餓鬼が私や娘を殺しに来たら、お前はどうするつもりだ?」


 依頼主はこっちを睨みつけた。


「卵売りは、売った卵が目玉焼きにされようがスクランブルエッグにされようが、誰かに投げつけられようが気にしない。

 アンタは人から恨みを買うような事をしてきた。復讐が怖いなら最初からやるな。

 人を撃って良いのは、人から撃たれる覚悟がある奴だけだ」


 お師匠の言葉だ。

 どんな強い奴でも時として負ける。その負けを何時に持ってくるか、どの様に負けるかはその時の自分次第でもある。


「この件が終わり、私が殺し屋を差し向けるかも知れんぞ?」

「やれば良い。

 その時は僕がアンタを殺しに行く」

「私も加勢するわ」

「君は狙われてないよ?」

「10歳の子供を殺す様な奴はタダでもやるわ」


 それはたのもしい。

 アリスが腰の銃に手を置いて告げる。


「と、言うかこの界隈でガンスリンガーの弟子に喧嘩売る馬鹿は別の場所から来た三下か、金に困ってる乞食くらいよ」

「お師匠は言っていた。売られた喧嘩は徹底的に買え、と。

 紳士は時として獅子をも恐れる存在にならなくちゃいけないんだ、と」


 腰のリボルバーを抜いて軽くスピンさせて見せる。

 ドン・マルコーニは顔を青くした。


「それでは僕は報告も終わったし、帰るよ」


 アリスの淹れてくれた紅茶を飲み、立ち上がる。


「もう少しゆっくりしていったら?」


 アリスが挑むような目を向けて告げた。皮肉だろうね。さっさと行ってこの面倒くさい事態を片付けてこいって言う。


「そうしたいのは山々だが、何時までもこんな連中を君の家に押し込めておくのも気が引けるんだ。

 では」


 そう言って家の外に出る。そのまま家に直帰しても良かったのだが、エマの所に寄って行くことにした。

 エマの店にはこの前の拳銃の調査とマリーに合った銃の調達を依頼している。そこに新しく狙撃銃かそれに成り得る銃も用意しておいてもらうのだ。


「やぁ、エマ」

「ええ。あの銃の名前分かったわ」

「流石、ガンスミス」

「あれはコルトM1900をベースに作られたカスタムガンね。しかも、オリジナルよ。

 好事家に売れば1000万は下らないわ」


 売るなら買い手もいるわよ?と随分と手回しが良い。だが、生憎あれは僕のじゃない。


「売らないさ。あれはマリーのだし、唯一マリーの父親が残した遺品なんだからさ」

「そうよね。

 先方には諦めるよう言っておくわ」

「それが良い。

 ところで、マリーの訓練用で何が良いか見繕ってくれた?」


 エマはちょっと待ってねと奥に引っ込み、それからトレーに何丁か銃を載せて戻ってきた。


「右二丁が実弾系。左二丁がエネルギー系ね」


 実弾系は言わずもがな、質量を持った弾を音速、又は亜音速の速さで飛ばしてダメージを与える銃である。僕を始め殆どの傭兵はこの実弾系だ。

 対してレーザー系は質量の無い光を発射して攻撃する銃だ。直線で飛び、狙った場所にまっすぐ飛んでいくので初心者向けの銃だ。ただし弾代を含め色々と金と設備が掛かるので主に軍や警察といった資金と技術と人が潤沢な組織向けの銃である。


「実弾系は22口径と9mmね。エネルギーはプラズマとレーザーね」


 22口径はこの世界でも安価かつ最弱とも言われている銃弾だ、

 因みにM16を代表とする5.56mm弾も同じ22口径だったりする。


「22かな。

 38口径?」

「P230かM1903ね」

「コルト?」

「勿論。でも、高いわね。何方も」


 確かに骨董品だもんな。


「コピーや復刻版は?」

「だったらルガーの22/45で良いんじゃない?

 グリップ周りもコルトに踏襲してるからM1900に持ち替えても違和感無く扱える筈よ」

「確かに。

 じゃあ22/45を2丁貰おうかな。それともしかしたら狙撃銃用意して貰うかも」

「え?狙撃教えるの?」


 エマが驚いて顔をした。


「そっちの適正高いんだ。

 マガトに預けるかもしれない」

「よりによってマガトな訳?」


 マガト。パトリック・マガトと言う狙撃手で対戦車ライフルが大好きな変わった男だ。

 狙撃手としての腕も大したもので、その対戦車ライフル好きさえ目を瞑れば彼は非常に優秀なのだ。


「どんな銃が良いかしら?」

「んー分からない。

 そもそもマリーが狙撃の道に行くかも分からないから、もしかしたらライフル頼むかもって感じで」

「分かったわ。

 今持ってく?」

「うん。

 手入れ用具一式と弾も300発頂戴」

「支払いは何時も通りで良いわね?」

「うん」


 一式を包んで貰い、我が家に帰る。ノブをひねると何の突っ掛かりもなく開き、不思議な光景が見えた。見知らぬ男が3人。マリーと同居人の頭に銃を突き付けて不敵に笑っていた。


「帰って来たな」

「何やってんだい君は?」

「人質じゃて」


 そう笑う同居人。暇そうにしていた。マリーは奥歯をカチカチ震えさせて座っている。恐怖で顔が強張っていた。


「俺達は「興味ない」


 脇に荷物を置き、マリーを見る。


「マリー。君の為に一応22口径の拳銃を買ってきた。

 明日からはそれの分解と結合、および構えをやって行く。それで狙撃についての本は読めたかい?」

「よ、読んでる途中にこの人達が来て……」


 つまり、最後まで読めなかったという事か。


「わかった。マリーのせいじゃないよ。

 おい。僕はお前にマリーとお留守番をしておけと言ったはずだぞ?何を人質ごっこしてる」

「別にワシがやっても良かったが、ワシがやると血の海じゃぞ?」

「ふざけるな。血の海にせずとも対処できるだろうが」

「それではつまらん」


 まったく。自然な動作で腰のホルスターに手を置いて、そのままクイックドローショット。しかもバーストショットだ。

 トリガー引きっぱなしでハンマーを素早く三回起こすだけ。ちなみに本来のM1858でこれをやるのは不可能なのでエマに特別に改造してラピットファイアシステムを搭載してもらった。最もちょっとシアーを削るだけなんだけどね。

 おかげでSAAみたいな撃ち方が出来るのだ。銃声は重なって、ババンって感じに聞こえただろう。


「は?」

「あ?」

「え?」


 三人とも理解が追い付かないという顔で目を丸くしていた。マリーは遅れてヒッと頭を下げ、同居人は余裕綽々で笑っている。


「拳銃を極めるならここまでやって貰いたい。セミオートだからもっと遅いドローとショットになるけどね。

 リボルバーは良いぞ~」


 男達はその場にドサドサドサと倒れる。

 その胸には赤い染みが広がっていた。


「留守番さぼった罰だ。

 その死体を外にほっぽり出してこい」

「しょうがない。

 おい」


 同居人は奥に声をかけるとハーイと返事があって肌色が出て来た。


「そいつ等を外にほっぽり出してくれ」

「じゃあ伊周様は足持って~」

「え~お主等でやればよかろう」

「お前もやるんだよ!」


 それからお気に入りのソファーに腰掛ける。ふと、ソファーに何か黒い点が付いていた。


「ん?」

「ああ、そこな。彼奴等の一人がたばこを落としてな。焦げた」

「ちょっと此奴等雇った依頼主とその子分皆殺しにしてくる」

「ワシも行く~」


 同居人が大小を腰に差す。


「マリーは狙撃の本を読んでなさい。

お腹減ったらそこのオカマ達にご飯作ってもらって。オカマ達はマリーの面倒見ててね。このバカみたいな事してたら僕が君達を外に放り出す労働をする事になるから」

「失礼しちゃうわ」

「オカマじゃなくて男の娘ですぅ。

 マリーちゃんはそこのところちゃーんと分かってくれたのに」

「この唐変木はそういう所分からないのよ」

「だから彼女いないのよね」

「だから童貞なのよ」

「しまいにゃぶち殺すぞこのホモ野郎共」


 リボルバーを抜くとキャーッと、さして怖がった様子もなく悲鳴を上げるフリをして死体を外に運び出した。

 玄関わきに置いた紙袋をマリーの許に持っていき、簡単な使い方もオカマ達から教えてもらえと言っておく。マリーは今だこわばった顔でうなずいていた。やれやれ。

M1858が本当にライピットファイア出来ないのかは不明。

モデルガンは出来なかった

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