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act.1

“お前にこのリボルバーをやる”


 お師匠から一人前の証として貰ったのは2丁のリボルバーだった。ピースキーパー、お師匠はそう名付けていたがコイツはニューモデルネービーだ。

 それを金属薬莢が装填出来る奴にしてある物だな。


「これ欲しいなぁ」


 そして、目の前の超強化防弾ガラスのショーウィンドウ。その中には金属薬莢を使用するリボルバーに使えるレーザーバレットが並んでいる。

 普通弾と同じ様に装填して、撃発するとビームが出る。一つの弾から6発のレーザーが出る。これを6発装填すれば36発のレーザーが撃てる。

 それを2丁持てば72発だ。


「これ、欲しい、な」

「欲しいなら金稼いで来なさいよ」


 見上げればガンスミスのエマが呆れた顔をしていた。僕の銃を整備してくれたり、手入れ用のオイルや備品、弾等を売ってくれる。

 金髪で碧眼、可愛いとも美人とも言える。こんな油臭い場所には似合わない可愛い子である。


「1発5万か……」


 全部で60万、予備弾で最低でももう1セット……つまり120万。


「美人な金持ちと結婚して紐になりたい」

「何馬鹿な事言ってるのよ」


 パツキンボインのチャンネー。


「良い依頼ないかなぁ〜」

「おい、アキはいるか?」

「あ、セブさん」


 セブさんは僕に仕事を持ってくる人だ。

 公社から放り出された僕には貴重な食い扶持を提供してくれる。


「仕事?」

「ああ」

「内容は?」

「マフィアの護衛」

「おいくら万円?」

「ボスが直接お前と会って話して決めるそうだ」


 思わずエマを見た。エマはこっちを見ていなかった。暫く見ていると振り返る。


「何よ」

「どう思う?」

「アンタが吹っ掛けれ良いじゃない」


 成程なぁ。逞しい。


「じゃあ、ボスに会ってやるから連れて来て下さい」

「了解したよ」


 了解された。

 暇だ。


「楽してお金稼ぎたーい」

「馬鹿な事言ってんじゃないわよ。

 ほら、メンテ終わり」


 エマは今の今までいじっていたリボルバー、レミントンM1858ニューモデルネイビーを僕の前に押しやった。

 トレーに載った彼女は今日も魅力的である。何のタクティカルアドバンテージも無いエングレーブは金が刷り込まれ、見目麗しい。

 2丁を手に持って軽く回す。ガンスピンはアキンボリボルバー使いの必須条件だ、とかお師匠に言われて死ぬほど練習した。


「うん。いつもながら良い仕事だ」

「そっ。なら良かったわ」


 ホルスターに銃を納め、お代をカウンターに置く。

 店を出ると何時も通りのクソみたいな天候とヘドロの方が百倍マシだと言わんばかりのすえた臭いが漂っている。ゴチャゴチャとした狭い通路はインドや中国の町並みを思い起こさせる。

 今は無き国々だ。


 つば広ハットを深々と被り、ジャケットの裾を持ってパンと伸ばす。

 拍車の付いたブーツを鳴らしながら優雅に歩く。

 真のカウボーイは優雅なのだ。お師匠みたいにスーツにまで高い金を出せぬが、気品とは服に払った値段ではなく立ち居振る舞いから現れるとか。


 家に帰り、ジャケットを上着掛けに引っ掛ける。ハットもだ。

 男なら一国一城を目指せとはよく言ったもので、小さいながらも家があると心持ちも違う。具体的に言えば金策に奔走する。


「お、帰ったのか」


 奥の部屋から声がする。

 同居人だ。


「ああ。帰った」


 ガラリとふすまが開くと半端に中性的な少年とも青年とも取れる同居人が現れた。


「君はまたやったのか?」


 ふすまの奥を見れば肌色の人影が見えた。


「やったとも。

 その為のへのこじゃて」

「それはそうだが、少なくとも尻に入れるもんじゃない」


 ふすまの奥の肌色達は所謂オトコの娘って奴等だ。


「価値観の相違だ」

「そうだな」


 溜息を吐いてシガリロを咥える。本物は高い。

 優雅ってのが何か分からないが、お師匠は何時も葉巻を吸っていた。身体に良くないなんて誰でも知ってる。しかし、タバコ、特に葉巻は上流階級の嗜みの1つみたいな事をお師匠は言っていた。

 安くても良いから葉巻を吸えとはお師匠の言葉だ。その安いものですら買えない有様だが。


「また吸えぬタバコを吸っているのか」


 同居人は小馬鹿にする様に鼻で笑うと煙管、と奥座敷の肌色達に告げる。

 奥からはーいと声がした。


「おい、その格好でソファーに座るなよ」

「どうせ合皮だ」

「合皮だろうがなんだろうがそのソファーは気に入ってるんだ。

 君の精液まみれのケツが触れる事を僕は許しはしない」

「俺は入れるのは好きだが、入れられるのはそこまで好きじゃない。

 今日は入れてないから安心しろ」

「そういう意味じゃない。

 生尻を乗せるなと言っているんだ」


 言い合いをしていると前を開けた肌色がキセルと羽織を持って奥からやって来た。

 肌色は同居人に羽織を着せてキセルを咥える。そして、熱いキスをした。同居人はそれに対して肌色の尻を揉む。女みたいにもっちりと柔らかそうな肌であるが、随所に男の面影も残っている。

 同居人の趣味だな。


「何が悲しくて昼間からホモのじゃれ合いを見なくちゃいけないんだ。

 僕に鉛玉を撃ち込まれるか、奥で僕の見えない様に乳繰り合うか選ばせてやる」

「カッカッ!

 童貞小僧が嫉妬しておる!ワシも少し休憩したいから今はせん。

 茶漬けを」


 同居人はそう言ってソファーに腰掛けた。肌色は妖艶な笑みを浮かべて同居人の為に台所に立つ。


「とんでもない奴等だよ、まったく」


 嘆息していると扉をノックされた。


「開いてるよ」

「バカ!お前が答えるな!」


 しかし、もう遅い。邪魔をするとセブさんと身なりの良い男に一人の少女が入って来る。


「アキオミはまたその格好か」

「ワシの家だ。どんな格好をして様がワシの勝手だ」

「僕の家でもあるんだか?」

「家賃は半分入れている」


 奥に下がってろと告げ、セブさんの後ろに居る男女を見遣る。


「その二人は?」

「さっき話した依頼人だ」

「セブ。このガキ共は本当に大丈夫なのか?」

「嫌なら帰ってどうぞ?

 出口は入口と一緒だ」


 シガリロを咥え、火を点ける。そして咽た。葉巻は肺に入れてはいけない。


「締まらんな」

「五月蝿え。早く引っ込め」

「おまたせ~」


 お茶漬けが2つ出て来た。


「あ、セブの旦那さん。

 いらっしゃい。お茶漬けいる?」

「いや、結構だ。

 アキ、お前しか居ないんだ」


 セブさんは少し焦った様子で告げる。

 気を取り直してシガリロをゆっくり吸う。そして、ゆっくりと吐き出した。


「護衛ならばもっと適役が居る」

「二人の身形を見ろ」


 高そうな服、教養も服相応にはある。少なくともこの街に居る連中よりは遥かに高い。


「なら自分の所のファミリーにでも守ってもらえばよい。家族愛だろ?」


 ゴッドファーザーでやってた。


「それが出来たら苦労しない」

「人生は苦労する物だ」


 紫煙を吐き出す。お茶漬けは梅干しが乗っていた。

 同居人はズルズルと食べていた。時計を見れば昼には少し早い。まぁ、良いか。灰皿にシガリロを置いて茶碗を手に取る。


「やっぱり米だよな」

「然り」

「それで、どうするの?」


 セブさんの後ろに居る二人を見た。


「私はアキほど腕の立つガンマンを知らない。

 しかも、アンタのご要望に叶う者もね。勿論、アンタのご要望のいくつかに目を瞑れば彼以上のガンマンは他に何人か居る」

「例えば?」

「皆殺しのタナカ」

「護衛向きじゃない」


 言っといて何だかアレは駄目だ。文字通りの皆殺しをする。血を見たが最後、敵味方関係無く殺してしまう。


「爆殺姫のマリアンヌ」

「ビルごと吹き飛ばすイカれだ」


 可愛い子なのにね。脳味噌の常識を司る器官を留めていたネジが吹き飛んでしまったのだ。


「トゥーハンドのアリス」

「あの娘で良いではないか?

 そこの童貞小僧より気は利くぞ」

「撫で斬りは黙ってろ」


 僕の事をライバル視しており、何時も辛く当たって来る。正直、あまり会いたくない人だ。腕も僕と同等以上なのだが、僕にだけ辛く当たって来る。本当に。

 同居人、エマ、セブさんには普通なのに。だから、会いたくない。


「お前が金が欲しいと言っていたから先に回してやったんだ」

「僕は空腹なら残飯でも食べる人間だと?」

「分かった分かった、兎に角この仕事は受けない。それで良いな?」

「最初から」


 両手をひらひら。


「良い依頼を持ってきてねー」


 セブさんに手を振る。


「セブよ」

「何だアキオミ」

「ワシも頼む」

「お前達はえり好みし過ぎだ」


 セブさんはそう言うとため息を盛大に吐いてから二人を連れて出て行った。


「あの男達は何者ぞ?」

「知らないのかい?

 今落ち目のマフィア、ドン・マルコーニだよ。部下に裏切られて大慌てらしい」


 ケツに火が付いたって奴だ。


「何故、部下が裏切った?」

「裏切るだけのタイミングと覚悟、条件が揃ったんでしょう?」

「タイミングと覚悟と条件は知ってるのか?」

「巷の噂程度はね。

 君はそう言うの知らないの?」

「興味無いね」


 同居人はすっかり食べ終えたお茶漬けの茶碗を脇に置くと、肌色を抱き寄せる。


「乳繰り合うな。奥でやれ」


 リボルバーを引き抜くと、同居人は怖い怖いと笑いながら奥に去っていく。ッタク……疲れる。


「やれやれ、仕事探しに行くか」


 リボルバーをホルスターに戻し、お茶漬けを食べ終える。そして、上着を羽織って帽子を被る。

 扉を開けるとアリスが今まさに扉をノックしようとしていた。


「やぁ、アリス」

「っ……ちょぉど良かったわ」


 声が上擦った。驚いたせいだろうね。僕だって上擦る。


「中にどうぞ」


 出てきたばっかりだけどね。僕に用件みたいだし、此処でボサッとしてるとまた辛く当たられる。

 扉を開けて、中に入れる。そのまま先程の応接ゾーンに。


「ダージリンで良かったよね?」

「あら、覚えていたのね」

「まぁね」


 忘れると喧しいしからね。正直、アリスは苦手だ。美人で腕も良いし同世代だが、本当に苦手だ。一緒にいるとストレスが溜まる。

 苦手なタイプの人間って奴だな。自分とは正反対の人間。良い人間だが、決定的に、なんて言うのか、もう、本当に相容れないタイプだ。

 紅茶煎れるのは嫌いだ。でも、完璧、とは行かないが最善を尽さないと辛く当たられる。それは勘弁願いたい。本当に気を使う。

 さっさと帰って欲しい。


「さ、どうぞ」

「どうも」


 アリスは匂いを嗅ぎ、味わう様に一口飲む。やだやだ。


「用件を聞こう」


 アリスが落ち着いたタイミングを見計らって話題を切り出す。ホント、嫌だ。テスト受けてるみたい。精神に本当に悪い。


「ええ、貴方と一緒にドン・マルコーニの護衛を受けようと思ってね」

「セブさんから聞いたかい?」

「ええ、でも一人100万出すって言ったわ」


 100?随分と出すな。


「そんなに追い詰められてるのかい?」

「ええ。

 敵には若頭ウィンストン。それがドン・マルコーニの部下8割を引き抜いちゃったのよね」

「内部抗争ってレベルじゃないね」


 どちらかと言えば下剋上だ。


「それで、勝利条件は?」

「取り敢えず1週間」

「1週間も護衛?」


 アリスと一緒に?冗談止めて欲しい。僕の精神が死ぬ。


「それならウィンストンの首取りに行ったほうがまだマシだ」

「ウィンストン派はどんだけいるのか知ってるの?」

「四百くらいかい?」

「そうよ」


 コソッと行って暗殺するのはどうだろうか?


「暗殺しよう。狙撃」

「誰が?」

「君か僕。

 ライフル持ってるかい?」


 僕は持ってる。ショットガンとライフル。

 基本は二丁拳銃たが、それだけじゃ食っていけない。食っていけないから、食っていける方法を探す。


「あるっちゃあるけど、自信無いわ」

「なら、僕が狙撃するよ。

 君は護衛対象の警護をするのはどうだい?僕が槍で君が盾」

「四百の敵を殺せる訳?」

「正攻法ではやらないよ。

 もっとも、ドン・マルコーニが許可しない限りはやらないけども」

「話は彼等を交えてしましょう」

「構わないよ。

 最も、僕は彼の依頼を一度蹴ってる。彼が良い顔をするとは思えないけどね」

「それなら問題無いわ。私が腕の立つ奴をもう一人呼ぶといってあるの。貴方を断るなら私も受けないわ」

「随分と、僕を買ってくれるんだね」


 何時も辛く当たるクセに。


「勘違いしないで頂戴。私は貴方の腕を見込んでいるの。

 私に勝るとも劣らないその射撃の腕、をね。貴方自身ではないわ」


 キッと睨まれた。ヤダヤダ。本当に、ヤダ。


「勿論。それで、今すぐ彼に会いに行くのかい?」

「いえ、明日にするわ。

 場所はウエスタンリッジのビーバーって言うレストランで。10時くらいに来て頂戴」

「分かった。

 ウエスタンリッジのビーバーに10時ね」


 これでどっちに転んでも、あまりアリスと絡まない道になる。

 アリスを無事見送って、扉を閉めたところで大きく溜息を吐き出す。


「良い人では有るんだけどね〜」

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