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遥か永劫の敗北神  作者: 輪叛 宙
第二部:屍の王国編 在りし日の望郷の都
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第二部最終話:そして夜明けの星は旅立った

週刊文春→週刊叙事クローズド・ヒストリーに変更しています

「それじゃあ、自分らはそろそろお暇するッスね」


 魔女団の部下を先に行かせ、カトレアはフェレスと握手を交わす。シワテテオスタの一件は、彼女も記事にしないという。

 「課長の嫌味を聞かないとね」と、女記者の顔を覗かせたカトレアは、週刊叙事クローズド・ヒストリーのネタが確保できなかったことを嘆き、上司にどやされる覚悟を決めたようだ。

 魔女団では教祖の彼女だが、記者としてはまだまだ自立できそうにない。


 自分が関わった亡国の話題をオカルト記事として載せるわけにもいかず、世話になったフェレス達に恩を仇で返すような不徳な真似をする気にもなれず、いよいよカトレアは行き詰ったようである。

 こればかりは諦め、彼女には大人しく上司に怒られてもらおう。と、落ち込む彼女に助け船を出したのは、ディーナ・シー族のユリアだった。


 英雄気質の高い所属である彼女は、困っている人を放っておけないのである。

 もっと言えば、自分が活動を黙認すると決めた魔女団のリーダーである彼女に、顔を立てておきたかったのもあるだろう。

 まるで救世主を得たように、「聖女様あ」と泣きつくカトレアは、ユリアの手を握り、感謝の意を示すため、上下に激しく揺さぶった。

 そんな2人に間に、ふとピスカが口を出す。


「ユリア姉さまは、学祭の方には参加しないんですか?」

「ん~、今回の後始末が優先よ。教団の方で、色々と処理することになるわ。それに――お姉さんはニフタの第五階位だからなあ、簡単に抜け出せないの」

「やっぱり真皇騎士団所属の方は、一般的な修道女より仕事が多いんですね」

「仕事をしない上位階の騎士団長もいるし、お姉さんパンチでなんとかしてあげないとね。ピスティリカは巡礼信徒になったんでしょう。たくさんの場所に行って、色んなものを見て、経験を積みなさい」


 先輩が後輩に教鞭をとるように、ユリアがピスカの頭を撫でる。彼女の力を受け流されるまま、くねくねと首を動かすピスカは、擽ったそうに眼を閉じた。

 良き信頼関係である。同じ信仰を大事にする仲間であるためなのか、教団の女神官達には家族のような、目に見えない絆があるような気がした。

 2人の信徒が別れを告げる際に、トロル族のロークが手を首の後ろに回す。


「んじゃ、おいらも寝床の鍾乳洞に帰るぜ。アンちゃんらとの旅、それなりに楽しかったぜ。心残りがないわけじゃねえけどな」

「あんたの心残りって、やましいことじゃないわよね?」

「ねね、ネエちゃんらの寝床を襲おうなんて、おいらはこれぽっちも考えてなかったぜ?」

「聞いてない……やる気、だった……?」

「そそ、そんなことねえぜ?」


 不信感が募り、半目になった少女2人に疑われ、ロークは目を逸らす。もう少し長く王国の宿屋に滞在したならば、少女らは危なかったかもしれない。

 といううのも、ロークが巨人から小人の姿に戻ったのが、1日前のことだからだ。トロール化した彼は宿屋に入れず、野ざらしの路地に座り込んでいた。

 巨人化したトロル族は、元に戻るのに数日かかるのだという。巨人の脂肪を徐々に硬化させ、その後に殻を破って本来の小人が現れる。

 例えるならば、蛹の羽化や蛇の脱皮に近かったかもしれない。硬化して古くなった脂肪の塊が、ロークを外に追い出したのだった。


「それじゃあな、アンちゃんら。あいらは行くぜ」


 走り出したロークがフェレスらに振り返り、「またな」と元気よく声を張り、大きく手を振って、エルデリカ鍾乳洞の方に戻っていく。

 フェレスらもエルデフィース港まで戻るつもりだったから、彼を送ってもよかったのだが、それはローク自らが拒んだようだ。

 「行っちゃったね」と、ロークの別れを惜しむ三珠は、彼の背が消えるまで目で追った。出会いがあれば別れもある、旅の醍醐味とは切ないものだ。

 

「さて、妹分へのエールも送ったし、お姉さん達も行きましょうか」

「そうッスね、長居しても名残惜しくなりますし、自分とエディーラ氏一行は、また学祭で会うことになりそうッスから」


 黒装束のフードを深く被り、多眼族の魔女はスッキリとした笑顔を見せる。一方のユリアも、「その子をお願いね」と三珠達3人に頼み、ピスカを送り出す。

 姉貴分に思いっきり甘えられたと、ピスカは満足するそうに頬をテカらせ、「また会いましょう」という約束を交わし、少女は教団の騎士に手を振った。

 残るは隣の男だけだろう。しかし、彼は動こうとしなかった。


「アディン、お前は行かなくていいのか?」

「さっきも言っただろう。僕も学祭へは参加予定だ、ここで別行動をとる意味があるかい? 君は寂しがるんじゃないかと思ってね」

「そいつはいい、稼ぎ頭は多いに越したことはないからな」

「嫌だね、僕が君に分け前を払うとでも?」


 ふふふ、真っ黒な笑みを浮かべる男2人は、それぞれ相手の腹を探り合う。どうやれば、自分の仕事に利用してやれるのか。これは駆け引きなのだ。

 旧知の仲だからこそ、2人に遠慮というものはなかった。ほぼ冷戦状態で黒いオーラを放つ男達に苦笑いを浮かべつつ、三珠はカトレアを呼び止めた。

 何のことはない、お礼を言いたかったのだろう。素敵な友達(メル)に出会えたのは、彼女の工作があってこそなのだから。


「あの、ありがとうございます! 私がメルと出会えたのは、カトレアさんのおかげです。本当に、感謝してもしきれないくらい!」

「んっ? 何のことッスか?」


 両手でトンネルを作り、カトレアに叫ぶ三珠。

 清々しい、本当に晴れ渡るような気持ちで、潔い別れを告げたつもりの三珠だったが、しかしカトレアの返答により、それは一転した。


「あ、あれ? メルの棺の封印を解いてくれたのは、カトレアさんの魔女団だったんじゃ……」

「いやいや、違うッスよ? 棺の間は見つけたんッスけど、封印式が複雑すぎて無理だったんッスよね。天津氏達がやったんじゃないッスか?」

「えっ!? 私達、メルと出会ったのは鍾乳洞の地底湖……で、でも! 被り物をしたアポピスさんに頼んで、街道の空に幽霊に似せた発光体を作ってから、私達の道案内をしてくれたんじゃ……んん?」

「あー、あの噂ッスか? あれは事実ッスよ、港町の漁師達の話を小耳に挟んだだけなんで――まさか、与太話じゃなかったのね」

「う、嘘ぉ……本物の、幽霊……?」


 さー、と血の気が引いたかと思うと、三珠は背筋を凍らし、両の瞳から生気が失われていく。彼女は立ったまま、気絶したのだ。

 「大丈夫?」と周りの女性陣に心配される三珠は、うわ言のようなことを呟き、しばらくフェレス達の足を止めてくれたのだった。



     ◇



 常闇の大地に滅びた王国――そこに民家の影に隠れ、抜け殻のようにあった少女を運ぶメルを遠巻きに見つめ、儚く微笑む女の亡霊はいた。

 半透明になった青白い肌に、きめの細かい水色の髪をした女性である。顔立ちにはメルにそっくりであり――いや、メルの方に彼女の面影があると、そう言った方が正解なのかもしれない。

 なにせ彼女は、2人の娘の母なのだから。


『エメルフィア……いえ、メル。私の大切な……2人目の、娘』


 忠臣だった者達の魂が救われるのを見届け、女王の未練は我が子への愛を伝えた。

 エルデリカ鍾乳洞に2つの棺の間を作ったのは、娘の眠る棺の間に敵兵が向かわないために、彼女亡き後に女王の墓所と思い込ませるためである

 娘の――エメルフィアの甦りはならなかった。けれど、彼女の残した肉体に宿ったもう1つの命が、女王の希望となり得たのだ。


 新帝国に暗君崇拝をする反乱国とされ、残党狩りの被害に遭ったシワテテオスタの女王は、エメルフィアの体に宿った新たな子をひた隠し、王家の誉とも言える大鎌とともに、彼女を鍾乳洞の棺の間に封じた。数百年後の未来、占いに出た王国の救世主が訪れるまで、母としてを守り抜くために。


『長かった……ようやく、この日が来た……』


 魂砕きの符呪が成された剣を持つ新帝国軍の英雄に、メルフィアナ王女は胸を刺し貫かれるより早く、彼女は己の肉体を魂を分離させた。

 忠臣だった首なし族(デュラハン)の女騎士、ミレスエナに幽体離脱の研究に付き合ってもらい、長い研究の果てに彼女が手に入れた術である。

 魂が抜け落ち、肉体は機能をなくすが、それでも彼女は霊体になって行き長られた。全ては来たる日に救世主を導き、娘が眠る棺の封印を解くためだ。

 そしてとうとう、彼女は予言の日を迎えられた。


『きっと、貴女には……これからも、試練が待ち受けているでしょう』


 たとえ彼女が、遠い日に産み落とした長女ではなくとも、間違いなく自分の娘なのだと、そう胸を張って言い切れた。

 だからこそ、過去ではなく未来に進み始めた娘を心配しつつ、それでも彼女の可能性を信じられたのだ。故郷の誇りもって、その先へ――


『我が娘に……良き未来が、ありますように……」


 自分の思いを、朽ち果てた王国の誇りを、自らの娘に託した亡き女王の亡霊は、ついに忠臣らの後を追っていく。

 

 もう思い残すことなどありはしない。未練は果たされた。


 長い長い夢を終え、亡国の王女は天に昇る。人の願いに満ちた魂の冥府らくえんへ。

 やがて廃墟の都市に残留した女王の未練は浄化され、700年の歳月を経て、真に滅びた王国から、たった1つの明の明星(フォスフォロス)は旅立つのだった。

 第二部終了となりました。ブックマークをしてくれた方々、またはしおりを挟んで読了してくれた方々、本当にありがとうございます。


 第三部は魔術学院編となりますが、自分が洋書ファンタジーが好きということもあり、ライトノベル特有のバトル主体の学院ではなく、純粋に魔術という学問を学ぶ学院設定となります。

 ハリーポッターなどを参考にしているので、詠んだことのある人には、既視感があるかもしれません。


 扱う舞台が学院となり、前二部よりは少し長くする予定です。

 第三部も地道に続けていきますので、またお付き合い頂ければ幸いです。 

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