表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遥か永劫の敗北神  作者: 輪叛 宙
第二部:屍の王国編 在りし日の望郷の都
63/495

第一六話:シワテテオスタ王国

 シワテテオスタ王国に到着したのは、夕刻になってからだった。王国は水の溜まった堀に囲まれ、石造りの砦門さいもんが城下町を守るように造られていた。

 王国への出入り口は堀の東西南北に架けられた4つの橋、そのいずれかを渡った先にある関所で行われているようだ。巨大な石垣の上に建築された居城とも言うべき城は、砦門の内部に造られた城門が固められ、二重の防衛ラインをしいていた。

 城下町の関所には、鎧を着た兵士が門の左右に1人ずつ立ち、検問を実施している。時代錯誤というか、古いしきたりに遵守しているような王国である。


 既に夕刻ということもあってか、フェレスたち以外に王国を訪れる者はいない。

 堀にかかった橋を渡り、検問所の前で仲間を待機させたフェレスは、一団パーティの代表として、アディンとともに警護員の王国兵に近づいていく。が、兵士の男は2人の男が視界に入るや否や、装備した長槍を城門の前でクロスさせ、彼らの進行を妨げた。


「何者だ! 怪しい動きをするのであれば、容赦はしないぞ?」

「ちょっと待ってくれ、俺たちは入国希望者だ。手続きをしたいんだが?」

「ダメだダメだ、諦めてくれ」

「どういうことだい? 僕らは旅人だ。戦時中じゃあるまいし、警戒しなくてもいいと思うけどね」


 アディンとフェレスは門番の兵士に食ってかかるが、しかし王国兵の男は首を振るばかりだった。それどころか、「あまりしつこいようならば抗戦も辞さないぞ」という、王国兵の強気な態度が見て取れる。


「現在は女王閣下より鎖国令が出されているんだ。旅人の入国も許可できない」

「おいおい、こっちは泊まるとこもないんだぞ?」

「残念だが、諦めてもらおう。引き返してもらおうか?」

「まったく、それが王国兵の態度とは聞いて呆れるよ」


 アディンも不快感はあっただろうが、苛立つ姿を見せることもなく、フェレスに手招きをした。王国兵から距離を取った2人は、警備の兵士に聞こえないように耳打ちをし合い、情報の共有を行う。


「やはり不可解だね。あの王国の状況……」

「パリカーに関係していないとは言い難いな」

「国が彼女らに味方をしている。そう見てとれなくもないね」

「問題はどう入国するかだが……」


 フェレスとアディンが王国に侵入する算段を立てていると、我慢の限界を迎えたらしいメルが、大鎌を杖替わりにつき、王国兵の前に立つ。


「彼らは……私の恩人……通して、ほしい……」


 王族の威厳を見せつけるふうに、メルは警備兵に詰め寄った。

 しかし、彼から返ってきた反応はメルの予期せぬもので。


「んん、君は誰だい? 王女様と同じ死魔族のようだが、忠臣のご息女かな?」

「……っ! 待ってほしい……私は、メルフィアナ・シーマ・プリヴィディエーニ。この国の……第一王女のはず……」

「ちょっとちょっと、それは笑えないよ。メルフィアナ? 冗談は止めときなよ、お嬢さん」

「えっ? そんなはずは……」


 同じ門番の兵士に声を掛け、げらげらと王国兵の男たちは笑うが、まるで見知らぬ都市を訪れた迷い子のように、メルの顔は絶望の一色に染まる。

 私が間違っているのだろうか。それなら、この記憶はなんだというのだろう。そう嘆きもしたくなるように、メルの大きく見開いた瞳が潤んでいく。


「あのさあ、ついていい嘘と悪い嘘があるんだぞ――なあ、お嬢さん?」

「お姫様に憧れる気持ちはわかるけどさあ、平民なんだから現実を見なよ。俺らみたいに、身の丈にあった仕事をするのが一番だぜ?」

「違う……私は、本当に……!」

「あのさ。いい加減にしないと、子供の妄想じゃ済まなくなるよ?」


 長槍を構えた王国兵の1人が、メルの喉元に刃を突き立てる。寸止めだったが、次は喉をつくという強い意思が窺えた。

 女子供相手でも容赦しない王国兵の気概に、そして自国の兵に武器を向けられたという悲劇に、メルは混乱と失意に飲み込まれ、押し黙ってしまう。そこへ、助け船を出したのが三珠だった。


「ご、ごめんなさい! この子、少し妄想癖なとこがあって!」

「……三珠?」


 助けてもらえると思っていなかったらしいメルは、きょとんと目を丸くする。

 要領を得ない言葉を並べ、あたふたと誤解を解くための言い訳を探す三珠。ふと思い立ったのか。彼女はリュックから薬瓶を取り出し、門番の男たちに見せ、もっともらしい嘘を口にした。


「ああ、あのこれ! 私の作った薬です、彼女の精神を安定させるための霊薬!」

「君は、彼女の専属医なのか? それにしては若いような……」

「ふ、ふん。人を見た目で判断するでないぞ? 今時の若者を演じておるが、わらわは老齢の術師よ。不老不死の民もおるのだ、見た目ほど信用がないものもあるまい(ああ、うん。ちょっと苦しいかな?)」


 三珠は冷や汗を流し、王国兵たちの反応を待つ。

 すると、彼らは目を見合わせ、考え込むように鋼の兜を擦った。

 

「わかった、わかった。君を信じよう――だが、精神異常者を国に入れるわけにはいかない。そこのところは理解してもらうよ?」


 彼らとしても、無意味な論争は避けたかったのだろう。

 門番の2人が三珠の発言に騙されたかどうかはわからないが、精神異常者が同行しているという謳い文句が、フェレスらを城下町に入れない理由にもなり、三珠と王国兵らの利害は一致していたのだ。


 話の決着がついたところで、平謝りをするリーシャとピスカがメルの腕を掴み、門番から遠ざけていく。ユリアとロークは門番から怪しまれないように移動し、


「これは無理そうね。どうするの、城門を殴り飛ばしてみる?」

「力技はやめておきたいな。騒ぎになっても面倒だ」

「じゃあ、どうすんだよ。アンちゃんらに策はあるのか?」

「厳しいね。野宿は覚悟していたが、こうなるとは思ってもみなかった」


 八法塞がりになり、ほとほと参った4人。そんな彼らの前に、ピスカがメルを連れ、三珠とリーシャが足並みを合わす。彼女に代案があるらしい。

 藁にもすがる思いなのだ。フェレスは彼女の提案に耳を貸す。


「この街の堀に……都市内に侵入できる地下水路がある……」

「メルフィアナさんによれば、今は使われていないそうです」

「本当は……王族専用の、脱出口……」

「確証はないけど、2人と相談してメルを信じてみることにしたよ」

「先輩、あたしらの顔を立てて、行ってみませんか?」

「お願い、信じてほしい……私は嘘、ついてない……」


 まるで懇願するようにメルに頼み込まれ、フェレスは参ってしまう。

 教え子である3人の後ろ盾も相まって、穢れた自分にはなくなった純粋さに弱いフェレスは、ああだこうだと嫌味を言いつつも、結局は押し負けるのだ。

 それに王国に不法入国するにしても、メルに賭けるしか手がないのも事実だった。

 「発想が完全に悪役だよな」なんて思いつつ、フェレスはメルに案内を頼む。



      ◇



 ピスカの氷雪属性の魔術により、氷の階段と足場を作ってもらい、フェレスら堀の一番下に降り立った。それなりに深い堀である。

 水面からの高さは7メートルはあるだろう。堀に貯水した水の一部を凍結した足場は滑りやすく、フェレスは足元に注意して仲間を待つ。

 氷の足場に立った三珠が足を滑らせ、尻餅をついた時には、危うく彼女が水の中に落ちてしまわないか、かなり不安であった。


 やがて全員が無事に氷の足場に降り立ち、フェレスは前方の地下水路の排水溝を見る。錆びた鉄柵が侵入を妨げる排水溝だった。

 フェレスはアディンに堀の上方を警戒してもらい、潜入作戦を決行する。


「リフォルシア、幻術の規模を広げられるか?」

「ええと、先輩? 排水溝の近辺を隠せばいいんですか~?」

「ああそうだ、頼むぞ?」

「まったくもう、愛する先輩の頼みは断れませんね~」


 お馴染みのあざといアピールを忘れずに、リーシャは幻術の上位魔術を使い、濃い霧を発生させた。


 幻惑の霧(ハルシオン・ミスト)――周囲一帯を霧で覆い隠し、広範囲の幻覚を見せる魔術だった。霧に覆われた区画は光の屈折がおこり、事実とは異なる映像に置換される。


 光属性の光球を片手に、見張りの兵士が堀の近くをうろつくが、彼は排水溝の付近に変化がないことを確認し、持ち場に戻ってく。

 歩き去る兵士を見送り、アディンがハンドサインを送ると、フェレスは次のフェイズに移行した。


「ピスカは排水溝の近くまで、氷の足場を作ってくれ。ユリアティルは……まあ、わかるよな?」

「鉄格子を引っこ抜けばいいのね。私の拳なら余裕だわ」

「ああ、それで頼む。ロークは排水溝内の偵察だ。少し進んで、問題がないようなら戻って来てくれ」

「おうよ、アンちゃん。おいらに任せときな、その手の仕事は得意だぜ?」

「――では、行きますね」


 ピスカは瞑想して集中力を高め、地下水路の排水溝までの水面を凍結させ、水底までを頑丈な氷塊に変化させると、ユリアが歩き進み、鉄格子を握りしめる。

 体の小さなロークは、ユリアが剛力で折り曲げた鉄格子の間を通り、地下水路の探索に向かう。


 そして待つこと5分――帰還したロークがハンドサインを使い、地下水路の安全を保障してくれた。


 フェレスはユリアに頷き、彼女は全力で鉄格子を下水溝からもぎ取った。ひん曲がった鉄の棒を、ユリアがポイポイと堀に投げ捨て、城下町への進入路が完成し、そこへメルが入り込んでいく。

 地下水路の地図は彼女しか知らないし、実際に侵入口はあった訳だから、もうメルを信じる選択肢しかないのだ。

 

「あとは……任せて……」

「ああ、俺らはお前を疑っちゃいない。頼むぞ?」

「んっ、善処……役に立つ……」


 背負った大鎌が排水溝の角に当たり、メルは足を取られながらも、地下水路の奥に進んでいく。彼女の案内に続くように、フェレスら次々と地下水路に潜入した。

 まるで犯罪集団みたいである。実際、彼らは密入国者ではあった。


「これ、犯罪なんだよね? スパイみたいで、ちょっとカッコいいかも」

『(うん、カッコいいー。ますたーはできる女ー)』

「スィア? そんな言葉、どこで覚えたの?」

『(リーシャがね、言ってたよー。人の気を引けるのは、いい女だーって)』

「ああ、うん。スィアの教育に悪いから、リーシャには言っておくよ」


 最後尾の三珠は胸の高鳴るスリルを味わいつつ、また友人の悪ふざけに姉心的な文句も抱き、ブレスレットを経由して魔術を使う。

 地属性魔術で欠けた排水溝を直し、複合魔術の鋼属性魔術を行使して鉄格子を作り上げ、魔導書スィアの時間遡行魔法をこっそり使い、ユリアが破壊した侵入口の後始末をし、三珠はメルらを追う。

 排水溝を修復し、氷の足場もなくなり、幻惑の霧が晴れた王国の堀は、侵入者などはなかったというふうに、フェレスらが潜入する前の景色に戻っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ