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遥か永劫の敗北神  作者: 輪叛 宙
第一部:オロス編 そして負け犬は少女と出会う
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第二話:永劫の敗北者②

 どのくらい遺跡に潜ったか。ようやくフェレスは遺跡の最深部らしい行き止まりに辿り着く。自分の目の前には巨大な門がそびえ立っていた。

 高さは七メートル弱、横は五メートルといったところ。人の力でどうこうできるとは思えないほど、頑強な石造りの門だった

 門の両脇に配置された台座から青緑色の光が漏れ出てており、遺跡の壁には巨大な石像が壁に彫り込まれてる。台座の光が目にうるさい。フェレスは眩しげに片目を閉じた。

 

「魔術系統の封印が施されてるか? しかもただの魔術式の封印じゃない。古代魔法……失われた魔法(ロスト・マギア)の類か。歴史的発見だといいがな」


 フェレスは門の壁面をなぞる。線状系の青い紋様が門に浮かんでは消えていく。術式の解析は難航を極め、フェレスは頭を抱えた。

 古代遺跡にはよくあることだが、今では使用されていない高度な魔術式の名残が残っていることがある。古代魔法と称される術法は、現在も多くの考古学者が解析中だ。

 ここまでかな? と断念する。フェレスは傭兵ではあるが、考古学のような専門知識に精通している訳ではない。簡易的な術式だったならば、固有呪術で無力化した。


 だが、門に施された魔術式を消し去るのは、いささかもったいなく思う。道中のトラップは除去したのだから、後は専門家に任せたほうがいいかもしれない。

 危険度の低い魔術式のようだ。考古学者たちが総力を挙げ、門の封印の解析を進めてくれれば、将来につながりそうなもの。立ち上がり、フェレスは引き返そうとした。

 踵を返したフェレスを大きな影が覆う。明らかな威圧感を感じた。強大な魔力の波動だ。フェレスは振り返り、自分を見下ろす怪物の姿を瞳に映す。


「自立駆動型の人形兵器(ゴーレム)!?」


 全長五メートルはあるかという石造りの巨人だった。太く屈強な手足を持ち、ぽっこりと腹の膨らんだ岩石の怪物。半円形の頭部に光る赤色の一つ目が、フェレスを観察するように左右に揺れる。

 遺跡最深部の階層守護者といったところか。何かしらの拍子に、遺跡の防衛システムが起動してしまい、ゴーレムがフェレスを外敵と定めたのだ。いや、理由は簡単だった。


 遺跡の門にフェレスが触れたことで、最後の防衛システムが稼働を始めたに他ならない。注意しておくべきだった。フェレスは酷く後悔する。

 古い遺跡なのに、魔物がいなかったのは不自然だ。この程度の異変にも気づけないくらい、自分は老いてしまったというのか。敵がいなかったということは、それを排除した何かがそこにあったはずなのだ。

 用心深いフェレスにしては痛恨のミスだった。自分の短慮さが嘆かわしい。


「俺も年なのかもな」


 フェレスは銃剣に手を添え、腰を落とす。岩石の巨人は大きく拳を振りあげた。フェレス目掛け、ゴーレムの腕を振り下ろされる。

 動きはのろい、だが体重ののった拳の威力は凄まじかった。直撃を避けたフェレスは、ゴーレムの叩きつけた拳の風圧で吹き飛ばされ、ごろごろと床を転がる。

 激しい砂埃が舞いあがり、ゴーレムの殴りつけた遺跡の通路には、大きなクレーターができていた。飛び散った石片がフェレスの肌をかすめ、生傷を付けていく。

 飛び散る破片を浴びつつ、フェレスは床に手をついた。呪術弾を使ったばかりに、自分を守る結界を張っていた腕輪の符呪効果も消えたのだ。

 

「ほんと、使いどころに困る呪術だな」


 苦し紛れに一声。フェレスはゴーレムの片足に向けて手をかざす。赤色の魔法陣がゴーレムの右脚に張り付いた。

 そして爆発。赤黒い爆炎が上がり、轟音は遺跡の中に反響する。爆炎の発した硝煙の臭いが鼻をつく。爆発の拍子にゴーレムは体勢を崩し、大きくよろめいた。

 しかしフェレスの魔術は威力が弱い。右足の破壊までには至らなかったのだ。フェレスが使ったのは、爆破型の設置魔術である。視覚内の任意座標にトラップを設置する。

 それを起動させる初歩的な魔術。士官学校などの戦闘訓練がメインとなる教育機関では、一番初めに生徒たちが覚える初歩的な魔術だと言っていい。


 魔素との適合値が高ければ、学生ですら複数のトラップを展開できる燃費効率のいい魔術だった。生憎とフェレスは二ヶ所への同時使用が限界である。

 フェレスは魔素への適性値が低い。魔術の使用には、必要な魔素を大気中から選出する必要がある。そして魔素結合術式で組み上がった魔方陣を展開。

 その結合を破壊することで、魔術という現象は発生する。防御タイプの魔術であれば、魔方陣の結合を維持すれば良い。この魔素のコントロールは、かなり神経質にならなければいけない工程なのだ。

 基本的な適性が低い者は、すぐに精神力をすり減らしてしまう。集中状態を維持することも困難になり、あっさりとへばるのだ。自分の非才さには呆れて通り越し、もはや笑えてくるほどだ。

 フェレスは唇を噛み、己をなじった。

 

「冗談じゃない、年寄りをいじめるのはやめてくれよ」


 苦し紛れの嫌味を言い、フェレスは息を切らす。腰に装着したバレットベルトから呪術弾を取り出すと、銃剣のシリンダーに入れ込む。

 体勢を立て直したゴーレムは、機械的にフェレスを見据えた。


『侵入者ノ抵抗ヲ確認。コレヨリ、抹殺フェイズヘ移行シマス』


 流暢な無機質の音声を発し、ゴーレムの足元に魔法陣が展開される。力を貯め込んでいるのか、大層ご立腹中なのは違いない。

 ゴーレムの体は真っ赤に変色し、蒸気のような煙を頭から吹き出した。殺す気満々といった雰囲気だ。興奮状態が分かり易い親切設計である。

 勘弁してほしかった。無機質なゴーレムの気持ちなどはわからないが、この状況があまり良くないということだけは、フェレスの本能が告げている。

 特大級の咆哮をあげ、ゴーレムは猪突猛進よろしく突進してくる。フェレスは冷や汗を流し、引き攣り笑いを浮かべて。


「堪えてくれよ」

 

 フェレスは前方に防護用の魔術トラップを設置した。二重になった白き守護の花弁がゴーレムの拳を受け止める。貧弱な負け犬の盾と剛健な怪物の拳がひしめき合う。

 しかし両者の拮抗が崩れるのは、そう時間のかかるものではなかった。ピキッと白い花弁が悲鳴をあげ、守護の盾にひびが入り始めたからだ。


「まぁ、そうなるよな」


 フェレスは己の非力を嘆き、軽く舌打ちをする。それでも落ち込むことはない。わかっていたことなのだ。どこまでもフェレスは現実主義な男である。

 とうに己の秘められた才能などには期待はしていない。ならば、設置した守護の盾が打ち砕かれるより早く、敵を無力化する術を行使すればよかった。


「馬鹿力だな、大人しく寝ててくれ」


 フェレスが銃剣のトリガーを引き、敗北の呪術を撃ち出す。崩壊した一枚目の盾は放棄し、フェレスは狙撃の照準を設置魔術で代用したのだ。

 白色の魔法陣がゴーレムの腹に刻み込まれ、その位置より赤黒い波紋が伝播していく。呪詛は赤黒い波紋状に広がり、フェレスの展開した白い花弁の消失した。

 赤の波紋はゴーレムの全身にも伝わる。膝をついた石像は最後まで任務を果たそうと抵抗するが、やがてはフェレスの呪術に屈し、瞳の光を消して機能を停止した。

 もともとゴーレムは、あらかじめ組み込まれた魔術式に従って行動する人形兵器。おおもとの術式が砕けたならば、兵器が活動を続けることはできない。

 フェレスは銃剣を一振りし、


「とりあえず、コアを叩いておくか」


 フェレスはくの字に曲がった銃剣の柄を直立させ、ゴーレムの前に歩み寄る。ゴーレムの腹に爆破型の設置魔法を展開、起爆させた。

 起爆の範囲を抑えたとはいえ、飛び散った石の破片は床に散らばる。ゴーレムの膨らんだ腹には、ぽっかりと半径ニ十センチほどの穴が開く。

 と、その奥には虹色に輝く結晶石があった。大型の魔素結晶である。ゴーレムに魔素の供給していた魔晶石(コア)だ。

 術式を破壊したとはいえ、魔晶石が健在ならば、再起動の危険性は十分にある。可能性の芽は確実に潰しておくのが、フェレスの常套手段なのだった。


「卑怯者と言いたければ言ってくれ。こんなかっこ悪い手を使わないと、どうやっても俺は勝てないんでな。それはもう、俺にとっては誉め言葉みたいなもんさ」


 ふと言い逃れするみたいに、フェレスは自分の非力さを茶化す。フェレスも男だ。正々堂々と戦い抜き、カッコよく勝ってやりたい。

 それでも理想は空想でしかないのだ。長い年月を生き続け、あの日の憧れは摩耗した。叶いもしない夢を見ない程度には年を取ったのだとは思う。

 フェレスは動かない石像には目もくれず、腹の奥にある魔晶石を銃剣で貫く。ゴーレムの魔晶石にはひびが入った。コアは砕け散り、ゴーレムの四肢がばらける。

 頭部も外れ落ち、瓦礫の山が残った。


「しかし、どうしたもんかな?」


 フェレスは銃剣を納め、遺跡最深部への門を見上げる。遺跡に反響するほどの地鳴りをあげ、門が開き始めたからだ。守護者であるゴーレムが倒され、フェレスの呪術により門の封印が解かれてしまう。

 考古学者達への気遣いとはなんだったのか、我がことながらに猛省する。やがてフェレスは失態を嘆きつつ、念のためにと門の奥へと進む。 

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