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遥か永劫の敗北神  作者: 輪叛 宙
第二部:屍の王国編 在りし日の望郷の都
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第一二話:地底湖での水遊び(起・末話)

 漢数字変換に際し、メルの容姿を多少変更しました。角と尻尾をなくし、腰に羽が生えた設定にしています。即死魔術の使用時に髑髏の仮面をかぶる設定で、角が邪魔になるのでは? と疑念を抱いたためです。ご了承ください。

 開帳オープン、という詠唱が響き、テントのスクロールが青白い炎を灯して燃え上がると、地底湖の側に楕円形のテントが三つ張られていた。

 一つは男性が入るテントで、後の二つは三珠とリーシャ、ピスカとユリアの組に分かれることになった。市場で買ったアウトドア用品を、ピスカとリーシャの持つ収納袋から取り出し、四人は夕食の準備を進めていく。折り畳み式の調理台を収納袋から引っ張りだし、ピスカが手早く組み立ててくれた。

 三珠とリーシャは肩を並べて包丁を持つ。市場で調達した魚や野菜をまな板にのせ、三珠が野菜を担当し、リーシャが魚を捌いて骨抜きしていく。

 

 力加減が分からず、料理が苦手らしいユリアは地属性魔術を行使し、鍾乳洞の地面を隆起させると、簡素な調理用の炉を作ってくれていた。

 収納袋から取り出した二つのボールに、ピスカが三珠とリーシャが切った材料を分け、魚の赤みが入ったボールと瑞々しい野菜が入れ込まれたボールが出来上がる。夕食の下ごしらえは完了だ。

 洞窟生物がボールに入った材料に手を出せないよう、ピスカは光属性魔術の結界で材料の守りを固めた。下準備さえ済ませれば、あとはフェレスがフライパンを使った野営食を作ってくれるそうなので、彼女らは一仕事を終えたことになる。


「さあて、そろそろいいっしょ?」


 服のボタンに手をかけ、リーシャは言う。汗で衣服がベタベタするし、すぐにでも体を流したいと、はしゃいでいるようでもあった。

 

「でも、服はどうするの? まさか、裸になるんじゃないよね?」

「そんなの、下着でいいじゃん。先輩たちはいない訳だし」

「女の子同士なら恥ずかしくありませんよね。体を洗い終わった後は、テントの中で着替えればいいです! 私は……既に敗北感を感じているわけですが」


 胸元をちらりと見て、ピスカが苦笑いをする。と、ユリアが言い聞かせるみたいに、人差し指を立てるのだった。


「何を言っているのよ、ピスティリカ。女の魅力は色気だけじゃないわ」

「それ、ユリアさんが言っても説得力低くない?」

「リフォルシア、細かいことは気にしなくていいの。今を楽しんでいきましょう。さあ、お姉さんが一番乗りしちゃうぞお」


 教団の軽装を脱ぎ捨て、黒色の下着から溢れんばかりの胸を揺らし、ユリアは鍾乳洞の地底湖にダイブした。彼女の着水と同時に水飛沫が上がり、湖面が波打つ。

 地底湖は背の低いユリアの肩くらいまでの深さで、奥に行けばもっと深くなるのだろうが、テント付近で水浴びするには丁度良い水位だ。

 ロークの話では危険な生物はいないみたいだし、彼女のような思い切りも必要なのかもしれない。


「んじゃ、二番乗りはあたしって感じで!」


 リーシャの放り投げた衣服が宙に舞い、ひらひらと、少女の柔肌を守っていた布は、テントに近くの地面へ乱雑に散らかった。

 リーシャは水色の下着姿となり、潜水するみたいに腰を丸めると、数秒後に水面へと浮上する。


「あんたらも入って来なさいよ」

「ほら、早く早く! 気持ちいいぞお!」


 先に入ったリーシャとユリアに誘われ、もう辛抱ならないというふうに、ピスカがゆっくりと神官服を脱いでいく。

 よくあるブラジャー型の下着ではなく、ピスカは胸の小さな自分に合ったさらし型の下着をつけていた。色は可愛らしいピンクである。ピスカは地底湖の岸に座り込み、まず最初に足をならし、ゆっくりと入した。と、彼女は気持ちよさそうに肩を流す。


「三珠姉さまもどうですか? お風呂みらいにすっごくいい温度ですよ」

「ミネラル分の高そうな水だし、肌にいいかもしれないわね」

「ほら、後はあんただけじゃん。さっさと来なさいよ、三珠!」

「みんなさ、思い切りが良すぎない?」


 三珠は服を脱がずに地底湖に近づくが、入るべきかやめるべきなのか、決断できずに迷う。夜光石の幻想的な明かりがあるとはいえ、はやり暗い水の中に入るのは恐ろしい。死霊術で動く亡霊に会ったばかりで、恐怖心もあるのだ。

 死んだ女の人に足を引っ張られたらどうしよう。と、昔に読んだホラー小説の演出を思い出しつつ、そんなものはフィクションだと分かっていても、地底湖に浸る勇気が、三珠はなかなか振り絞れなかった。


「三珠、ちょっと手を貸してくんない?」

「えっ? こ、こんな感じ?」


 おもむろにリーシャに手を差し伸べられ、三珠は彼女の手を掴む。するとあろうことか、リーシャは問答無用で三珠の体を引き、地底湖に落とした。

 バチーン! と湖面で腹打ちしたみたいな音が響く。実際、三珠は腹打ちしてしまっていた。いきなり水の中に引きずりこまれ、三珠は地底湖の地下水を飲んでしまい、鼻にも水が入り込んできて、じくじくとした痛みが鼻奥に残る。


 着替えはあるのだが、三珠の服はずぶ濡れで、ぴったりと肌に張り付いていた。一つだけ救いだったのは、魔導書スィアの入った背負いリュックを、テントの傍らに置いていたことだろうか。 

 リーシャも確かめてやったのだろうが、スィアが濡れなくてよかったと思う。


『(みんな、楽しそー。スィアも混ざりたかったー)』

「(それは我慢して、スィア。濡れちゃうのは嫌じゃないかな?)」

『(むう、ずるいー)』


 ちょっとだけ拗ねるように、スィアが不機嫌になる。聞き分けのない妹をもったみたいだ。それが可愛くもあり、混ぜてあげたいという姉心もあった。

 ともあれ、今はリーシャへの逆襲が先だ。地底湖に落とされ、服が濡れたからには躊躇いも吹っ切れる。服の袖に手を掛け、水を含んだ衣服を脱ぎ去ると、それを地底湖の岸辺に置き、真っ白な下着姿になった三珠はリーシャを追いかけ回す。


「リーシャ、もう遠慮しないからね! 今日こそは、その尻尾を触るから!」

「へえ、やれるもんなら、やってみればいいじゃん」


 水中を飛ぶように走り、三珠はリーシャの尻尾に掴みかかるが、しかし自分の手は水を掴んで飛沫を上げただけで、友人の姿が忽然と消えていた。

 何事かと、三珠が左右を見回していると、自分の背後に忍び寄る気配を感じ取る。しかし遅かった、背後から迫った何者かの両手は三珠の腋の下を通り、自分の背中に柔らかい脂肪の塊を押し当ててくる。

 幻術で自らの幻影を生み出したリーシャは、三珠の背後に回り込んだのだ。幻術を使うなんて反則である。見事に相手を出し抜いたリーシャは、三珠の下着の隙間に指を入れ込み、卑猥な手つきで胸を揉む。


「はひゃあ! やめっ――」

「あれ、三珠って意外と着やせするタイプ? ほれほれえ、ここがええのかあ?」

「ダメッ、くすぐったい。らめえ!」


 必死にむず痒さを堪え、三珠は呂律が回らなくなる。

 相手の反応が面白かったのか、リーシャはもう片方の手で三珠の股の付け根を擽り、以前の仕返しだと言わんばかりに、悪ふざけを加速させていく。


「こ、の――いい加減にして!」


 負けてなるものかと三珠はリーシャに飛び掛かり、攻守を逆転させて、水に濡れて毛の張り付いた尻尾に抱きついた。

 感無量である、ずっと触りたくはあったのだ。尻尾のふさふさ感は濡れたせいで無くなっていたものの、リーシャの体温でほんのりと温かかった。


「三珠、どこ触ってんの!」

「うるさい! 先に仕掛けてきたのはそっちでしょ! もう手加減しないから!」

「ちょ、こら! やめろし、尻尾弱いかりゃああああ!」


 じたばたともがくリーシャの尻尾を抱きしめ、離してやるものかと彼女の毛並みに頬を押し当て、三珠はほっこりと充足した表情になる。二人のくだらない戯れ合いを眺め、ピスカは頬を綻ばす。


「お二人は、やっぱり仲がいいですね」

「あら、私とピスティリカもなかなかでしょ? お姉さんは異論を認めないぞお」

 

 ぷかあと水に浮き、全身の力を抜いたユリア。彼女の双丘はまるで水に浮いた二つの風船みたいに、ピスカの前を横切った。

 一方のピスカは自分の胸板をペタペタ触り、格差社会の不条理を嘆きつつ、それでもこれが自分のアイデンティティだと開き直るように、ぐっと拳を握る。やがて疲れた三珠がピスカの隣に戻り、


「はあ、堪能したあ……」

「お疲れ様です、三珠姉さま」


 水面と陸地の境にある岩壁に背中を預け、ピスカに労われた三珠は、地底湖の近くに張った三つのテントを振り返る。体も綺麗な水で洗うことができたし、そろそろ着替えに戻るべきかもしれない。

 地底湖の水に癒しの効力でもあったのか、汗でべた付いていた肌も滑々になった気もして、野外での宿泊にしては贅沢をした思いだった。


「リフォルシア、大丈夫なの?」

「あうう……何とか……」


 三珠に散々尻尾を弄ばれたリーシャは、ぶくぶくと気泡を口から吹き出し、力なく湖面を漂っていた。彼女はユリアに救助され、陸に上がっていく。

 全員が全員、下着が水を吸い込んでしまい、肌の色が透けるくらいに張り付く。もうびしょびしょだ。ユリアとリーシャはブラ紐を引っ張って整え、ピスカはお尻に食いこんだパンツを直していた。


「三珠姉さま、私たちも着替えに戻りますか?」

「そうだね、そうしようか?」


 水中に潜りこみ、水底を蹴った勢いで体を持ち上げたピスカに続き、三珠も地底湖を出ようとしたのだが、不意に水の流れに足を取られてよろめく。

 と、三珠は近場にあった岩に抱きついたつもりだったが、ふにゃりとした海鼠なまこのような冷たい手触りに、三珠は違和感を覚える。

 何かあったのだろうか。夜光石の明かりが微妙に届かない場所で、周りは薄暗く、柔らかい物体の全容を把握できない。その物体は地下水の流れに運ばれ、唐突に現れたような気さえした。


「三珠姉さま、どうしました?」

「いや、何かに触ったみたいで。ピスカちゃんからは見える?」

「よくわかりませんね、暗いです」

「じゃあ、お姉さんが光源を作ってあげましょうか?」


 ユリアが魔術で作り上げた光球が、三珠の頭上まで飛び、暗闇を照らしてくれる。すると、三珠の抱きついた物体の正体が判明した。

 青白い肌をもつ少女である。死人のように生気のない顔つきだが、小顔の造形は整っていて、悪魔のような羽が腰に生えた女の子だった。

 ボディバランスもよい少女で、彼女は頭を地底湖の岸に引っかけ、地下水の流れに逆らうように、ゆらゆらと湖面に浮いていた。

 三珠は彼女の形のよい胸を鷲掴みにして、体に覆い被さっていたが、しかし乙女の寝込みを襲うような体勢よりも、自分の恐怖が上回る。


「えっ? 女の子……」

「女の子ですね」


 ありのままを告げたピスカが、三珠に同意する。


「三珠、どうすんの?」

「お姉さんは、助けた方がいいと思うなあ」

「で、でも! この子の心臓の音、聞こえないんだけどおおおおおおおおおお!」


 呑気に三珠を見守る三人に反し、仰天した少女の絶叫が鍾乳洞に響き渡る。

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