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遥か永劫の敗北神  作者: 輪叛 宙
第二部:屍の王国編 在りし日の望郷の都
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第二話:多眼族の尾行者

「はい、一枚頂いたッスよ?」


 そう言って、カメラのフラッシュをたいたのは、額に3つ目の瞳を持つ女だった。暗闇でも目立つ真紅の赤毛に、インテリ風なメガネをかけた女は、悪霊種の多眼族だろう。多眼族は双眸の他に、もう1つ余分に目をもつ種族だ。

 第三の目(サードアイ)は内なる目が実体化されたものとされ、脳の松果体がつかさどるチャクラであり、多眼族が額の目を開眼すると、直感力がさえわたり、読唇術や脳内で未来予測を行えるという話だが、フェレスも多眼族ではないし、その噂が本当なのか、そして第三の目を開眼した時はどのような感覚なのだとか、多眼族の詳しい事情を知る術はない。

 

「んー、でも――ちょおっと、表情硬いッスねえ」


 勝手に人の写真を撮っておいて、女は不満を口にする。

 不意打ちしてきたのは彼女のはずだ。いい写真を撮りたければ、まず相手に了承を得ろ。

 そう言いたくはあったが、気抜けしたフェレスに反論する意欲はなくなり、面倒そうな女とは関わらないようにしようと踵を返す。だが、連れの三人娘は写真写りを気にしたのか、


「あっ、ほんとだ。ちょっとぶれてるかも……」

「あたしはもうちょっとイケてる感じで、お願いしたかったんだけど」

「なんか恥ずかしいですね。人に写真を撮られるのは」

『(うん。みんな、可愛い――でもスィア、写ってない)』


 三人娘は怪しげな女の後ろからカメラを覗き込み、撮った写真を確認するためのホログラムを眺め、それぞれの感想を口にする。


 この世界のカメラは地属性と光属性の魔素結晶ほうせきが使われている。

 地属性魔術で発生した鏡面に物質を反射した光を取り込み、それをカメラ内の映像ひかりを保存する魔術回路に焼き付け、写真を撮るのだ。

 ズーム機能を使えば、特定位置の光のみを複写して景色の映像を抜き出せる上、撮影した写真は光魔術により、ホログラム化して確かめられるらしい。

 暗い場所では自動でフラッシュがたかれ、物体に反射したフラッシュの光にもとに、映像を記録・保存する記者ならば、常備すべき備品の1つだった。


「お前ら、警戒心なさすぎないか?」


 同性ということもあるのだろうが、初対面の――それも自分たちを尾行していたような女に近づくとは、彼女らは何を考えてしたのか。

 確かに一般人っぽい女性で、戦場カメラマンのような服装をしているから、どこかの報道会社に勤めるカメラマンなのかもしれない。実際、多眼族の女性はジャーナリストだったらしく――


「おっと、自己紹介が遅れたッスね。自分はカトレア・ホルステッジって言います。これでも、アベントゥーラ時報の新米記者ッスよ?」

「あの新聞会社か? そこの社員がなんで俺たちをつけ回してたんだよ」

「いやいや、しらばくれないでくださいよ。仲介屋の会員である放浪者、フェレス=エディーダを筆頭に、教団の見習い神官ピスティリカ・ラルデンバーク、オロスの件でさらに神童という噂が広がった傭兵会社のリフォルシア・ミーゼンフェルシェ。そして、その3名を裏から操った少女の見た目をした大賢者、オロスの一件を解決に導いた功労者って話じゃないッスか?」


 パラパラパラと、カトレアと名乗った新聞記者はメモ帳をページをおくり、そこに書かれた文字を読み上げると、「どうッスか?」と自信満々にでかい顔をする。

 新米という話だが、随分と情報の早い新聞記者だった。

 凄腕なのか、それとも偶然に聞き込みがうまく行ったのか、どちらにせよ、教団に属する神官の反逆という注目を集める事件に関わったのだから、カトレアのような輩に嗅ぎつけられるとは予想していたが、別の大陸まで追いかけてくるような、情熱的なジャーナリストがいるとは思わなかった。

 だが、フェレスよりも動揺していたのが三珠である。


「えっ、なにそれ? 私が悪の親玉みたいになってない?」

「違うんッスか。そういえば、聞いた性格と違うような……」


 勘の鋭いカトレアは、三珠を訝しげに観察する。

 これはまずいかもしれない。三珠の素性がばれてしまうかもしれないし、〝異世界の民〟だと勘付かれては厄介だ。

 そう思考をめぐらすように、三珠はたらたらと冷や汗を流し、引き攣った愛想笑いを浮かべる。

 やがて覚悟を決めたのか、三珠は強者を装う演技をするため、カトレアの正面に立つと、帽子を深く被り直して彼女を見下すような目をした。


「まさか、わらわの擬態を見破るものがいたとはな(ああもう! こうなったらやけだ、痛い子みたいな私を見せてやる!)」

「――なっ! それが本性ッスか!」

「無論よ、下々の者に合わせてやっていたのだ(スィア、お願い)」

『(うん、三珠のお願いならね。スィア、協力するよ)』


 ふん、と鼻を鳴らし、火球を手元に出現させた三珠は、命を握り潰すみたいに火の玉を掴み、カトレアの目の前で火の粉を散らす。

 

「あまり詮索するでない。わらわは寛大だが、一歩言葉を選び間違えれば、お主の命も今の火球の如く潰えるぞ? (熱い、熱い! 手、すごく熱いし、痛い!)」

「お、脅すつもりッスか?」

「そうではない、わらわは忍びの旅をしておるのだ。貴様も知っておろう、わらわのような賢者は、少数のものと行動しておる。深追いされるのは嫌いなのだ(お願い、騙されて!)」

「確かに――そう言われると、説得力あるッスね」


 むむむ、と考え込むような仕草をして、カトレアは眉間をつついてカメラを下ろす。

 リーシャは「こいつ、大丈夫なんだろうか」と言うみたいな顔をして、ピスカは「三珠姉さま、カッコいいです」と間違った尊敬の眼差しを向けてきた。

 さらに、道行く人が何事かとチラ見してくるから、それもきつい。

 普通に都市内を歩いている人には、記者にインタビューされて舞い上がり、三珠が調子に乗った痛い子と認識されているだけだろうし、羞恥心は膨れ上がるばかりだ。

 

(お願い、そんな目で私を見ないで)


 三珠は表面をよくしつつ、仲間からの熱い視線に心の中で涙を流す。

 一方のフェレスは白けた様子で、少女と新米記者を眺めていた。


「アホの会話だな」


 このままカトレアに付き合っていると、宿屋のチェックイン時間に間に合わないかもしれないし、金があるのに都市内で野宿する破目になるのはごめんだ。

 フェレスは手早く退散するために、三珠に助け船を出す。

 

「つまり、そちらとしては俺たちにインタビューするためだけに尾行したのか?」

「ああいえ、ちょいと違います。自分の目的地がニフタの支部で、偶然にそちらさんと行き先が被っていたみたいなんで、この機会にお近づきになれればなあと思っただけッスよ? 来週の週刊叙事クローズド・ヒストリーのいいネタになりそうじゃないッスか?」

「特ダネ狙いかよ」

「そうッスよ? 『オロスの事件の影!? 暗躍した少女達!』、この見出しは売れるッスね。ぶっちゃけ、フェレス氏はいらない感じです」

「おい、遠まわしに喧嘩売ってんのか?」

「ああ、いやいや――ほら、こういうのは女性にスポット当てた方が受けがいいんッスよ? ……自分も早く名を上げて、ゆくゆくは独立しないとね」


 ふふ、と燃え滾る野心を胸の内に秘めたようにほくそ笑み、カトレアはカメラを握りしめる。

 どうやら軽薄な態度は相手の態度を軟化させるためのダミーで、そちらが彼女の本性のようだ。

 向上心と仕事への野望があるのは若者らしくて結構だが、カトレアの株を上げるために、フェレスたちが協力してやる義理もない。


「残念だが、取材はNGだ。他を当たれ」

「な、何でッスか!? そこは減るものじゃないでしょうに、自分に協力してほしいッス。主に自分の出世のために!」

「おい、本性漏れてんぞ! 尚更拒否だ、こっちは旅の身だからな」


 週刊叙事にのってしまい、三珠の名が知れてしまうのは、余計な面倒事を引き寄せる原因にしかならない。それに、フェレスが呪術師であることがばれてしまうリスクもある。

 都市に入るなり、問答無用で独房にぶち込まれるのは勘弁だ。

 フェレスが「急ぐぞ」と呼びかけると、リーシャは「は~い」とノリノリで自分の隣に並び、三珠とピスカはカトレアに会釈をして、宿屋を目指し始める。


「ちょ、ちょいと待ってくださいッス! 取材は諦めることにするッスけど、ニフタに入る前に仕入れたこの街の噂、聞きたくありませんか?」

「なんだよ、この街に変な事でもあったのか?」

「おっと、聞きたいんですか? やっぱ聞きたいんッスよね、この敏腕記者の仕事っぷりを! いやあ、自分の凄腕っぷりがもう!」

「ああ、やっぱりいい。先に行く」

「わ、わわ! ごめんッス、調子に乗ったんで勘弁してください! ただ誰かに話したたいだけなんッスよ! こういう仕事やってるんで、情報通っぽくことしたいの! 発信するのは記者の喜びだからあ!」

「わかった、わかった、だから泣きつくな、厚かましい」


 懇願するように膝をつき、服を引っ張ってフェレスの足を止め、カトレアはある噂話を口にした。

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