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遥か永劫の敗北神  作者: 輪叛 宙
第二部:屍の王国編 在りし日の望郷の都
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第一話:夜の大陸

第二部開始します

 そこは夜の大陸ニフタの沿岸部にある都市だった。

 この港町の名はエルデフィース港――闇中の都市を見渡すように、立派な石垣の上には港国の指導者が住まう古城があり、暗闇の海は不気味に波打って、ざあざあと都市南部の波止場に打ち付けられる。

 大気中に闇属性魔素が多く含まれ、その魔素の性質に光を遮る効果があるためか、闇の大陸ニフタは昼も夜も常闇に覆われているらしい。

 闇の大陸ニフタはかつて暗君と呼ばれた王が拠点とし、全世界に宣戦布告をした地であり、1000年前より以前は群雄割拠の戦国時代だったらしく、それを平定したのが、後に暗君と侮蔑される〝異界の民(アンヴァイスール)〟だった。

 天才軍師としてほまれを受け、当時に救国の英雄とまで謳われた〝異界の民〝は、瞬く間に隣接する国を属国化させ、自分の属した国の世継ぎ問題で策謀をめぐらすと、旧国王派を一掃して自らが国の指導者となり、帝国の地盤を築きあげたが、ともあれそれも1000年前の話であった。


 現在のニフタは暗君への反乱軍の指揮をとった元暗君幹部の血族が、諸国を統べる帝王となり、朝廷をマルツィミア帝国として、各属国にそれぞれの指導者おうが健在という変わった大陸でもあった。

 そのような国家体制だからなのか、貴族制というものがなく、国の指導者は大陸全土の支配者である皇帝と、各小国家の支配者である国王に分類されている。

 国政は各国の王が行うが、属国となる王家は忠義立てとして、年に1度の行われる献上の儀で、大陸の支配者である皇帝に貢ぎ物を納めなければいけない。

 1つの大陸に国が多いため、皇帝に取り入る目的や条件のよい国と関係を持とうとする指導者も多く、また優秀な人材が他国に引き抜かれないようにするために、血縁者の政略結婚は頻発しているとも聞く。

 歴史的な背景もあり、ニフタは悪霊種の人口が多いという話だ。


 そんな小話を聞きながら、天津三珠あまつみたまは常時街灯に照らされる港町の歩道を歩き、「ずっと夜だとどれくらいの電気量がかかるかな」なんて想像しつつ、けれど街灯の原動力が光属性魔素結晶のセレナイトであると聞き、「やはり私のいた世界の常識に当てはめるのも野暮か」と考え直す。


「あの、暗くはありませんか? よろしければ、私が光魔術で光球を作ってもよいのですが……?」


 そう三珠の顔色を窺うように言ったのは、褐色肌をもつエルフ族の少女、ピスティリカ・ラルデンバークだった。彼女は線の細い金髪のサイドテールを揺らし、その澄んだ薄緑色の瞳に三珠を映す。

 オロスの一件で三珠の妹分みたいになったピスカは、あれやこれやと気を遣ってくれている。彼女が元奴隷で今でこそ見習い神官をやっているが、奉仕癖が抜けていないのかもしれない。

 少し自己主張の弱い少女だが、ピスカがいい子なのは間違いなく、三珠は「大丈夫」と笑って、彼女を小間使いみたいには扱わないように心がけている。


「あっ! あんた、帽子ずれてるわよ?」


 不意に三珠を呼び止め、帽子を整えてくれたのはリフォルシア・ミーゼンフェルシェ――小麦色の短い髪と狐の耳、もふもふした毛の柔らかそうな尻尾を持つ獣人種の狐族で、リーシャは「しっかりしてよね?」と少しユルい性格の三珠を指摘した。世話焼きで仲間思いの少女である。

 黄色に輝く瞳は綺麗で、大きな胸からふくらんだお尻までのくびれはすっきりしていて、露出度の高い服を着た彼女はよくも悪くも派手な若者といった雰囲気だ。

大の動物好きである三珠としては、抱きついて尻尾を揉みしだきたいという衝動を常に感じているが、獣人種の獣の部位に触れるのはセクハラ行為らしく、リーシャは緊急時に動物的本能で察知し、三珠から距離を取ることも多い。

 

「ニフタはずっと夜だから黒髪も目立たないけど、厄介事に巻き込まれて困るのはあんたっしょ?」

「まあ、そうなんだけどね。ありがとう、リーシャ。心配してくれたんだよね?」

「は、はあ!? べ、別にあんたのことはどうでもいいし――ってか、先輩の手を煩わせないように、あたしは良妻アピールしてんの!」

「リーシャ姉さま、それは苦しいような気がします」

「何よ、ピスカ? あの日以来、ちょっと生意気になってない?」

「ひゃめ……ひたいです、リーヒャ姉ひゃま」


 もちもちな頬をつねられ、瞳に涙の粒を浮かべたピスカは変顔を作り、それでも嬉しそうにリーシャは仲良く戯れる。

 山岳都市の大災害を経て多くのものを失い、そして各々の後悔と向き合って、3人は決意を新たに一歩踏み出したのだ。過去との決別を果たし、新しい世界に順応しようと努力する三珠としては、2人の友人は心の支えだった。

 

『(3人とも仲良し。スィアね、とっても嬉しいよ)』


 そう3人の脳内に語りかけてきたのは、三珠がリュックに背負う自我のある魔導書、スィアである。「魔導書が喋るのは目立ってしまう」ということで、普段の彼女は三珠のリュックの中に潜りこみ、魔導書に記された念話の効果がある古の魔法(ロスト・マギア)を駆使し、4人目の少女ほんは会話に混ざった。そんな感じに女性陣だけで乳繰り合っていると――


「おい、お前ら。早く宿を探すぞ? そうじゃないと日が暮れちまう」

「日が暮れるって……この大陸、ずっと夜みたいなものじゃないかな?」

「それはそうだが、時間が無くなったわけじゃない。宿にもチェックインの時間ってやつがあるんだよ」


 短い白髪をぼりぼりと掻き、三珠たちの引率者であるフェレス=エディーダは真っ黒な上空を見上げた。星もなければ月もない。

 そもそも時刻的に言えば、まだ夕刻であり、吸い込まれるように黒く深い闇の空に面白みはなく、街灯の明かりを映すレンガ造りのカラフルな軒並みと、まるで木漏れ日のような民家の明かり、そして道行く人が手に持つ懐中電灯や灯り火の魔術が、地上の星の如くに暗闇の世界に色を与える。

 

 フェレスが次の滞在先にニフタの都市を選んだのは、飛空艇内での情報収集の際に、仲介屋の会員に負傷者が頻発し、人手が足りていないと聞いたからだ。依頼の供給過多ともなれば、おいしい仕事を請け負える可能性も高くなるし、フェレスとしては願ってもない収益のチャンスなのだった。


 飛空艇から旅行船に乗り継ぐ際に、魔導書のスィアを除く3人に昼食を驕り、ニフタの港町に到着したのが、今日の夕刻前だった。

 光がない世界という特殊な環境であり、夜間戦闘の訓練にもなるだろうし、少女たちに実戦経験を積ますにはもってこいの環境でもある。

 やはり同行者の人数が増えれば増えるほど、必要経費や旅費も増えてしまうわけで、巡礼教徒の護衛役という仕事のおかげで教団からの支援金はあるものの、それだけで養っていくには心もとない。


 神官見習いのピスカや傭兵会社に属するリーシャは、関係会社の後ろ盾と一定以上の技術レベルが評価され、仲介屋の会員に無条件で登録してもらえるが、フェレスと同じように放浪者の立場にある三珠は、別途で入会試験を受ける必要がある。

 旅人の女と共に過ごした経験が活き、フェレスは容易に入会試験を突破できたが、仲介屋の入会試験には雑学試験と実技試験の双方があり、異世界から来たばかりの三珠には、そのあたりの経験が絶望的に足りないだろう。


 後々は三珠にも一人前の従業員として、企業雑務くらいは1人でこなせるようになって貰わないと金銭的に困るから、今はそのための育成期間だ。

 ピスカやリーシャ、そしてフェレスとの旅で色々なことを学んでもらわなければいけないが、三珠も向上心に満ちた娘であり、アベントゥーラの文化に順応しようとしているので、フェレスも先行投資としては悪くないと感じている。


 と、今後のプランを考えるフェレスだが、旅行船から港に下りた瞬間から――いや、それよりも前から自分たちを尾行する気配には気づいていた。「お前もおかしいと思うか?」とリーシャに視線を送ったところ、彼女が肯定するように頷いたから、獣人種の優れた動物的感覚を信じ、フェレスは個人宅の敷地を囲う塀の影に視線を向け、威嚇することにする。


「おい、そろそろ出てくる気はないか? こっちとしても、付けられるのは迷惑だ。何の目的で、俺たちを尾行した?」 


 フェレスは腰に携えた銃剣を引き抜き、民家の塀の影へと刀身を向ける。長銃形態にしているが、鍔のシリンダーに魔術弾は装填していないから、魔術が発動することはない。だが、追跡者へのアクションとしては十分に役立つだろう。

 すると、民家の影から特に武装もしてない女が現れ、


「いやあ、まった、待ったッス。自分、怪しいものじゃないんで、そんな脅されたら、マジでちびっちゃうッスよ?」


 そんな緊張感の欠片もなく、軽薄な喋り方をする女が懐に手を忍ばせると、彼女はニヤリと笑い、眩い光がフェレスたちを襲う。

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