表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遥か永劫の敗北神  作者: 輪叛 宙
第一部:オロス編 そして負け犬は少女と出会う
11/495

第七話:武器屋の大男《オーク》

 フェレスが入店したのは行きつけの武器屋だった。剣や斧、棍棒などの武器がウェポンラックに立てられ、店内の商品棚には兜や折りたたまれたアンダーなどが置かれて、壁には銃器が掛けられている。

 鎧を装着したマネキンもあり、何とも鉄くさい店だ。カウンターは透明なショーケースで作られていて、色とりどりの魔素結晶がはめ込まれた装飾品も納められていた。


「客か……よく来た……」


 カウンターには緑色の肌をした巨漢が仁王立ちしている。下あごが太く、下から突き出した2本の巨大な歯が印象的だ。頭部は思い切りのいいスキンヘッドで、目を隠すサングラスが妙に高圧的だった。

 身長は二〇〇センチメートルを超え、筋肉の張ったムキムキな体躯で、ぴっちりと肌に張り付いたシャツが破けそうな、悪霊種のオーク族である。

 オーク族は死の国(オルキヌス)の戦士とも言われ、死した精霊種を暗君が強制的に復活させ、好戦的な性格に反転させた種族だった。


 悪霊種は千年前に名付けられた新種族である。正確には暗君に与した元精霊種も含まれるが、悪しき王が生み出した魔族逹に習い、悪霊種と分類されるようになる。

 

 かつて魔王と呼ばれた悪辣なる異世界人が、捕えた精霊族に洗脳処理と魔素との融合実験を行い、その性質を反転させて自らの私兵として戦争の道具にした。

 一部には洗脳が解けた兵士もいて、彼らは魔王への反乱軍の味方に加わり、そうして悪霊種は反乱軍に受け入れられ、各都市に受け入れられる。

 未だに二種族原理主義を提唱し、彼らを迫害する者もいるが、それはあくまで少数勢力であり、国が彼らの人権を保障したのだから、その発言力も弱い。


 オークの巨漢は押し黙り、じっとフェレスを見つめる。一方のフェレスは彼を見上げ、カウンターのショーケースに手をついた。


「ガウス、魔術弾の追加を頼めるか? 属性系が良いんだが?」

「どの……属性がいい……?」

「そうだな、各属性のバレットを二〇発ずつかな?」

「火と水……風と地、だな……タイプは、どうする……?」

「火と水は発射型を頼む。風と土はエンチャント型かな?」

「うむ……わかった。用意、しよう……」


 ガウスという名のオークの男は頷き、カウンターの奥に入っていく。店の在庫を確認しに知ったのだろうが、相も変わらず寡黙な男だった。

 彼が戻るまで、フェレスはショーケースに入った装飾品を観察していると、恐る恐るといった様子で、三珠が隣に並らぶ。


「あのう、フェレスさん。今の人とは知り合いなの?」

「ああ、この街ではかなり世話になってる武器商人だよ」

「なんというか、怖い人でしたね」

「そうか? まあ、あいつは恥ずかしがり屋だからな」

「シャ、シャイなの? あの見た目で?」

「そうそう。だから、勘違いされやすいんだよ」


 けらけらと笑うフェレス。男の口下手に需要はないだろう、とフェレスは茶化す。呆れなのか、困惑しているのか、三珠は顔を引き攣らせ、眉根を下げた。

 と、ガウスが店の奥から戻り――


「余計なこと、言うな……怒るぞ……?」

「別にいいだろう? お前、若い女が入ってきたから、テンパってるんだろ?」

「品は……これだ……」


 ドン! と、ショーケースにひびが入らないか心配になるくらいの勢いで、ガウスは魔術弾の入った弾丸のケースを置く。その音によほど驚いたのか、きゃっ、と三珠が声を上げて驚く。

 黄色い悲鳴に慣れないガウスは、真っ黒なサングラスで三珠を流し見る。身長二〇〇センチ越えの偉丈夫に睨まれ、びくびくと三珠は震えて目を瞑った。

 怯える少女に罪悪感を感じたのだろう。ガウスは不器用に謝る。


「すまない……脅すつもりは、なかった……」

「ああ、いえ――こちらこそ、勝手に怖がってごめんなさい」


 頑張って笑顔を作り、三珠はガウスを励ます。ガウスは俯き、少し照れているようだった。


「どんなギャップ男だよ。気持ち悪いぞ、ガウス?」

「貴様は……黙れ……」

「悪かった、悪かった。昔馴染みのよしみで許してくれ」


 バレットケースをリュックに入れつつ、フェレスはガウスをからかった。流石にガウスも我慢の限界だったのだろう。彼は指の関節を鳴らし、クラッキングをし始める。


「ちょ、ちょちょっ、そこまで! ガウスさん、落ち着いて! フェレスさんも、相手を怒らすようなことは言わない!」


 一触即発の緊張感に、三珠が二人を宥める。

 少女の仲裁により、子供のような大人たちは喧嘩を中断した。


「まあ……いいだろう。フェレス……他に、用事はないか……?」

「そうだな。こいつの調整を頼む」

「銃剣か……いつ見ても、古いモデルだな……」

「もうだいぶ前に、銃剣は絶版されたからな」

「ふん。銃を撃ちたければ……銃でいい……」

「剣を使いたければ剣でいい、だったか? これの開発中止の理由」


 フェレスは自分の銃剣を見せびらかし、茶化すように言う。

 一方、ガウスは武器商人らしく語りだした。


「流行らなかった……からな。俺も……在庫を抱えた……」

「それで結局、分解して部品だけ有効活用したわけだ」

「今更、それを使うのは……貴様のような、物好きだけだ……」

「だから、こうやって調整できる鍛冶屋に通ってるんじゃないか?」

「ふん。そうだな……俺も、技術を持て余していた所だ……」


 腕が鳴る、と言いたげに、ガウスはフェレスから銃剣を受け取る。

 そしてガウスは三珠を見つめ、訝しげに首を傾げた。


「しかし、その娘は……何の防護も、持たないのだな……」

「ああ、フィールドの方で拾ったからな」

「ソロか……その年では、珍しい……」

「だから、俺が助けるはめになったんだろう?」

「……だろうな」


 ガウスは深く切りこまず、フェレスに頷く。気が回るようで助かる。わざわざ説明するのは面倒なのだ。通じ合う二人をよそに、三珠だけが聞きなれない単語に困惑しているようだった。

 彼女は口を開き、二人に質問する。


「あの、フィールドって何?」

「んん? 知らない……のか……?」

「ああ、記憶喪失らしいからな。そういう設定だ」

「ふん。訳あり、か……なら、教えておけ。俺は……用意、しよう」


 意思疎通は済んだとばかりに、ガウスは再度店の奥に行く。

 フェレスは三珠に向き直り、少女へ解説した。


「フィールドってのは、その都市の経済区域のことだ。細かく言えば、この都市の周囲はエレーミア大陸南西、オロスフィールドエリアって言われんのさ」

「だから、フィールドなんですね?」

「そう。冒険者界隈で同じフィールドエリアにいた場合、依頼の効率化のために、外で手を組むこともあるから、わかりやすくそう言われるようになった」

「へえ、色々なんですね」


 三珠が感心していると、店の奥からメジャーを持ったガウスが戻り、彼は三珠の前に立ち、どっしりと構える。大男がいきなり前に立ったのだ。さぞ、三珠は狼狽したことだろう。

 ガウスを見上げ、呆気にとられる三珠の心情はよくわかった。


「手を……出せ……」

「えっ? なんですか?」

「いいから……出せ……」

 

 黒光りしたサングラスに威圧され、はい! と怯えるように声を上げた三珠は、ぴんと背筋を伸ばす。緊張しているのが丸わかりだ。少女は大男に言われるがまま、右手を伸ばしていた。

 ガウスは三珠の手首にメジャーを巻き、彼女の肌を擦る。


「細い、な……」

「えっ? はあ……」

「すべすべだ……」

「あっ、どうも。ありがとう、ございます?」


 淡々と感想を述べるガウスの意図が読めなかったようで、三珠と彼の会話はかみ合っていない。まったく、どれだけ不器用なのか。見ているだけでもどかしい。

 見かねたフェレスは、ガウスの親切心を代弁する。


「そいつ、三珠に防護系のバングルを作ってくれるつもりだぞ?」

「えっ? そうなんですか?」

「ああ……その、つもりだ……」


 口ごもりつつ、ガウスが言う。フェレスはショーケース内の装飾品を指さした。


「装飾品には魔術に対する耐性や、物理防護系の結界を張る効果がある。フィールドをうろうろするなら、心強い味方だ。鎧なんかも使われるが、最近は防護魔術を組み込んだバングルの方が流行ってる」

「鎧は……重い、からな。それに、バングルは……カスタム製がある」

「バングルに複数の魔素結晶がはめ込めるが、その宝石の種類で魔術結界の効果が変化するんだ。宝石の付け外しもできて、おまけに見た目もいいから、女にはかなり人気なんだぞ?」

「最近はオーダーメイドの……依頼も多い……」


 三珠の手首の採寸を終え、よくわかった、とガウスはメジャーを離す。

 

「銃剣の調整と、バングルの完成は……明日に、なる。それで……いいか……?」

「ああ、構わない。明日の午前中、仲介屋ギルドに届けてくれ」

「わかった。伝表は……受付に、渡して……おく。手数料は……もらうぞ……?」


 もう用事は終わったという風に、ガウスは背を向ける。

 が、フェレスは捨て台詞を残すように――


「しかし、採寸の時は傑作だったな。大の男が小娘ガキ相手に、何を緊張してるんだよ。どんだけ女が苦手なんだ、純情少年な大男のガウス君?」

「やはり、貴様は死ぬか……?」


 皮肉屋のフェレスから挑発を受け、ガウスは腕の筋肉に青筋を立て、どっしりと構えた武器屋の男は数秒間、フェレスと向き合う。男たちの睨み合いを遠巻きに眺め、二人の喧嘩は仲がいい証拠なのかもしれないな、と三珠は思い直していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ