第七話:武器屋の大男《オーク》
フェレスが入店したのは行きつけの武器屋だった。剣や斧、棍棒などの武器がウェポンラックに立てられ、店内の商品棚には兜や折りたたまれたアンダーなどが置かれて、壁には銃器が掛けられている。
鎧を装着したマネキンもあり、何とも鉄くさい店だ。カウンターは透明なショーケースで作られていて、色とりどりの魔素結晶がはめ込まれた装飾品も納められていた。
「客か……よく来た……」
カウンターには緑色の肌をした巨漢が仁王立ちしている。下あごが太く、下から突き出した2本の巨大な歯が印象的だ。頭部は思い切りのいいスキンヘッドで、目を隠すサングラスが妙に高圧的だった。
身長は二〇〇センチメートルを超え、筋肉の張ったムキムキな体躯で、ぴっちりと肌に張り付いたシャツが破けそうな、悪霊種のオーク族である。
オーク族は死の国の戦士とも言われ、死した精霊種を暗君が強制的に復活させ、好戦的な性格に反転させた種族だった。
悪霊種は千年前に名付けられた新種族である。正確には暗君に与した元精霊種も含まれるが、悪しき王が生み出した魔族逹に習い、悪霊種と分類されるようになる。
かつて魔王と呼ばれた悪辣なる異世界人が、捕えた精霊族に洗脳処理と魔素との融合実験を行い、その性質を反転させて自らの私兵として戦争の道具にした。
一部には洗脳が解けた兵士もいて、彼らは魔王への反乱軍の味方に加わり、そうして悪霊種は反乱軍に受け入れられ、各都市に受け入れられる。
未だに二種族原理主義を提唱し、彼らを迫害する者もいるが、それはあくまで少数勢力であり、国が彼らの人権を保障したのだから、その発言力も弱い。
オークの巨漢は押し黙り、じっとフェレスを見つめる。一方のフェレスは彼を見上げ、カウンターのショーケースに手をついた。
「ガウス、魔術弾の追加を頼めるか? 属性系が良いんだが?」
「どの……属性がいい……?」
「そうだな、各属性のバレットを二〇発ずつかな?」
「火と水……風と地、だな……タイプは、どうする……?」
「火と水は発射型を頼む。風と土はエンチャント型かな?」
「うむ……わかった。用意、しよう……」
ガウスという名のオークの男は頷き、カウンターの奥に入っていく。店の在庫を確認しに知ったのだろうが、相も変わらず寡黙な男だった。
彼が戻るまで、フェレスはショーケースに入った装飾品を観察していると、恐る恐るといった様子で、三珠が隣に並らぶ。
「あのう、フェレスさん。今の人とは知り合いなの?」
「ああ、この街ではかなり世話になってる武器商人だよ」
「なんというか、怖い人でしたね」
「そうか? まあ、あいつは恥ずかしがり屋だからな」
「シャ、シャイなの? あの見た目で?」
「そうそう。だから、勘違いされやすいんだよ」
けらけらと笑うフェレス。男の口下手に需要はないだろう、とフェレスは茶化す。呆れなのか、困惑しているのか、三珠は顔を引き攣らせ、眉根を下げた。
と、ガウスが店の奥から戻り――
「余計なこと、言うな……怒るぞ……?」
「別にいいだろう? お前、若い女が入ってきたから、テンパってるんだろ?」
「品は……これだ……」
ドン! と、ショーケースにひびが入らないか心配になるくらいの勢いで、ガウスは魔術弾の入った弾丸のケースを置く。その音によほど驚いたのか、きゃっ、と三珠が声を上げて驚く。
黄色い悲鳴に慣れないガウスは、真っ黒なサングラスで三珠を流し見る。身長二〇〇センチ越えの偉丈夫に睨まれ、びくびくと三珠は震えて目を瞑った。
怯える少女に罪悪感を感じたのだろう。ガウスは不器用に謝る。
「すまない……脅すつもりは、なかった……」
「ああ、いえ――こちらこそ、勝手に怖がってごめんなさい」
頑張って笑顔を作り、三珠はガウスを励ます。ガウスは俯き、少し照れているようだった。
「どんなギャップ男だよ。気持ち悪いぞ、ガウス?」
「貴様は……黙れ……」
「悪かった、悪かった。昔馴染みのよしみで許してくれ」
バレットケースをリュックに入れつつ、フェレスはガウスをからかった。流石にガウスも我慢の限界だったのだろう。彼は指の関節を鳴らし、クラッキングをし始める。
「ちょ、ちょちょっ、そこまで! ガウスさん、落ち着いて! フェレスさんも、相手を怒らすようなことは言わない!」
一触即発の緊張感に、三珠が二人を宥める。
少女の仲裁により、子供のような大人たちは喧嘩を中断した。
「まあ……いいだろう。フェレス……他に、用事はないか……?」
「そうだな。こいつの調整を頼む」
「銃剣か……いつ見ても、古いモデルだな……」
「もうだいぶ前に、銃剣は絶版されたからな」
「ふん。銃を撃ちたければ……銃でいい……」
「剣を使いたければ剣でいい、だったか? これの開発中止の理由」
フェレスは自分の銃剣を見せびらかし、茶化すように言う。
一方、ガウスは武器商人らしく語りだした。
「流行らなかった……からな。俺も……在庫を抱えた……」
「それで結局、分解して部品だけ有効活用したわけだ」
「今更、それを使うのは……貴様のような、物好きだけだ……」
「だから、こうやって調整できる鍛冶屋に通ってるんじゃないか?」
「ふん。そうだな……俺も、技術を持て余していた所だ……」
腕が鳴る、と言いたげに、ガウスはフェレスから銃剣を受け取る。
そしてガウスは三珠を見つめ、訝しげに首を傾げた。
「しかし、その娘は……何の防護も、持たないのだな……」
「ああ、フィールドの方で拾ったからな」
「ソロか……その年では、珍しい……」
「だから、俺が助けるはめになったんだろう?」
「……だろうな」
ガウスは深く切りこまず、フェレスに頷く。気が回るようで助かる。わざわざ説明するのは面倒なのだ。通じ合う二人をよそに、三珠だけが聞きなれない単語に困惑しているようだった。
彼女は口を開き、二人に質問する。
「あの、フィールドって何?」
「んん? 知らない……のか……?」
「ああ、記憶喪失らしいからな。そういう設定だ」
「ふん。訳あり、か……なら、教えておけ。俺は……用意、しよう」
意思疎通は済んだとばかりに、ガウスは再度店の奥に行く。
フェレスは三珠に向き直り、少女へ解説した。
「フィールドってのは、その都市の経済区域のことだ。細かく言えば、この都市の周囲はエレーミア大陸南西、オロスフィールドエリアって言われんのさ」
「だから、フィールドなんですね?」
「そう。冒険者界隈で同じフィールドエリアにいた場合、依頼の効率化のために、外で手を組むこともあるから、わかりやすくそう言われるようになった」
「へえ、色々なんですね」
三珠が感心していると、店の奥からメジャーを持ったガウスが戻り、彼は三珠の前に立ち、どっしりと構える。大男がいきなり前に立ったのだ。さぞ、三珠は狼狽したことだろう。
ガウスを見上げ、呆気にとられる三珠の心情はよくわかった。
「手を……出せ……」
「えっ? なんですか?」
「いいから……出せ……」
黒光りしたサングラスに威圧され、はい! と怯えるように声を上げた三珠は、ぴんと背筋を伸ばす。緊張しているのが丸わかりだ。少女は大男に言われるがまま、右手を伸ばしていた。
ガウスは三珠の手首にメジャーを巻き、彼女の肌を擦る。
「細い、な……」
「えっ? はあ……」
「すべすべだ……」
「あっ、どうも。ありがとう、ございます?」
淡々と感想を述べるガウスの意図が読めなかったようで、三珠と彼の会話はかみ合っていない。まったく、どれだけ不器用なのか。見ているだけでもどかしい。
見かねたフェレスは、ガウスの親切心を代弁する。
「そいつ、三珠に防護系のバングルを作ってくれるつもりだぞ?」
「えっ? そうなんですか?」
「ああ……その、つもりだ……」
口ごもりつつ、ガウスが言う。フェレスはショーケース内の装飾品を指さした。
「装飾品には魔術に対する耐性や、物理防護系の結界を張る効果がある。フィールドをうろうろするなら、心強い味方だ。鎧なんかも使われるが、最近は防護魔術を組み込んだバングルの方が流行ってる」
「鎧は……重い、からな。それに、バングルは……カスタム製がある」
「バングルに複数の魔素結晶がはめ込めるが、その宝石の種類で魔術結界の効果が変化するんだ。宝石の付け外しもできて、おまけに見た目もいいから、女にはかなり人気なんだぞ?」
「最近はオーダーメイドの……依頼も多い……」
三珠の手首の採寸を終え、よくわかった、とガウスはメジャーを離す。
「銃剣の調整と、バングルの完成は……明日に、なる。それで……いいか……?」
「ああ、構わない。明日の午前中、仲介屋に届けてくれ」
「わかった。伝表は……受付に、渡して……おく。手数料は……もらうぞ……?」
もう用事は終わったという風に、ガウスは背を向ける。
が、フェレスは捨て台詞を残すように――
「しかし、採寸の時は傑作だったな。大の男が小娘相手に、何を緊張してるんだよ。どんだけ女が苦手なんだ、純情少年な大男のガウス君?」
「やはり、貴様は死ぬか……?」
皮肉屋のフェレスから挑発を受け、ガウスは腕の筋肉に青筋を立て、どっしりと構えた武器屋の男は数秒間、フェレスと向き合う。男たちの睨み合いを遠巻きに眺め、二人の喧嘩は仲がいい証拠なのかもしれないな、と三珠は思い直していた。




