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嘘つきは魔女のはじまり  作者: せりざわ。
羊は凶暴ではありません
9/13

「一生私の下僕よ」と魔女は宣言する

「リボンはまだですの?」


 放送室では白雪が優雅に紅茶を愉しんでいた。


「雪姫さま、いくらなんでも全生徒を巻き込むのはやりすぎでは?」


 親衛隊からの問いかけに白雪は目尻を吊り上げる。


「いいえ。相手は黒姫――撫子ちゃんですもの。これくらいしなくては」


 小指を立ててティーカップを傾ける。そこへ親衛隊のひとりが駆け込んできた。


「雪姫さまお逃げください、敵襲ですッ」

「敵襲ですって? あなた一体なにを寝ぼけたことを――」


 次の瞬間。ドド、という足音とともに羊たちの群れが放送室めがけて押し寄せてきた。羊たちをあおっているのは牧羊犬に変身したハレとフォークの先で羊たちの尻をつつく人間の撫子である。


「羊に対抗して牧羊犬と羊飼いですって。ふざけ、きゃあっ」


 狭い放送室はたちまち羊たちに覆いつくされ、親衛隊も白雪も身動きができなくなった。


「羊の毛で圧死するなんて御免ですわッ」


 顔に羊蹄をつけられながらもなんとか羊たちの間から顔を出した白雪。その鼻先にフォークの切っ先が向けられる。


「あ、あら撫子ちゃん。ごきげんよう」


 精いっぱい微笑んで見せるが、白雪を見下ろす撫子の眼差しは冷たい。


「お遊びも大概になさい、白雪。あなたが羊の皮をかぶった腹黒狼だということはよく分かっているわ。金に物を云わせて私と同じクラスになって、毎日のようにトイレまでストーカーしてきたわよね」

「だ、だって、撫子ちゃん。わたくしがこんなに想っているのに全然振り向いてくれないんだもの。そのうえ薔薇姫になんてなったら、もう独り占めできないと思って……」


 幼子のように震える白雪。撫子も気の毒に思ったのか、口端に笑みを浮かべて白雪の頭をそっと撫でた。


「安心して。私はだれのものにもならないわ。だけど」


 撫子の指が白雪の胸を乱暴に掴む。


「あん、撫子ちゃん、なに、を。いやです、羊たちが見ていますわ」


 白雪の喘ぎに構わず、撫子は指先に力を入れて白雪のリボンを剥ぎ取った。


「白雪、あんたは一生私の下僕よ」


 撫子が高らかに宣言する。この瞬間、ハレは確信した。撫子はドSだ。間違いない。

 牧羊犬に変身していたハレは、羊の群れの中でうめく人影に気づいた。軽く吠えて羊たちを追いやると、羊たちの下からひとりの少女が現れた。少女は弱々しく顔を上げる。


「あれぇ、なんか、雨宮くんに似た……変な犬」


(なんで、ここにいるんだよ)


 ハレは息を呑んだ。彼女の名は間宮真実。ハレの失恋相手である。

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