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嘘つきは魔女のはじまり  作者: 芹澤
薔薇姫戦線決着
10/13

「うそつき」と魔女は拗ねる

「雨宮くん、お疲れさま。危機を乗り越えたことをジュースで乾杯しましょう」


 放課後のファミレスである。ハレのグラスに撫子がグラスを合わせる。そこへもうひとつ、ためらいがちに紅茶のカップが合わされた。


「……なんで雪姫さんが?」


 ハレの胡乱げな眼差しに、白雪は誇らしげに胸を張る。真っ赤なリボンを奪われた白雪は、紺色の地味なリボンを結んでいた。


「わたくしはもう雪姫ではありません。白雪とお呼びください。ねー、お姉さま」


 撫子の腕にぎゅっとしがみつくも、邪魔、とあしらわれる。撫子はまたも巨大なステーキを注文して切り分けはじめたところだ。相変わらずのステーキ好きに苦笑いしつつ、ハレも自分が注文したナポリタンをフォークに巻きつける。


「雪姫派のリボン、全部譲り受けたんだってね。これなら薔薇姫になれるんじゃない?」


 ハレのセリフに、撫子がフォークを止める。


「実は、最終日を待たず、もうひとりの姫とリボンを賭けて対決しようと思うの」


 そう云ってフォークを握りなおしてステーキを口に運ぶ。突然のことにハレは返す言葉が見つからず、もぎゅもぎゅと激しく動く口元を茫然と見つめるしかなかった。


「挑戦状が届いたのよ。青姫から」


 そう云ってスマホの画面を見せてくれる。ハレは思わず二度見してしまった。というのも、ふたりの姫候補はラインでやり取りしていたのだ。


『明日の放課後バトらない? 学校の体育館で、サシで』


 という青姫の言葉に、撫子は『いいね』のスタンプを返している。魔女らしからぬ、非常に現実的なやりとりである。


「しかし青姫はかなりの手練れ。真っ向から挑んでも勝算は低い。ここはやはり闇討ちが得策ではないか?」


 突然割って入ってきたのは元紅姫のアリスだった。撫子とは仲直りしたらしく、間に白雪を挟んで闇討ち方法についてあれこれとアドバイスしている。


「ちょっと、お姉さまにくっつかないでくださいーッわたくしの場所ですッ」


 三つどもえの展開を横目に、ハレはアリスのリボン紛失について思い出していた。


「長谷川さん。リボンを無くしたって聞いたけど、だれかに奪われたの?」


 姫候補にとって重要な意味があるものなので、無くしただけとは考えにくい。ハレの問いかけに、アリスは眉根を寄せて腕を組む。


「なにせ気絶していたからな、詳しくは分からない。ただ、あたしの襟元に赤い染みが付着していたんだ。血ではない。リボンを奪った奴がつけたものだと思うのだが……と」


 そこまで云って、アリスはおもむろにハレの唇に手を伸ばしてきた。


「え、な、なに」

「いいから動くな。じっとしていろ」


 ハレの頬にそっと触れ、紙ナプキンを押し当ててなにかを拭う。


「ソースがついていたぞ。だらしがないな」


 アリスは笑いながら紙ナプキンを揺らす。その染みを見たハレはふと思った。アリスの襟についていたのはこんな色のものだろうか、と。


(んん? ナポリタンソースをつけた襲撃者ってことか?)


 思い悩むハレに撫子が声をかける。


「雨宮くん。聞いていた? 明日のこと」

「え、いや、ごめん。もう一度お願いします」


 すると撫子はかすかに微笑んでフォークを掲げた。宣誓のつもりらしい。


「私、必ず勝つわ。だから見に来てほしいの。騎士のあなたに」


 自信に満ちた言葉とは裏腹に、ハレは撫子のフォークの震えが気になった。相手はかなりの手練れだという。撫子だって怖いのだ、本当は。


(こういうとき、気の利いたことが云えたらいいんだけど)


「……うん、必ず行く。神原さんはきっと勝つよ。おれが保証する」


 悩みあぐねた末に口にしたのは、社交辞令のような言葉だった。情けない。そんな心中を察してか、じっとハレを見つめていた撫子は拗ねたようにそっぽを向いた。


「うそつき」

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