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嘘つきは魔女のはじまり  作者: せりざわ。
プロローグ
1/13

「世界に復讐する」と少年は誓う

「――嘘、だよな?」


 中学の卒業式。雨宮あまみや 晴彦はれひこ――通称ハレは卒業証書の入った筒を取り落としそうになった。花曇りの空には鳥の姿もなく、薄暗い中庭にはハレと笑顔の少女がいるだけだ。


「うん、だからね。私、ナス丘高校には進学しないの。あそこ制服がダサいでしょう? スカートの丈も長いしネクタイも可愛くないし。だから別の私立高校に行くことにしたの」


 はねた前髪をいじる同級生の間宮まみや 真実まみには、少しも悪びれた様子がない。


「だって約束したじゃないか。おれが同じ高校に合格したら、そしたら付き合ってくれるって。だからおれ、あんなに頑張って……」


 二年で同じクラスになったときから真実のことが好きだった。

 マイペースだが明るくて可愛い彼女にようやく想いを告げたのが半年前。進路を決める時期とあって、付き合う条件として提示されたのがナス丘高校(通称ナス高)に合格することだった。決して偏差値の高い学校ではないが、学年の最下位争いを誇っていたハレにとっては苦難の幕開けでもあった。

 真実のため、と長く苦しい受験勉強の果てようやく合格を報告したこの日。よもやこんな裏切りを受けるとは。

 ハレの喉元には苦いものがこみ上げてくる。


「……もしかして、嘘だったのか? 断るのが面倒だから、おれが受からないと思って体のいい嘘をついたのか?」


 ハレの問いに肯定も否定もせず、真実は肩をすくめて微笑んだ。肩口で切り揃えた髪がさらさらと風に揺れ、むきたての卵のような白い肌を撫でている。校内でも一、二を争うほどの美少女である真実の長い睫毛が震えるたび、瞳がキラキラと光る。

 本当に好きだった。

 だからこんなときでもハレの胸は熱くなるのだ。

 真実は小さな胸を隠すようにたっぷり息を吸い込んだあと、云った。


「――ごめんね。雨宮くんの顔、全っ然好みじゃないの」


 真実がスキップしながら立ち去る。ひとり残されたハレの心の中には、あとで食べようとポケットに大事にしまっておいたチョコパイを野良犬に奪い去られた幼い日のむなしさとやるせなさに似た混沌が渦巻いていた。


(嘘だと云ったら、なんでも許されるのかよ。なんでもアリなのかよ)


 『嘘』は凶器だ。殺傷能力の高い武器だ。

 だったら自分も同じ武器を手に取って、こんなにも自分をこんなに苦しめた世界に復讐してやる。そう心に誓った。

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