元勇者な姉と元魔王な妹・バレンタイン特別編
2月13日。バレンタイン前日になりました。今日は明日に備え、家の近くの書店で買った料理雑誌のバレンタイン特集を参考にしてチョコを作ります。私は雑誌を持つと部屋から出て、1階に向かいました。
「お母さん。チョコを作りたいのでキッチンを使ってもいいですか?」
1階に降りてリビングでテレビを観ていたお母さんに声を掛けます。
「チョコ?ああ。明日はバレンタインだったわね。誰にあげるの?」
「お父さんとお母さん。百合。それに美月ちゃん達ですね」
お母さんが少しニヤつきながら聞いてくるので、私はニッコリと笑って答えました。
「ふふ。ありがとう。いいわよ。気をつけて作るのよ?それにしても男の子じゃないのね」
お母さんは嬉しそうに微笑むとキッチンを使う許可を出してくれました。
「男の子ですか。うーん。そこまで親しい男の子もいないです」
お母さんの言葉に少し苦笑して言います。私には前世の記憶があり、前世では男でしかも異世界の勇者でした。この世界に女の子として生まれて7年程が経ちましたが、男の子と女の子どちらが好きかと問われても悩んでしまいます。
「そうね。菫はまだ小学生だもんね。恋愛は早いかもしれないわね」
「はい。では、頑張って作りますね」
お母さんに微笑んで言うと、私はキッチンに入りました。
キッチンに入ると事前に買って、冷蔵庫に入れておいた材料を取り出すと机に並べます。溶かしたチョコでドライフルーツをコーティングした物を作る事にしたので、机の上には板のミルクチョコと様々なドライフルーツがあります。私は湯煎に使うお湯を沸かすために、収納から鍋を取り出すと水を入れIHコンロに置いて電源を入れます。鍋と一緒に大きめのボウルと少し小さいボウルの2つも出しておきました。雑誌によると湯煎に使うお湯は50℃位が丁度良いとの事なので、踏み台に上がると温度計を鍋の中の水につけ50℃になるのを待ちます。
「50℃ですね」
水温が50℃になったので、IHコンロの電源を切ると両手で鍋を持つと慎重に踏み台から降りて机の上の大きめのボウルにお湯を注ぎます。半分くらい注ぐと、鍋を置いて小さいボウルをお湯に浮かべ、開封したミルクチョコを小さいボウルに入れてゴムベラ混ぜながら溶かしていきます。
「おお。綺麗に溶けました」
溶けたミルクチョコにバターを入れてよく混ぜてバターも溶かします。
「ふぅ。できました」
いよいよ。ドライフルーツをチョコでコーティングしていきます。私が用意したドライフルーツはイチゴとオレンジとリンゴです。それにチョコをつけて、オーブンペーパーの上に並べアラザンと言う砂糖でできた粒状の飾りでデコレーションすると冷蔵庫に入れて固まるのを待ちます。30分ほどで固まったので、ラッピングすると再び冷蔵庫に入れて溶けるのを防ぎます。これで、明日の準備は万全ですね。バレンタインの様なイベントは前世には無かったので明日。チョコを受け取った時の皆の反応が不安でもあり、楽しみでもあります。
2月14日。バレンタイン当日になりました。今日は日曜なので、朝のうちに両親と百合にチョコを渡し、美月ちゃん達には遊ぶときに渡す事にしています。この日の為に美月ちゃん達と遊ぶ約束を取り付けていました。
「姉上。楽しそうだの。何か良い事でもあったのか?」
朝食を済ませてリビングでテレビを観ていると百合が聞いてきました。どうやら、初めての手作りチョコを渡すのを楽しみにしているのが表情に出ていたみたいです。
「そうですね。これから起きるのですよ。待っててください」
私は微笑むとキッチンに向かい、冷蔵庫からラッピングされたチョコを3袋持ってきます。
「お父さんお母さん百合。私からのプレゼントです」
私がチョコを3人に手渡すと事情を知っているお母さんは微笑んで受け取りますが、お父さんと百合はポカンとしています。
「す、菫。なんで急にチョコを?」
「姉上。これが良い事なのか?」
訳がわからないといった表情を2人はしています。
「今日は何日?」
お母さんが苦笑してカレンダーを指で指しました。
「え?2月14日だけど…。ああ!?今日はバレンタインか!もしかして、菫が作ったのかい?」
お父さんは合点がいき、チョコの入った袋と私の顔との間で視線を往復させます。
「はい!と言っても溶かしたチョコでドライフルーツをコーティングしただけですが」
私は頷くと苦笑します。
「バレンタインとはなんなのだ?」
百合はまだ理解できない様で首を捻っています。
「バレンタインはですね。大好きな人に気持ちを込めたチョコを贈る日ですよ」
私が笑顔で言うと百合はみるみるうちに笑顔になりました。
「おお!そうかそう!そう言う日があるのだな。ふむ。つまり、姉上は父上と母上と我が大好きなのだな!当然。我も姉上が大好きだぞ!」
満面の笑顔になった百合は袋からチョコを取り出すと口に入れます。
「これが姉上の気持ちか!とても美味である」
百合はすごくいい笑顔で次々とチョコを食べてあっという間に完食してしまいました。
「うん。確かに美味しいね。お父さんも菫が大好きだよ」
「そうね。よく頑張ったわね。菫。お母さんも菫が大好きよ」
お父さんとお母さんも笑顔で喜んでくれています。お父さんとお母さん。百合に大好きと言ってもらえて私はとても幸せな気持ちになりました。
家族の評価が高い事に安心した私は美月ちゃん達が来るのを待ちます。10時頃にインターフォンが鳴り来客を告げます。私は1階に降りて玄関近くのモニターを観ます。そこには、美月ちゃんと弥生ちゃんと奈緒ちゃんの3人が映っていました。
「今。開けますね」
私はモニターの下にある通話ボタンを押して、3人に告げると鍵を開けてドアを開きます。
「おはようございます。今日は来てくれてありがとうございます」
私は玄関に入って来た3人に挨拶をします。
「おはよう」
「おう!おはよ」
「おはよー」
3人がそれぞれ挨拶を返し、靴を脱いで上がってきます。
「「「おじゃまします!」」」
階段の前で丁度。書斎からお父さんが出てきたので、3人は元気よく言ってお辞儀をしました。因みにお母さんと百合は買い物に出かけているので今は不在です。
「うん。よくきたね。いらっしゃい。ゆくっりして言ってね」
「はい!」
「おう!」
「うん!」
3人が笑顔で頷くのを優しい笑顔で見たお父さんはリビングに入っていきました。
「私の部屋にいきましょう」
私は階段を上がると自室に3人を迎えました。
部屋でボードゲームをしたり、会話を楽しんでいます。
「飲み物を取ってきますね。オレンジジュースしかないですがいいですか?」
飲み物を取りに行くと言うのは事実ですが本命はチョコです。
「うん。いいよ」
「俺もいいぜ」
「オレンジジュース好きだから大丈夫ー」
美月ちゃん奈緒ちゃん弥生は笑顔で頷きます。私はチョコとジュースを取りに、1階のキッチンに向かいました。
「誰か開けてください」
ジュースと4人ぶんのコップ。それに布で隠したチョコの入った袋がのったお盆を両手で持っていて、ドアが開けられないので中にいる3人に頼みます。
「おかえりー」
ドアを開けてくれたのは弥生ちゃんでした。
「ただいまです」
私は弥生ちゃんにお礼を言うと、お盆をテーブルに置いて座ります。
「その布の下にあるのなんだ?」
奈緒ちゃんが気づいて指を指します。
「これはですね。私から美月ちゃん奈緒ちゃん弥生ちゃんへのプレゼントですよ」
私が布を取るとチョコの入った袋が3つ出てきます。
「今日はバレンタインだったね。菫ちゃんが作ったの?」
美月ちゃんの問いに頷くと、お父さんに言った事と同じ事を言いました。
「それでも凄いよー。ありがとー」
「そうだな!俺は料理や菓子作りなんてできないから、できる菫は凄い!」
弥生ちゃんと奈緒ちゃんは笑顔で褒めてくれます。
「ありがとう。菫ちゃん。私も菫ちゃんの事。大好きだよ」
「私もー!」
「俺もだぞ!」
美月ちゃん弥生ちゃん奈緒が笑顔で言うのを聞いて、私は嬉しくなり少しウルっとします。大好きな家族と友達にチョコを渡し、喜んでもらえたばかりか、大好きだと言ってもらえた私は幸せ者だと実感しました。