表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/21

【17】さらわれました

「お嬢様っ‼ お嬢様っ‼」


ミーシェラに呼ばれ、揺さぶられて真理愛まりあは意識を戻した。


「ああっ! よかった」


「ここ、は?」


ミーシェラに抱きかかえられるように起き上がると、周りを見渡す。

部屋の調度品はどれも高そうで、アジトというよりはどこかの屋敷の客間のようだ。


「わかりません……転移魔法陣で連れてこられたようなんですが」


申し訳なさそうに目を伏せるミーシェラを見て、真理愛はひとり足りないことに気付いた。


「……ユノンちゃん……ユノンちゃんはどこっ‼」


ミーシェラは悲しそうに首を振る。


「ここには……檻の中に閉じ込められたまま、どこかへ」


「……っ!!」


真理愛は立ち上がり、部屋を出ていこうと扉に向かったところをミーシェラに止められる。


「お嬢様! お待ちください」


「なんでっ!? 探さなきゃ!」


「ここがどこかもわからないで、歩き回るのは危険です!」



危険だと言われ、一瞬真理愛はとまどった。

でも、あの時最後に見たユノンは苦しそうだった。助けに行かないと危ないかもしれない。


「大丈夫っ!! 私にはチートな魔法がある!! い、今まではいろいろアレでアレだったけど、でも、できるはず! ちゃんとしたらやれるはず! 今やらないで、いつやるの? 今でしょ!? ってああ、もうナチュラルに言っちゃったじゃん! 恥ずかしい!」


「うるさい!!」


興奮して大声で叫んでしまったせいか、扉の外で見張っていた兵が二人中に入ってきた。

黒い髪、赤い瞳、褐色の肌。


「魔族……」


ミーシェラが、真理愛を庇うように前に出る。


「うるさいぞ、ガキ。ダーヴィット様に言い付けられてるので傷はつけんが、暴れたり騒いだりするのなら拘束するぞ」


「おい、そっちの獣人の下女はいいんじゃねぇの?」


もうひとりの兵が下卑た笑みを浮かべた。


ミーシェラの身体がこわばったのに気付くと、真理愛はそっと安心させるよう手を握った。


(大丈夫、できる、できる……)


真理愛はすうっと息を吸った。



「我が怒りのままに、姿を変えたまえ、ゲロゲ~~ロ!!」



ぼふん、と音と共に二人の兵はカエルに変わる。


「ゲロ? ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ!!」


「ふん、王女様にキスでもしてもらったら、戻るかもね」


「ゲロ~~~~~~~!!」


真理愛たちは兵から武器を奪い軽量化と防御力を高め、全身に『バリア』の魔法を唱え、部屋を出た。



「ユノンちゃんへの道を示せ!! ガイダンス」


ピコン、と矢印が浮かび真理愛たちはそれに従って進んでいく。


途中、襲ってくる兵を片っ端からカエルに変えていく真理愛。

中には根性のある兵もいて、カエルになっても真理愛に飛び掛かってくる者もいるが、バリアの魔法に阻まれ、はじかれていった。


「ふわぁ~はっはっはっは! 無双じゃぁ~人がカエルのようだ~」


ミーシェラは、なぜ兵を無効化するのに眠らせたり麻痺させたりしないでカエルにするんだろうと思ったが、真理愛がやる気をみなぎらせているので黙っていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



魔法の矢印が、ある扉の前で点滅し『目的地ニ到着シマシタ』と音声が流れた。


「鍵よ開け! ピッキング!!」


扉が開き、中に入る。色々な薬品の混ざったにおい、カーテンは閉じられていて薄暗い。


「ユノンちゃん! どこ?」


真理愛が叫ぶとゆらりと人影が動いた。


「やぁ、ようこそ。案外早かったね」


そう言って、カーテンを開いた。


視界が明るくなり、そこには前髪をボサボサにおろしたダーヴィットが、不敵な笑みを浮かべていた。


「……ジェルド先生」


「ああ、僕は君たちの先生なんかじゃない」


「え?」


「僕の名はダーヴィット・マステマ、見ての通り魔術師だよ」


そう言って、煤けた魔導ローブをはおったダーヴィットはわざとらしく両手を広げた。


「そんな、じゃあ本物のジェルド先生は……」


「さぁねぇ? 今頃森の中で野獣のエサにでもなってるんじゃない?」


ひどい……、とミーシェラの小さくつぶやく声が響いた。


「ユノンちゃんは、どこ?」


「あのエルフかい? 死んではいないよ。まだ、ね。

でももう、死んじゃうかもね」


くくく、と笑った。


「なんで……こんなことするの?」


自分でも驚くくらい、低い声だと思った。

聞いても答えてくれないかもしれない。でも聞かずにいれなかった。


「なんでか、って?」


ダーヴィットの瞳が赤く光り、その揺らぎに真理愛が恐怖した瞬間、同時にバリアから伝わった衝撃で自分は攻撃されたことを知った。


「きゃあぁぁっ!」


「お嬢様っ!」


「ふん……本当に気に入らないね。魔法が使えないように封じて転移させたのに、なんで使えるの?」


やっぱり、と真理愛は思った。


「あなたが……」


言いようのない怒りが込み上げ、視界がにじむ。


「あ、な、た、……が、私をここにつれてきたの?」


オマエノセイダ オマエノセイダ オマエノセイダ


「そうだよ? 陛下に献上するためにね」



「け、んじょう?」


「そう、献上。可愛がってもらえるんじゃない? 最初のうちは。飽きたら殺されちゃうかもしんないけど、まぁしょうがないよね」


「なっ……そんな、そんな事してエルフ族がだまっているとでも?」


ミーシェラが、抗議の声を上げる。


オマエノセイデ オマエノセイデ オマエノセイデ


「はむかってくればいいさ、天使もエルフも魔族に滅ぼされればいい」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ」


キィィン!――キィィン!――キィィン!


光の矢を、何本も放つ。


しかし、ダーヴィットにはまったく当たらない。


(なんでぇ?なんで当たらないの? 当たれ、当たれ、当たれぇぇぇ!)


ダーヴィットの身体が一瞬掻き消え、見失ってふと視線がさまようと、その目の前に彼は再び現れた。


「ふむ、興奮するとそれしかできない。バリアはずれてますよ。馬鹿ですか?」


「……っ!?」


手の甲側全体で頬をぶたれ、真理愛は床に転がり、倒れた。



「お嬢様っ!!」


ミーシェラが、真理愛に覆いかぶさるようにかばう。


「ああ~主をかばう。美しいですねぇ……死んじゃえ」


ダーヴィットが手をかざすと、魔法陣が浮き上がり赤い文字がミーシェラに吸い込まれていく。


「あ、あ、ああああああああ」


「い、や」


ミーシェラの身体は痙攣したように震える。


「いや、やめて! 止めて! お願いだからぁ」


ミーシェラが小さくなっていく。


「いやぁぁぁ! ミーシェラアアアア!!」


ミーシェラは、白い猫になった。全身を震わせ、目を見開き、口を開き舌を出してハァハァと苦しそうだ。


「なんで? なんで? ミーシェラ、なんで猫になるの? ねぇミーシェラァ!」


「おや、知らないんですか? 獣人族は生命の危険に陥ると、獣形態になって生命維持を図るんですよ。最低限の生命力で済みますからね。でも、まぁ……こうなったら先は長くないですがね」


「ミーシェラ、ミーシェラ待って、待って、す、ぐ、うっぐ……すぐ治してあげる、から」


小さな猫になってしまったミーシェラに手をかざし、治癒魔法を放そうとする。


「させると思ってます?」


ダーヴィットは、再び魔方陣を出現させ、その文字で真理愛を拘束する。


「いやぁぁ! させてぇ! ミーシェラが死んじゃう!!」


「フ、ハハハ、お前は陛下に喰われ、奪われ、その力で同族が滅ぼされるんだ! いい気味だ! 俺の家族を、ラシルとキャナを殺した罰だ。ざまぁみろ! ハハハハ!……ハ、ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」


ダーヴィットがいきなり絶叫し、真理愛を拘束していた文字が消え、落下した。


床に打ち付けられる衝撃はなく、すぐに誰かが下になってかばってくれたと気付く。


その抱きしめられたぬくもりは、覚えている。


「スー、さん」


「やぁ……マリア、遅くなってごめんね」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「よかった、間に合ったか」


ステファルノに抱きかかえられてる真理愛を見て、ほっとしたアースフィアレストは、自身が切りつけた相手、ダーヴィットに向き直った。


「ききききききききさまぁぁぁぁぁ!!」


ダーヴィットは右腕を切られ、よろめいていた。

切られた断面は黒く、くすぶっている。


「この魔剣で切られた以上、腕はもうつながらない。あきらめろ」


「なめるなぁぁぁぁぁぁっ!」


切られて床に転がった腕が宙に浮かび、指から魔法陣が放たれる。


「な!? 馬鹿な!」


「あぶないっ!」


ステファルノが、アースフィアレストに結界を張る。


「ハハハハ魔導ローブを纏っていればこの身から離されたとて、操れるわっ!」


「ならば……その命そのもの、ほふってくれる」


「させるかぁ!!」


ダーヴィットが振り上げると、断たれた腕が宙に舞い、アースフィアレストの前を遮るように攻撃魔法を放つ。そのせいでなかなか近づけない。


「ちぃ!」


「――そこまでだ!!」


するどい声が、辺りに響き同時に大勢の騎士たちが、部屋の中に入ってきた。


「な! お前たちは……」


アースフィアレストは絶句した。


「アースフィアレスト卿、貴殿の行動を国家反逆罪とみなし、勾留いたします」


そこにいたのは、


カスタード王国、第三騎士団……アースフィアレストの同僚たちであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ