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【16】襲撃されました


カスタード王国第二王女ソフィーネと、その婚約者であるアースフィアレストが失踪したという噂はあっという間に広まり、色々な憶測が飛び交った。


特にひどいのが、真理愛まりあがアースフィアレストを誘惑し、ソフィーネ王女がそれを悲観して祖国へ帰ると、アースフィアレストは過ちに気付き、真実の愛に目覚めて追いかけていったらしい、という噂である。


(なにその少女漫画みたいな展開)


「マリア、誘惑したのか?」


「してません!」


ユノンの言葉に食い気味に突っ込む真理愛。


「お嬢様はそんな不埒ふらちな真似はいたしません!」


ミーシェラがぐっと胸を張る。


(おおう……嬉しいよ、嬉しいけどミーシェラ、そんなに胸を張らんでおくれ)


真理愛はフォローされたのにダメージを負ってしまった。


(それにしても、アースさんどうしちゃったのかな)


考えるとモヤモヤしてしまう。心配でたまらないのに、置き去りにされたような、ほっておかれたような怒りで責めてしまいたくなる。


(護衛だって言ってたのに……側にいるって言ってたのにな)


誰も何も教えてくれない。ステファルノもザーレッヘ先生も。

何か知ってるはずなのに。



「アースフィアレスト卿がそんなに気になりますか?」


「え?」


そこに立っていたのは、クラスの助手を務める、

アドリアン・ジェルド先生……


いや、その名前を語る、ダーヴィットだった。


「ああ……やっと、貴女に接触することができました」


(なに? この感覚、前にも味わったような……)


赤い瞳が本能的な恐怖を与え、真理愛は総毛立った。



ユノンが庇うように、真理愛の前に立つ。


「ジャマです。どきなさい」


「――やだ」


「殺しますよ?」


「だったら……殺す」


くくく、とダーヴィットは笑った。



「本当に……ジャマ、ですね」


言い終わらない内に、ダーヴィットの腕がしなる、

ユノンはかわし、後ろに一歩さがると飛び上がり、ナイフを投げつける。

ダーヴィットは上半身の動きだけでそれを避け、床をけり間合いをつめるとユノンの腹を殴り、逆の拳をこめかみに当て振り切るが、ユノンはそれを流し、床の上に転がりながら着地した。


「ふん、エルフふぜいが生意気な」


ダーヴィットが手をかざすと血のように赤い魔方陣がユノンの足元に浮かび、

黒いもやが彼女を覆った。


「ぐ、ぐ、ぐあぁぁぁぁっ!!」


「ユノンちゃんっ!!」


「闇の魔法陣ですよ。別名エルフのおりとも言います」


「いいネーミングでしょう?」とダーヴィットは再びくくく、と笑った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


――同時刻、学園長室


「やはり、アースフィアレストはカスタード王国に帰られたようですね」


「帰らされた、でしょう?」


ザーレッヘが届いた書簡に目を通してると、ステファルノが不機嫌さを隠さずにつぶやいた。


「これによると、魔剣の不法所持の件でまずいことになっているようです」


「……彼が許可を得ずに魔剣を持ち出すとは思えないんだけれど」


「そうですねぇ、魔剣がここにあったら不味い、という事でしょうねぇ」


ザーレッヘは顎をなで、考え込む。


「マスタァー! 危険! 危険なのです!」


ミミズクの形態のミィミィがバッサバッサと羽を広げて叫んだ。


すると


――パリィィン……という音と共に、警報が部屋中に鳴り響いた。


「なっ!! 結界が!」



(くそっ……やられたっ!!)


ステファルノは立ち上がり、部屋を飛び出した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


――カスタード王国、王宮 


ここに壅蔽ようへいの間と呼ばれる問題のあった王族や貴族などを、一時的に軟禁する部屋がある。

華美ではないがそれなりに良い造りの部屋で、見張りが常に張り付いていて行動の制限はあるが、面会は許可さえ下りれば自由だ。


アースフィアレストはここに閉じ込められてもう三日たっている。


最初は何の冗談かと思ったが、説明を受け自分はだまされたのだとようやく気付いた。

真理愛の護衛からはずされたのだ。魔剣を勝手に持ち出した、という疑いをかけられて。


誰が、何の為に……考えてもわからない。

ソフィーネは父であるロアール王太子殿下が便宜を図ってくれたと言っていたが、その意図がわからない。なぜ罠にはめるような真似をする……堂々めぐりの思考にはまっていると、扉が開き来客を告げた。


「兄上……」


そこにいたのは、兄のバルナルバーシュだった。


「ひどい顔をしてるな……まぁ無理もないが」


「一方的ですからね。腐りもします」


「すまんな。どうすることもできなかった」


バルナルバーシュが深いため息をつくとその気持ちをくんでアースフィアレストは首を振った。

きっと父も兄もいろいろ奔走してくれたのたろう。現に彼の顔色もあまり良くない。


「このタイミングでこの有様だからな。どう取り繕っても疑惑が晴れん。

陛下はエルフを……わが一族を敵に回すおつもりか」


マクスミリアン公爵家は代々エルフ族と親交が深い。

魔族と戦っていた時代も、元々はエルフのものだった魔剣を譲り受け

武勲を立てたおかげで父と母が結ばれ、今の地位があるのだ。


それに、今現在も自分は天使である真理愛に、命を助けてもらった恩もある。


「兄上、何があったのですか?」


「マリアが魔族にさらわれた」


「……っ!!」


アースフィアレストは今にも飛び出して行きたい気持ちを必死でおさえた。


我が国は何をしているのだろう。エルフ族との交流は陛下も望んではいたはずだ。

あまり肩入れし、魔族と再び事をかまえるつもりはないのは理解できる。

だが、故意に護衛をはずし、魔族に攫われても抗議もせず、傍観に徹する。

これではエルフ族に『人族は天使を見捨てた』と言われても仕方がない所業だ。


「兄上、ここを出ることは叶わないのですか?」


「ああ……父上はもちろん、母上も王弟殿下に頼んで何とか陛下に取りなしてはいるのだが」


バルナルバーシュは申し訳なさそうに言うと、眼鏡のブリッジを持ち上げた。


無力感がアースフィアレストを襲った。


(マリア、すまない……守ると言っておきながら、俺は……っ)


「……そんなところで何やってるの? アースフィアレスト」


「え……?」


顔を上げると、ステファルノが憮然とした表情で立っていた。

周りにいた見張りの兵は気絶してるのか倒れて動かない。


「カスタード王国への忠誠を選ぶなら、僕は何も言わない。ここで帰るよ」


「待ってくれ! ステファルノ」


アースフィアレストは立ち上がった。そして振り向き自分の兄を見た。


「兄上……俺、は」


「早く行け、アースフィアレスト。マリアに何かあったら、シュテファーニアにどんな目に合わせられるか知らんぞ」


バルナルバーシュは弟の肩を抱いた。


「はい。ありがとうございます」


礼をすると、アースフィアレストはステファルノの転移陣に乗って消えた。



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