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【15】授業なのです

「マリア……そ、その恰好は」


「へ? おかしいですか?」


エレメンタル学園の制服は、学校規定の濃紺のローブを着用していれば、中に何を着ても基本自由である。


なので真理愛まりあが中に着ているものは、高校の制服だ。

ブラウスに赤レジメンタルのリボンタイ、チャコールグレーのニットベスト、タータンチェックのスカートに紺のハイソックス……もちろん魔法で出した。

ちなみに真理愛の学校の制服である。これしか思い浮かばなかったのだ。


「……スカートが短すぎる……」


アースフィアレストは顔をしかめている。


確かにそうかもしれない。自分が元着ていたのはもっと長い丈だったが、今はどこぞのアイドル並みに短い。異世界補正だろうか。

ミーシェラはマキシ丈のおとなしめのワンピースだし、ユノンは五分丈のショートパンツにごついブーツを履いている。


「う~ん、とっても可愛いんだけどね。ちょっと殿方たちには目の毒かな?」


ステファルノが苦笑する。


「あ、大丈夫ですよ。見せパン履いてますから」


「なんだ? ミセパンとは」


「えっと……」


「マリア、それはアースフィアレストには言わない方がいい」


ステファルノは真剣な顔で真理愛を止めた。


結局、ハイソックスの代わりに黒のタイツにすると、アースフィアレストは渋々と納得した。お父さんみたいだな、と真理愛は思った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



教室に、先生が入ってきた。


「私が皆さんのクラスを担当します、ジャスミン・ウーメラです。

よろしくお願いしますね」


(ウサ耳の老婆……なんて斬新な)


シックでクラシカルなロングドレスにストール、きっちり結い上げた大き目のシニヨン。

上品な丸眼鏡、ぴんと立ったウサ耳。


(しかしこれはまたこれで……)


真理愛の小動物愛護センサー、別名モフレーダーが『コレモアリ! コレモアリ!』と鳴り響いている。


「そしてこちらが、このたび新しく赴任してきた、アドリアン・ジェルド先生です。慣れていただくまでこちらのクラスの助手をしていただきます」


「よろしく」


三十代くらいだろうか、黒い髪はなでつけられ、黒縁の眼鏡がその赤い瞳の印象強さをやわらげていて、褐色の肌に、おろしたての白衣がよく映えていた。


紹介されたジェルドを見ると、真理愛は急にえも言われぬ不安に襲われた。

会ったことがないはずなのに、会ったことがあるような。


「では、皆さんはすでに顔見知りであるとザーレッヘ学園長から伺っておりますが、一応私たち教師とは初対面なので自己紹介をしてもらいましょう。ではそちらの貴女から」


「ひゃ、ひゃいっ!」


いきなり指し棒を向けられ、真理愛は跳ねるような勢いで立ち上がった。


「まままままりあ・きたがわ、と、申します!」


「まままままりあ?」


ぶほぉっ!とアースフィアレストとステファルノが噴き出した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「それにしても、私たちだけでひとクラスなんて思わなかったです」


――ここは、エレメンタル魔法学園のカフェテラス。

真理愛、ミーシェラ、ユノン、ステファルノは同じテーブルで昼食をとっている。

アースフィアレスト、ソフィーネ王女と侍女二人は違うテーブルだ。


「8人でひとクラスって、ここじゃ普通だよ」


「そうなんですか~私の世界じゃ30人くらいいましたよ」


「そんなにいるのですか?」


ミーシェラが驚いている。


「はい……ってあれ? アースさんなんでここに?」


いつの間にかトレーを持って、真理愛たちのテーブルに移動してきたアースフィアレストは、当たり前のように隣の椅子に座った。


「……来てはいけなかったか?」


「いえ! じゃなくて、あの、その」


そう言いながら、ちらりとソフィーネ王女のテーブルを見る。

彼女の周りには数人の生徒が取り巻いていた。


「……向こうは騒がしくて、落ち着いて食べられない」


「さすが王女様だね」


ステファルノが棒読みで応えた。


(なななななんか、視線が痛い……めっちゃ見られてる)


ソフィーネ王女の侍女たちがこっちを睨んでいる。

一方的な敵意を隠そうともせず、まっすぐと放ってくる。


(う~~~やだなぁ~ああいうの気にしたくないのに)


「……ところで、午後からの授業なんだけど聞いてる?」


ステファルノが、空気を変えてくれて、真理愛はほっと息をついた。


「薬草学の実習だと聞いているが」


「え、じゃあマンドレイクの植え替えとかやるんですか?」


「マンドレイク?」


「引っこ抜くと、ギャーって叫んで、その声を聞いた人は発狂するんです」


「……なぜ、そんな危険な植物を抜かねばならないんだ……」


「えっと、私の世界で人気がある物語で、薬草実習といえば、マンドレイクなんです」


「……生徒を発狂させる物語が人気なのか?」


(アースさん……真面目か!)


つい心の中で突っ込んでしまった真理愛だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


結論から言うと、マンドレイクはなかった。

しかし、違うものがあった。


「びぃぃぃぃぇえぇぇぇぇぇっ!!」


今、真理愛が追いかけられているのは『トツ・ニューダイケ』という植物の実で、

この実は、採取されそうな気配を感じると枝葉から離れ、対象者に襲い掛かってくるのだ。

その実は接触すると自爆し、日本にいたら『どこのコンビニで強盗してきたんですか?』と聞かれてしまうほど、蛍光色の液体がその身に付着する。


「いいいいやあぁぁぁぁぁぁ~~~!!」

そのトツ・ニューダイケに真理愛は追いかけられて、温室の中を逃げ回っている。

1~2個爆発させたのか、身体のあちこちがピカピカと反射している。


「くっくっくっく……あんなにビクビク触ってたら、そりゃ追いかけられちゃうよね」


ステファルノは、追いかけられている真理愛を横目で見ながら、スパッスパッとに切れ目を入れていく。


トツ・ニューダイケの採取方法は簡単だ。ナイフで素早く切り込みを入れてからもぎ取ると観念するのか襲ってこない。逆におっかなびっくり触ったりしてたら、襲い掛かってくるのだ。


ちなみにこのトツ・ニューダイケの実には興奮作用があり、煎じると色々な薬の材料となるようである。


「次の採集は、こちらです」


獣人族の蝶系亜人のベニスカ先生が、背中に生えている優雅な桃色の羽を揺らしながら


たくさんのプランターが並んでいる薬草エリアに案内した。


「この、『サンシタ』という薬草は触れると罵倒してきます」


「はぁ?」


「……では、やってみましょう」


ベニスカ先生が、薬草の根本をつかむと


「テメーコノヤロウ! ナニスンダコラ! ブチコロサレテェノカ? アアン?」


「ひぇぇぇっ!」


野太い巻き舌で恫喝され、真理愛はミーシェラの腕に抱きついた。


「では、やってください。まずはマリアから」


「ひ……う、はい」


そろそろ、と手をのばし、指が根本にふれると


「アァッ? コラ、ザッケンナヨ! ドタマカチワッテヤンゾ!」


「びぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


「マリア、頑張って」


「お嬢様、相手は草です 気になさらず」


「危害は加えてこないから、安心しろ」


「早く引っこ抜け、その草オヤジ、ムカツク」


みんなが応援してくれている……いやユノンだけなぜか命令調だが。

真理愛はゴクリとのどを鳴らし、手を伸ばす。


「ヴォラァ! ヤンノカテメ! オォッコラ! シバクゾコラ!」


「ひぃぃぃ!」


涙目の真理愛を見て、ベニスカ先生ははぁっと息をついた。


「しょうがありませんね、じゃあユノンやってみてください」


ユノンは頷き、『サンシタ』に手を伸ばす。


「ナンダコラ、テメー!」


――ブチ


「ヤンノカテメコラ!」


――ブチ


「コ」


――ブチ


(……ユノンちゃん、やだ、かっこいい……)



「はい、よく出来ました、ユノン。……どうですか、マリアできますか?」


「は、はいっ! やります! がんばります」


真理愛は、ぐっと手を握りしめた。


(大丈夫、大丈夫、草、あれは草、草もどきに何を言われても私は動じない動じない)


はあっと息を吐いて、手を伸ばす。


「テメコノ! ツルペタ! ヒンニュウ!」


――ブチ ブチ ブチ ブチ ブチ ブチ


「マリア! 抜きすぎです」


「マリア! 落ち着いて!!」


「お嬢様!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「うぅ……全然できないよぉ~」


カフェテラスでお茶を飲んでいた真理愛は愚痴をこぼした。

先ほど、魔法の実技訓練を主なった際、的に全然当たらなかったからである。


「始まってからまだ三日だよ? いきなり出来るようにはならないさ」


そう、あれから三日たった。


エレメンタル学院の授業科目は多岐にわたる。そのめぐるましさに翻弄され、真理愛はクタクタだった。日本にいた頃の、空気扱いされていた高校生活とは大違いだ。


「思うのだが、マリアは的に当たらないんじゃなくて当てたくないんじゃないか?」


「あ、それは僕も思った。的が人型になると急に当たらなくなるよね」


アースフィアレストの指摘にステファルノが頷いた。


「う……それは」


確かにその通りだった。木の板で出来た的とか、わらで出来たカカシのような的なら良かったのだが、魔法で出された人間の映像が的になると、なかなか当てることができない。無意識に避けてしまうのだ。


「まぁ、ああいうのは慣れだからな。そう気にしなくてもいい」


(……慣れたくないなぁ……)


真理愛が心の中でそうつぶやくと、ステファルノがなだめるように、軽く頭をたたいた。


「アースフィアレスト様、今よろしいでしょうか?」


声のした方を向くと、ソフィーネ王女の侍女が思いつめた表情で立っていた。


「……なにか?」


「あの、ソフィーネ様が大事な用があるとの事で、よろしければご同行願いたいのですが」


「ソフィーネが?」


アースフィアレストは、侍女と一緒にその場を後にした。


――そして、


アースフィアレストは戻ってこなかった。



翌日、真理愛たちは、


アースフィアレストがソフィーネ王女と共に行方不明になった、と知らされたのだった。



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