【11】魔法学園につきました
「エレメンタル魔法学園によぉ~~~こそぅっ!!」
バッサバッサ、と羽ばたきながらフクロウが目の前まで飛んできて
可愛らしい少女の声で挨拶の口上を述べると、
今度は真理愛の頭の周りを旋回した。
(フ、フフフクロウがしゃべった!?)
「フクロウじゃないよ。マリア、それはミミズクっていうんだ」
(ふぁっ?)
いきなり呼び捨てにされて、視線を向けると
そこには17か18歳くらいのエルフ族の美青年がにっこりと微笑んでいた。
その顔には非常に見覚えがある。
「……え? もしかして……スーさん?」
「うん」
「え? なんで大きくなってるの?」
「ふふ、じゃあなんで君は髪と瞳の色を変えてるの?」
「えぇ……全然違うよ」
「違わなくないよ」
(そういう問題じゃないと思うんだけどなぁ~……でもここにいる皆、スルーしてるし、これって常識なの?エルフって何者? てか、スーさんがイケメン過ぎてつらい)
ふふっと笑うと青年ステファルノは手を差し出した。
「久しぶり、マリア。また会えて嬉しいよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
中立国であるアルドラ王国は人族の王が統べているが、
『人族』『魔族』『獣族』含めた多種多様な民族が、平等に暮らしている珍しい国である。
その国にある教育機関、エレメンタル魔法学園は全寮制の寄宿学校。
歴史はあるが自由な校風と学習内容の水準の高さで、
各国から生徒が集まってくる名門校だ。
真理愛とアースフィアレスト、ステファルノの三人は
フクロウ……もとい、ミミズクに案内されて、学園長室へと向かっている。
ちなみにミーシェラは寮の部屋に先に行ってもらい
荷解きや片付けなどをしてもらっている。
「ねぇスーさん」
「なんだい、マリア」
「ドウシテ ココニイルノ?」
「……そういえば、言ってなかったねぇ」
ブンブンと首を縦に振った。
「僕もこの学園に編入学することになったんだ」
「え! だってスーさんってゴヒャクサ…………ムガッ!」
ステファルノが睨むと、風の魔法が真理愛の口に小さくまとわりついてふさいだ。
「え? ゴヒャクサ?」
怪訝そうに聞き返すアースフィアレストをスルーして、ステファルノは続けた。
「この学校は優秀であるなら種族、年齢、身分は問わないからね。
だからこそ、アースフィアレスト卿も編入できたんでしょ?」
「え?アースさんも、入学するの?」
「ああ、常に側にいないと護衛にならないからな」
「……すごく、今更なんだけどアースさんって何歳なんですか?」
「17だ」
「ふお! タメじゃないっすか!」
「……ため?」
アースフィアレストが眉をひそめ、ステファルノがプフっと吹き出し、ミミズクは首をかしげている。
「タタタタタメって、その、タメって、そう、ダメって言ったの!」
「なにがダメなんだ?」
「いや、アースさんはダメじゃないです」
「じゃあ何がダメなんだ」
「いや、その」
ステファルノはそのやり取りをニヤニヤとすごく楽しそうに見ていたが、
扉の前につくとコホン、と小さく咳払いをした。
「ついたね。ここが学園長室だ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「マ~スタァ~~! 連れてきましたですよ。褒めて、褒めてぇ~」
ノックをして扉を開けると、バッサバッサと羽ばたきながらミミズクが中に入っていった。
「ぬほ~っ! ミィミィちゃん偉かったでちゅねぇ~よくできたでちゅねぇ~」
(ヘ……ヘンタイだ……変態が中にいる)
真理愛は戦慄した。
その中年男はひとしきりミミズクを撫でさすり、
ムホーとかコフーとか変な呼吸をしていたが、落ち着くとゆっくりと振り返った。
深い海のような濃紺の瞳、レンガ色の長い髪の毛はなでつけるように後ろに流し、
細かいビーズのような装飾がついた紐で一本にしばっている。
柔和そうな微笑みを常にたたえ、刻まれた皺も歩んできた人生を感じさせ、
一瞬にして人を無防備にさせる不思議な魅力を持っている。
「ようこそ、エレメンタル魔法学園へ。歓迎しますよ。
私が、学園長のラジナハール・フォン・ザーレッヘと申します」
「あーっ」
「これはこれは、マリア嬢お久しぶりです。『ポテチのぴざちーずあじ』楽しみにしておりましたですよ」
そこにいたのは、かつてセルラ家でお世話になってた際、ポテチを食べに来ていた
……じゃない、講師として来てくれていたザーレッヘ先生だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――ところ変わり、
ここはアースフィアレストの実家がある、カスタード王国の王宮。
執務室に呼び出された、宰相のパルミド・フォン・ザーニリアは
度重なるストレスで胃が痛みが癒えることがなく、
眉間の皺がより深くなるばかりだった。
「陛下、お呼びですか?」
ノックをし、部屋に入るとそこには
執務机に座り、頭を抱えて机に突っ伏している王と、
憮然とした……というより膨れっ面といったほうが正しい表情をした
カスタード王国第二王女、ソフィーネがいた。
宰相はゴクリと息を飲んだ。キリキリと胃が痛い。
「……聞いたか? パルミド、魔剣のことを」
「は、はい。陛下、マクスミリオン公爵閣下が、
王宮の宝物庫に保管されている、魔剣の帯刀と抜刀許可を申請してこられたとか。
しかしそれは閣議の結果、却下されたと記憶にありますが」
「うむ、それがな……」
「はい」
「ソフィーネがアースフィアレスト卿に貸渡したらしい」
「……なんですとー!」
「だってだってお祖父様!
元々あの剣は、マクスミリオン公爵家に代々伝わるものだったはずよっ‼」
「うぅむ、しかしだな」
「確かにあの剣は強力で危険な武器なのは知っておりました。
だからこそ公爵閣下も、王宮に保管することで忠誠を示してたということも」
「だったらなぜ……」
「それなのに必要だと言うのなら、きっとこれから危険なことが起こるかもしれないと思ったの。
もし、アースフィアレスト様に何かあったら私……」
ソフィーネは顔を覆い、感極まったように身体を震わせた。
「し、しかし恐れながら……ソフィーネ王女でもさすがに宝物庫へは」
「……息子が許可を出したらしい」
「…………」
「あやつは本当に家族に甘すぎる……」
「…………」
宰相の胃の痛みが最大限に達した。
古の時代から『魔を屠るもの』として
マクスミリオン公爵家に代々伝わる『魔剣』
それを帯刀している騎士が天使を護衛していると魔族に知られたら、
敵対しますからねと言ってるのと同義ではないか……
王と宰相が、どう収拾をつけるか考えをめぐらせていると
もう立ち直ったのか、妙に高揚とした声でソフィーネは
とんでもないことを告げた。
「そういうわけで、お祖父さま私アースフィアレスト様が心配なので
エレメンタル魔法学園に留学することに決めました」
「そ、それはまさか」
「ええ、お父様のお許しは得てますわ」
ソフィーネはニッコリと微笑んだ。
「だって、婚約者ですもの。お側におりませんと」
王と宰相は、真っ白な灰になった。
※フクロウ・ミミズクは羽音を立てない種類が多いですが、まれに昆虫や魚を食べる種で羽音を立てるのがいるそうです。ミィミィちゃんは肉食系ww